本日のコラムでは、新規事業提案制度の運用のコツについてお伝えします。制度としては社内に浸透し、根付いてきているものの、もう少しテコ入れをしていきたいとお考えの担当者の方へ、お役に立つ情報をお届けします。
数年実施してきた新規事業提案制度が「盛り上がらなくなってきた」ときの、原因分析と対処法について考察していきたいと思います。
「盛り上がっていない」と判断する要素は量と質の2つ
新規事業提案制度を運用している事務局の皆様が、「盛り上がらなくなってきたな」と感じたら、その直感は多くの場合正しいです。そのときにチェックすべき点は2つしかありません。応募の量と、通過した案件の質です。これ以外の観点を探そうとすると、社員のモチベーションや風土醸成など、測定しにくい・解決しにくい要素が出てきてしまい、原因もよくわからないので社員にヒアリングしてみようとか、意識調査してみようとか、どんどん新規事業開発から離れていってしまいがちなので、注意が必要です。
量と質をチェックする方法について見ていきます。量は、そのまま応募数をカウントすることです。職種別や社歴別で割合を見てみることもあるでしょうが、大した示唆は出ませんのでやめておきましょう。経年で見て減少傾向にあり、企業規模からいっても物足りないと感じるようであれば、テコ入れしましょう。
質については、入口(エントリー時点)ではなく出口(最終審査)で見るのがポイントです。よくありがちなのが応募案件のすべてを見て評価するケースですが、それはやめておきましょう。玉石混交ある提案を数十件見て全体の質を語るのは、相当な目利き力であり、大半の方には難しいですあ。事務局にとって、すべての提案が社員一人ひとりの魂のこめられたものですから、全体をざっくり見て質を語るのではなく、一件一件に愛情をもって接することをおすすめします。
これらを見たうえで、改善策を打たないといけないと感じた場合には、まず量からアプローチしていきましょう。
実は『量』はある程度コントロールできる
応募数が物足りないと判断した場合、これは比較的、手が打ちやすいです。時間と手間と費用を掛ければ何とかなります。おそらく、数年間運営されてきた新規事業提案制度の場合、初年度よりワークショップやセミナーなどの応募喚起を促すイベントが減ってきているのではないでしょうか。極めつけは、応募開始のタイミングで行っていた説明会を文書発信だけに簡略化したりしていませんか?
対応策はシンプルに、応募前の段階において、新規事業提案制度を周知するためのイベントを増やしましょう。「初年度は盛り上がっていたけど最近何やっているのか知らないな」などと言っている社員の方々が、「おっ、また今年もこの季節がやってきなあ。今年はひとつ応募してみようかな」などと言い出すような状態に持っていくことがゴールです。
施策の種類や効果は、事例としていくつかまとめてみましたのでご覧ください。
本当に欲しいのは『質』。『質の向上』のためにできること
続いて、質に対してアプローチする部分です。最終審査を通過した案件を見て、飛び地が少ないとか、テクノロジー系が欲しいとか、今どきはSaaSだとか、経営陣から所感が得られると思いますので、それをふまえて傾向と対策を考えましょう。
特定のテーマや領域について強化したい場合には、それに関する情報発信や自社の取組み事例などをオープンにしていくことで、それが呼び水となり提案が上がってくることを期待できます。例えば、自動運転に関して既に社内でR&Dの取り組みが進んでいたとして、それを知った社員が「それができるなら!」と介護施設の送迎に活用するサービスを思いつく、といった具合です。
テクノロジーやビジネスモデルなどは知識として知らないと考える術がありませんから、セミナーや情報発信を地道に打っていくことになります。意外と興味を持っていた若手が集まったり、危機感を持ったベテラン社員が関心を示してくれるかもしれません。ここでのポイントは、心理的ハードルを極力下げることです。記事 / セミナーのタイトルを「今さら聞けない〇〇とは」、「1時間でわかる〇〇」など、ポップに仕立ててあげるとよいです。
質を考えるときに難しいのが、ビジネスとして小粒なものが多いケースです。どんなに成長しても数億の売上規模では大企業の新規事業としては心許ないでしょう。実際はやってみないと分からないとはいえ、事業として大きくしていく絵が描けない提案が多い場合は、一次審査通過後にマネタイズやビジネスモデルについて幅広く検討する機会を設けるのがおすすめです。B2Bで考えていたビジネスをB2Cに展開するスキームまで拡げる、市場をグローバルで設定するなど、風呂敷を拡げるパターンはいくつかあります。要は見せ方の問題でもあるので、視野の拡げ方を教わる機会があるとよいです。
このように、質を上げるための活動は地道なものが多いです。弱い部分をきちんと埋めていくことで成果が上がってきますので、短期的な効果を期待しすぎずに進めていきましょう。意図をもって施策を打っていくことが肝心です。
実は目指しているのは風土作り?制度を止めるべき時もある
さてここまで、量と質について考察してきました。あらためて事務局に皆様に考えていただきたいのは、最終的に何を目指して新規事業提案制度を運用しているかです。
色々な狙いがあると思いますので、バリューグラフを使って整理していきます。
いかがでしょうか。あらためて抽象化して整理してみると、御社の新規事業提案制度はどのレイヤーを目指していますか?現時点でどのレイヤーまで到達できていると思いますか?
制度が盛り上がらなくなってきたと感じたら、自社が目指すゴールと現時点の到達点を再度チェックしてみると、新たな発見があるかもしれません。
上記のバリューグラフを見てみると、おそらく多くの企業様が行きつく先は風土醸成になるはずです。なぜなら、全社員から募っているのは全社員に新規事業を考えて欲しいからです。中には、サイバーエージェント社のように事業創出にコミットするために社内から公募することを止めて経営陣が起案することにしたケースもあります。
(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1802/19/news026.html、2004年から10年継続した後に中止、2017年に名前と仕組を変えて復活しています。)
風土はなかなか可視化・定量化することが難しいですが、人事部が測定している従業員満足度やエンゲージメントのサーベイを活用したり、日々の社員の会話から読み取ることもできるはずです。ぜひ、社員の皆さんと何気ない会話をしてみてください。
もし風土が根付いていると判断すれば、新規事業提案制度を休止することを検討してもよいかもしれません。きっと究極の形は、制度なんかなくても思いついた人がどんどん経営陣に提案していく形ですよね。
本日は、新規事業提案制度が盛り上がらなくなってきたと感じたら、量と質をチェックしながら、制度そのもののゴールと現在地を確認しましょうというコラムでした。「うちは全然まだまだ道半ばですよ」と謙遜する事務局の方が多いですが、案外そんなことないかもしれませんので、ぜひフェアに見てみてあげてください。
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