新規事業創出を推進する部署の方から、「新規事業創出を任せる人は、誰に任せるべきなのか、どう考えたらよいか」、「どのような組織体制で、新規事業創出を行っていくべきか」といったご相談をいただくことがあります。
新規事業創出を行う人に必要なスキルに関する記事は、別の機会で書き起こしたいと思っておりますが、「どういう立場のどういう人に任せるべきか」、もしくは、「どのような組織体制で役割分担して新規事業創出を行っていくべきなのか」ということについて本記事で整理して考えたいと思います。
起案する人と実行する人を分けて考える
最初に整理して考えなければいけないことは、以下の点になります。
- 新規事業を起案するのは誰か
- 新規事業を実行するのは誰か
起案する人と実行する人、それぞれどういう立場の人に任せるべきなのかを考える必要があります。
新規事業創出の取り組みにおいて、成果がなかなか出ないという企業では、「起案するのは誰か」というところで試行錯誤されていることが多いです。新規事業創出の取り組みが充実している企業では、「実行する」フェーズで問題が発生して、工夫し始めているところをお見受けするようになりました。
会社の中に「起案」するスキル・マインドがある人はどこにいるのか
まずは、「新規事業を起案するのは誰か」について掘り下げて考えたいと思います。どのように整理して考えるとよいのかと言うと、
以上の観点で整理して考えることがよいでしょう。
過去に投稿した記事、「企業が『新しく事業をつくろう』と考えたときに、やるべきことをどう整理したらよいか」にて、検討・決定することが最も難しいポイントとして紹介しましたが、「誰が」新規事業に取り組むのかという点は、選択肢が複数存在して、且つ、定石のようなものはなく、会社の風土などに関係して各企業によってフィットする / しないが大きく分かれるので、非常に検討・決定しづらい点になります。
また、上記のいずれかのパターンを選択したとして、その社員が新規事業創出の活動に割く稼働として、
- 100%の稼働を費やすのか / 一部の稼働を費やすのか
- 一部の稼働の場合、どれくらいの割合で稼働するか
についても考える必要があるため、考えるべき観点が多く複雑になり、より検討・決定が行いにくくなります。
本人の意志に任せるべきか、会社が指名するべきか - メリット・デメリットを比較してみる
選択肢が多いので、極端な例を2つ挙げてみて、メリットとデメリットを整理、比較することで、それぞれの選択肢の良し悪しを理解していただこうと思います。
「新規事業を起案するのは誰か」を整理して考え、それぞれの選択肢が新規事業創出の活動としてどのような施策になるかを例示したものが以上の図になります。
この図の中で、右上と左下の例を取り上げて、整理・比較したいと思います。
右上は、例えば、「全社に20%ルールを導入して、新規事業創出に挑戦したい人が、新規事業提案制度に応募して、いつでも参加できるチャンスがある」パターンと、左下の「新規事業創出に関する専任の部署の人が、100%の稼働で新規事業創出の活動を行う」パターンで、メリット / デメリットを整理して考えます。
上記の選択肢の①について解説します。
理想的には、新規事業創出の活動は、手を挙げてやりたいという社員に任せるのがよいと考えます。新規事業創出に関する活動は困難が多いため、「チャレンジするんだ」というマインドがセットされていないと頑張りきれないことは十二分に起こりえます。
もちろん、デメリットもあります。新規事業に対して興味・関心の高い社員が多くない(手があまり挙がらない)企業では、新規事業創出にチャレンジする気にさせて、手を挙げてもらうために、手を替え品を替え施策を打たなければならなくなります。新規事業の代名詞とも言えるリクルートグループのような会社でない限り、新規事業創出に対する挑戦について社員から多く手が挙がるという会社はそう多くなく、なかなか手が挙がってこないという相談を受けることが多いです。ちなみに、あのリクルートグループですら、例えば、新規事業提案制度の審査員にホリエモンやロンドンブーツ1号2号の淳を呼ぶなど、イベントとして盛り上げて行うことで、新規事業創出にチャレンジすることへの興味関心をひくための施策を行っています。
一方で、指名された社員が新規事業において業績をあげている(正確には、下記のグラフを解釈すると、手を挙げてやりたいという社員よりも極端に低いことはない)というデータもあるので、手を挙げてやりたいという社員に任せることが絶対よいとは言い切れないところが判断を難しくさせます。指名された社員も、新規事業創出の活動を行っていくうちに、興味関心が高まり、使命感を感じ、その気になっていくということも十分にあるようです。グラフを補足する説明の文章にも書かれておりますが、実行する段階で起こることのほうが結果への影響が強いということです。この点については、この後の「新規事業を実行するのは誰か」にて触れたいと思います。
続いて、選択肢②について解説します。
決められた部署の社員が取り組むほうが、新規事業創出に対しての稼働を確保しやすい(100%稼働までは難しいとしても、感覚的ですが、少なくとも30%以上の稼働を確保できることは多いように思われます)ため、結果として、物事を進めるスピードを早めやすいというメリットがあります。
一方で、どのような経緯でこの部署に社員が異動してくるかということによって、社員のマインドセットがどのようになっているかというところが気になるところです。ローテーションの一貫として異動することもあれば(それはそれで、異動した本人は不安)、新規事業創出を任せる背景があってその期待を説明された上で異動することもあれば(不安は多少あっても、期待されていることはモチベーションアップにつながる)、新規事業創出・開発専任の部署にも手を挙げた人が異動するなど、経緯は各社で色々あるかと思います。一つ言えることは、新規事業創出に向き / 不向きは多少ありますが、それは知識・スキル・経験というより、マインドの部分が大きく影響するので、マインドの部分を重視するとよいでしょう。
新規事業創出に必要な知識・スキル・経験を十二分に備えているという人はまれなので、選択肢①にしても、②にしても、組織として、新規事業創出が進むようなサポート(知識・スキルを習得できる場を設けるなど)を行っていく必要があります。
以上のように、メリット / デメリットを考えていただいた上で、どちらのほうが「自社の雰囲気にフィットしそうか」という観点で考えていただくことが重要になります。もしくは、少し考え方を変えてみて、「デメリットを上手く回避できそうな選択肢はどれか」という観点で考えてみるとフィットするか否かを考えやすいかもしれません。
成功のカギは、小さく始めること
選択肢が色々とある中で、いずれの施策を実施し始めるにしても、小さく始めることをおすすめします。
専任の部署を設置して100%稼働できる社員に任せるにしても、新規事業提案制度を設けて全社員に取り組む機会をつくるにしても、大々的に施策を始めてしまうと、新規事業創出の成果がなかなか出ない(普通、なかなか成果が出ない)ことに対して、「ほれ見たことか」と言わんばかりに、新規事業創出の活動に対する反発が強くなってしまうこともあります。
従いまして、いずれの施策から実施するにしても、小さく始めて、早くに小さい実績をつくって、実績が出たことを社内でアピールしていくことで、「専任の部署に異動したい」、もしくは、「新規事業提案制度に自分も参加してみたい」という人を徐々に増やしていくことをイメージしながら、施策の検討を進め、実際に施策を実施する際でも意識して取り組んでいただくことが重要かと思います。
そして、そもそもの前提の話になってしまいますが、いずれの施策を行うにしても、やり切ることが重要になってきます。小さく始めるにしても、大々的に始めたとしても、またどのような施策の内容だとしても、必ず何かしらの大変さが存在します。新規事業創出は成果がなかなか出にくい取り組みになりますので、「成果が出なければ、別の方法を試して、やり方を変えながら」でも「継続的に行う」ということを、誰かしらが責任を持って行うことが重要になります。
「起案する」人と「実行する」人は、同じがいいのか、違うほうがいいのか
話が変わって、
- 新規事業を実行するのは誰か
という点についても考えたいと思います。
新規事業創出の取り組みが充実している企業では、起案された案件が意思決定者の承認を得て実行するフェーズにいくつも来ていて、そこで問題が生じていることが多いです。
この点については、
- 新規事業を起案した人が実行するのか(新たな部署を立ち上げる) / 実行する人は別なのか(既存の部署に引き継ぐ)
という観点で考える必要があります。
起案した人がそのまま実行することのメリットはあるものの、なかなか立ち上がらない傾向にあります。
実行する人を、起案した人と別にすることで、スピード感を持って対応できるメリットはあるものの、その案件について本腰入れて取り組まない、もしくは、そもそも受け取ってくれる事業部が見つからない、というケースも多く発生していて、物事がうまく進まないという話も伺います。
工夫している企業は、新規事業創出の起案を行う時点で、事業部門をうまく巻き込んで取り組みを行っています。具体的には、新規事業創出に関して興味関心の高い事業部門が、興味関心の高い領域に関するテーマを提示して、他の部門の社員の方々が、その範囲に関する新しい事業(場合によっては、新しい製品・サービスという規模)を起案するチャンスを設けるという施策を行っています。
既存の事業部門が、自分たちの部門で責任持って実行していきたいという範囲での提案となるので、起案した内容が承認されて実行するというフェーズになった時に、ヒト・モノ・カネのリソースを活用して立ち上げに積極的になり、上手く進められています。
ちなみに、その企業では、起案した人は、本人の希望があれば、提案先の事業部門に異動することも可能というルールを設けています。
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