越境学習とその効果、事例

近年、日本のビジネス環境は目まぐるしい変化が続いており、企業にとってもビジネスモデルの見直しや変革、さらには新たな事業の迅速な創出が求められるようになりました。しかし、企業それぞれがもつ技術や知見、経験だけでは対応が追い付かない場合も多いため、各社員が様々なスキル・経験を得るための人材育成の重要性が高まっています。

企業にとって大きな課題の1つとなる人材育成については、現在、「越境学習」が注目を集めていますが、越境学習とはいったいどのような育成手法なのか疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、越境学習について詳しく解説し、越境学習を企業が取り入れた際の効果や実際の事例も交えてご紹介していきたいと思います。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。


目次

越境学習とは何か

「越境学習」とは、他社への出向、もしくは社会人大学院入学などで、実際の勤務先以外の『越境:何らかの線を越えた』場所にて行う学習や体験のことを指しています。

越境学習の「越境」とは、境界線や国境を越えるという意味があり、これには心理的な境界も含まれます。越境学習を行うことにより、文化や習慣、また異なる価値観や考え方などを持つ人々とコミュニケーションをとったり、一緒に働いたりすることができるため、それによって発生する様々な葛藤や経験・体験などを得ることができます。


ビジネスパーソンにとって越境学習の重要性、越境学習の形態

現代社会で働くビジネスパーソンにとって越境学習の重要性は非常に高いものとなっています。

イノベーション創出は現代のビジネスパーソンにとって必要不可欠な概念となっており、企業にとっても大きな課題ですが、個人のもつ創造力やマニュアルを超えてイノベーションを創り出すには、新しい知見や技術、ビジネスモデルなどについての継続的な学習が欠かせません。そのため、自社に籍を置きながらも、他の知見を得られる越境学習に注目が集まっているのです。

また、越境学習と聞くと、他企業へ出向する形態をイメージする人が多いと思いますが、越境学習の形態は様々な形態に変化を続けています。

例えば、普段は商社に従事する人が介護業界にレンタル移籍をしたり、都心の企業に勤めている人が土日などの休暇を利用して田舎で農作業を学んだりなども越境学習にあたります。


越境学習の効果

ビジネスパーソンが越境学習を行うことでどのような効果があるのでしょうか。ここでは、大きくわけて3つの効果について解説します。

ビジネススキルの向上

越境学習は、自社内だけでは知ることができなかった自身の適性や価値観の認識をする良い機会になります。

例えば、専門領域ではない組織を経験することで自分自身の意外な強みに気づく場合もありますし、逆に得意分野であったはずのことが社外では通用しないことに気づき葛藤することがあるかもしれません。

一つの企業の枠内だけにとらわれた考え方に傾倒するのではなく、広い知見や様々なノウハウを学び、取り入れることでおのずとビジネススキルが向上します。

社外ネットワーク構築

越境学習での社外のネットワーク構築は、この取り組みにおいての大きな付加価値となります。

越境学習では、自社で接する機会のない人たちとの関わり合いが発生するため、自然と新しいネットワークが形成されます。社外の人材と交流を行うことで自身のネットワークをよりボーダレスなものにできるでしょう。

クリエイティブな解決策の発見

越境学習を行うことによって、解決策の多様性が広がっていきます。様々な企業や場所でイノベーションの種を吸収することによってアイデア創出の幅が広がり、問題解決における選択肢が増えていきます。今まで気がつかなかったクリエイティブな解決策を発見できるようになるでしょう。


越境学習の事例

越境学習は、企業が主導となって行うものと個人が主導となって行うものがあります。ここでは、両方の事例をご紹介します。

【事例1:企業主導】

“越境学習では、『個の自律的なキャリア形成』に加え、『個と組織の多様性』を狙いとしています。自社内の経験や価値観にとどまらず、社外・人とのつながりを通じて新たな視点や価値観が得られ、また、さまざまな価値観をもつ人財を受け入れることで、組織の多様性受容にもつなげています。

具体的には、2019年に「留職プログラム制度」をスタート、2020年には「副業」を解禁し、同時に外部からの副業受け入れも開始しました(グループ内副業件数:105件※)。

2022年、2023年には企業間で相互に副業に取り組む「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」に参画。また、2022年8月に設立された「人的資本経営コンソーシアム」にも参画し、経済産業省・金融庁の支援の下、日本企業の持続的価値向上に向けて「人的資本経営」の推進に取り組んでいきます。

2020年7月〜2022年12月 許可数(キリンホールディングス、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの4社勤務者)”

出典:キリンホールディングスHPより

【事例2:個人主導】 

あるビジネスパーソンは、もともと地方創生について興味を持っており、休日は地方に通い地域イベントや田植え体験などのボランティアを積極的に行っていました。その活動の中で地域おこし協力隊と交流を持つようになり、一緒に町おこしをするための共同プロジェクトを立ち上げるなど、ワーケーションにとどまらない活動を続けています。

越境学習によって人的ネットワークが広がり、課題解決に向ける突破力が向上したAさんは、学んだことを活かして本業でも熱心にイノベーションの創造を行っておられます。


越境学習の将来展望

既存事業の改善や新規事業開発には、与えられた課題をこなす人材ではなく、問題に対する意識や志に基づいた課題に自身で気づく視座を持つ人材が必要です。そういった人材が、自社を拠点として社外とも越境し、積極的にコラボレーションを推進することで、企業としての価値も上がっていきます。

また、日本政府も越境学習について推し進めており、経済産業省が平成30年度に行った『我が国産業における人材力強化に向けた研究会』においては、越境学習の重要性が明記されました。また同省では、『越境学習のガイドライン』として、イノベーション推進人材の育成施策を作成して公開しています。

経済産業省と金融庁が支援して設立された「人的資本経営コンソーシアム」では、その取り組みの1つに参加企業間での相互の兼業人材受け入れが構想される等、企業においても、越境学習導入が検討されています。


まとめ

本記事では、越境学習とその効果、事例について解説しました。今や越境学習は、現代社会で働くビジネスパーソンにとって非常に重要な取り組みとなっています。

越境学習には、ビジネススキルの向上やネットワーク構築、クリエイティブな解決策の発見などの効果が期待されており、実際の事例を見てもその効果は様々であることがわかります。

また、日本政府も越境学習を推進する取り組みを続けており、今後も企業もしくは個人での越境学習への関心度は高まっていくことでしょう。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

目次