昨今、多くの会社では「科学に基づいた」人事が大きなテーマのひとつになっています。その中で最も基本になるのは『経験学習サイクル』という考え方です。これは、個人にとっても組織にとっても重要な考え方です。今回は、この『経験学習サイクル』について解説します。
経験学習サイクルとは?
「経験学習」とは、アメリカのデイビッド・A・コルブ氏が提唱した学習理論です。
デイビッド・A・コルブ氏は、教育理論家や組織行動学者であると同時に、学習システム株式会社EBLSの創設者兼会長、ウェザーヘッド経営大学院などの名誉教授を勤めた人物です。
コルブ氏が提唱した「経験学習」の理論では、資料や書籍、実際に経験したことをもとに具体的な振り返りを実施し、なぜ失敗したのか、あるいはなぜ成功したのかを分析し、考えて次に活かすことの重要性を主張しています。「いかにして経験から学びとっていくか」という4つのプロセスを概念化したものが経験学習サイクルになります。
経験学習サイクルの4つのプロセス
ここでは、経験学習サイクルで行う4つのプロセスを順に解説していきます。
- 具体的経験(Concrete Experience)
最初のプロセスである具体的経験とは、「自らが考える→自らの考えで動く→動いた結果を自分のなかに落とし込む」というステップを指しています。この時に重要なことは「実体験」です。実際に体験をすることで、その体験のなかからさまざまな気づきが得られますが、体験していないにもかかわらず、さも体験したように解釈や判断してしまうのは間違いです。そのため、現場に足を運んだり、実際に手に取ったり、自らの目で見て事実確認をおこなったりする現場主義の行動が必要となります。 - 内省的観察(Reflective Observation)
次のプロセスは内省的観察です。内省的観察で重要なことは、経験したことをさまざまな視点や立場から多角的に振り返ることです。失敗や成功だけに意識をおくのではなく、その原因や背景について俯瞰的な考えで考察します。 - 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
三つめのプロセスは抽象的概念化です。抽象的概念化とは、経験した結果を内省し観察したものを他のケースでも応用して使えるように概念化することを指します。せっかく得られた経験を自分のものだけで終わらせるのではなく、自分以外の人もその概念を使えるように教訓化することが重要です。そのためには既存の理論と、経験から導き出された自らの考えを照合し、既存の理論をオリジナルの理論に昇華させる作業が必要です。 - 能動的実験(Active Experimentation)
最後のプロセスは能動的実験です。能動的実験とは、抽象的概念化で導き出したオリジナルの理論や教訓を実践することを指します。経験学習で大事なことは、経験のなかで得られた学びを、同じく経験のなかで活かすことです。たとえ、能動的実験を行うなかで失敗が生じても、これまで経験してきたプロセスを繰り返せば少しずつ成功へと近付けることができるはずです。
経験学習サイクルを理解しておくべき理由
大人(特に、ビジネスパーソン)にとって、経験学習サイクルを理解したうえでそれを意識的に回すことは非常に大きな意味を持ちます。
どうしてかというと、経験学習サイクルを理論的に捉えて学ぶだけでは、本当の学びにはならないからです。頭のなかだけで理解するのではなく、実際に行動に移し、その行動した経験から学ぶことが効率よくサイクルを回せるようになる近道となります。
そのうえで重要なことは、「やりっぱなし」にはせずに、そこから『汎用的な、他でも使える学び』を得ることです。これを心がけることで、他の場面でも経験サイクルの応用が利かせられるようになります。
もし、理解しないまま経験学習サイクルを行うと「やりっぱなし」や「繰り返し同じミスをする」、「応用が効かない」といったマイナスな現象が引き起こされる可能性があります。
経験学習サイクルを実践する10のアイディア
今回、ChatGPTに経験学習サイクルを実施するためのアイディアを聞いてみたので、その内容を挙げておくので、参考にしてください
- 定期的なフィードバックミーティング:上司や同僚から定期的にフィードバックを受ける機会を設け、自分のパフォーマンスについての内省を促進します。内省的観察(Reflective Observation)
- 学習ノートへの記録:日々の業務で学んだことや気づいたことをノートに記録し、定期的に見返す習慣をつけます。内省的観察(Reflective Observation)
- 新しい業務のローテーション:チームメンバーが異なる役割やタスクを経験する機会を設けることで、さまざまなスキルを学びます。具体的経験(Concrete Experience)
- 問題解決ワークショップ:チームで現実の問題を取り上げ、解決策を考え実験するワークショップを定期的に開催します。能動的実験(Active Experimentation)
- メンタリングプログラム:経験豊富な社員が新入社員や若手社員を指導し、リアルタイムでフィードバックを提供するメンタリングプログラムを導入します。具体的経験(Concrete Experience)および内省的観察(Reflective Observation)
- ケーススタディの分析:実際の事例を用いて、何が起こったのか、どうすれば改善できるのかをチームで討議します。内省的観察(Reflective Observation)および抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
- オンラインコースやセミナーの受講:新しい知識を得るために、オンラインコースやセミナーに参加し、学んだことを実際の業務で試してみます。抽象的概念化(Abstract Conceptualization)および具体的経験(Concrete Experience)
- クロスファンクショナルチームの形成:異なる部署のメンバーが協力してプロジェクトを進めることで、多様な視点からの学習を促進します。具体的経験(Concrete Experience)
- アイディアの実験と検証:新しいアイディアを思いついたら、小規模な実験を行い、その結果を観察しフィードバックを得て改善するサイクルを繰り返します。能動的実験(Active Experimentation)
- プロジェクト後の振り返りセッション:プロジェクトが終了した後にチームで集まり、何がうまくいったのか、何が課題だったのかを共有し、次回に向けた改善点を話し合います。内省的観察(Reflective Observation)
まとめ
今回は『大人の学習』の基礎理論としてデイビッド・A・コルブ氏が提唱する「経験学習サイクル」についてご紹介しました。
経験学習サイクルには4つのプロセスがあり、それを繰り返し行うことでさまざまな場面で応用がきかせられるようになります。また、経験学習サイクルで重要なことは、内容を理解するだけではなく、実際に行動に移し、その行動から学びを得ることです。
もし、興味のある方は下記の本を参考にしてみてください。
『最強の経験学』
学生時代とは違い、大人になるとなかなか学びを得る時間と余裕が少なくなりますが、今回ご紹介した「経験学習サイクル」は実際の生活や仕事のなかでも活用できるものです。ぜひ、トライしてみてください。
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