
弊社では、10年先を見据えた研究開発のテーマ探索、新規事業創出を行いたいけど上手く進まないという大手企業の研究開発・技術開発部門や新規事業開発部門をご支援することが多くあります。しかしながら、「10年先を見据える」必要があるにも関わらず、そのための活動が行えていないケースを見受けます。今回は、将来を見据えた活動ために知っておくとよい考え方について取り上げたいと思います。
先が読めない時代だからこそ、未来予測が求められる
今はVUCAの時代と言われることが当たり前になりつつあります。VUCAという言葉をご存知の方は多いと思いますが、改めて記載すると、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という言葉の頭文字をまとめたもので、つまり先が読みにくい時代になったということです。このことは皆さんも実感を持たれると思います。新型コロナウイルスの影響で、まさかここまでリモートワークやオンラインでのコミュニケーションが普及するとは思ってもいなかったですよね。地球温暖化の影響で、これだけの自然災害(洪水や熱波など)が起こるようになったのも急激な変化です。他にも、インターネットによってこれだけ世界がつながった一方で、分断が進む世界となって、新たな戦争が勃発することなど想定外のことでした。
先が読みにくい時代になったからこそ、未来を予測することが重要になってきます。しかしながら、大前提として、未来を完全に予測するということはできないということは理解しておく必要があります。当たり前のように聞こえますが、「未来予測」という言葉を聞くと、「完全に予測できるのですか?」と質問される人もいて、「未来予測」という言葉には過剰な期待を抱かせる可能性があるようです。したがって、「未来予測」という言葉は、注意して使わなければなりません。その前提の上で、未来を予測するときに必要な考え方は、「色々な選択肢を考えておく必要がある」ということです。
「色々な選択肢を考えておく」ということを、もう少し説明しておきますと、未来のことを考える有識者の方々の考え方の一つとしては、極端な選択肢(例えば、選択肢Aと選択肢B)を考えて、それぞれでどのような可能性があるかを考えておく(選択肢Aではどんな状況になるか、選択肢Bではどんな状況になるか)と、その選択肢の間のどこかにあるような状況が実現されるであろうから、その状況に向けて準備ができるということだそうです。例えば、弊社がこれからの働き方を考えて、オフィスの場所や形態をどうしようか考えるときに、「選択肢A : 弊社のお客様である大企業で働く人は、これから都心部に集約されていく」なのか、「選択肢B : 弊社のお客様である大企業で働く人は、地方に分散して働く人が増える」なのかによって、弊社のあり方も変わってくるので、極端な選択肢のそれぞれでどのような世の中になるのかを考えておくと、その間のどこかにあるような世の中が実現されて、準備がしやすくなるということです。
未来予測とシナリオプラニング
ビジネスの世界の中で、「未来予測」ということに関連して用いられる手法としてメジャーなものと言えば、
・シナリオプランニング
という手法があります。前出で「色々な選択肢を考えておく」という考え方がありましたが、まさにその選択肢を考える際に、どのような情報をもとにして、どのような手順で、どのように考えるとよいかということをプロセスにした思考法と言ってよいでしょう。

上記の手順だけを見ると、大変難しそうですよね。実際、なかなか難しいです。弊社がお客様のプロジェクトをご支援する場合でも、数ヶ月間かけてプロジェクトを行うようなものになります。詳細をご理解いただくためには分厚い書籍が一冊分くらいの情報量が必要ですので、今回は概要のみでも知っていただけるよう、以下に簡易的に記しておきます。
「①シナリオテーマ設定」では「何年後のどういう地域の何について考えるか」というテーマ設定を行って、「②外部環境要因リサーチ」ではテーマに関係する情報(例えば、PEST分析で扱うような情報)を収集し、「③重要な環境要因の抽出」では収集した情報の中で影響が大きい要素の抽出を行います。
上記の実施後、「④ベースシナリオ作成」「⑤複数シナリオ作成」「⑥シナリオ詳細分析」といった過程で、実際に、これからの世の中(例えば、人々の生活や技術の進展など)がどのように変わる可能性があるのか、その選択肢を考えることになります。影響が大きく、且つ、不確実性の高い(つまり、どっちに転ぶか読めないようなもの)要素によって、右に行くのか、左に行くのか、可能性が大きく分かれるようなことを、2×2の4象限で考えることで、考えの選択肢を広げておくというわけです。そして、これからの世の中がこうなるのではないかということを書き記したものが「シナリオ」と呼ばれるものになります。4象限のそれぞれでシナリオが作成されるので、4つの未来の世の中の可能性を表現することになります。

シナリオが作成されたら終わりではなく、ここからが重要で、4つの未来の可能性の中で、自社としてどのようなことを行うべきか検討するプロセスが、「⑦戦略オプション検討」となります。

シナリオプランニングによって、実施にどのようなシナリオが書かれるのか気になるかと思います。業界の中で有名なのは、横河電機様が取り組まれているシナリオプランニングの内容が充実していて、情報開示されておりますので、参考にしていただければと思います。
<参考>
https://web-material3.yokogawa.com/19/36764/overview/Future_scenario_2040_Shaping_Horizons_of_Uncertainty_Yokogawa_JP.pdf?_ga=2.79983127.1870549668.1740908967-1136703123.1740908967
また、最近「未来予測」に関連して耳にするようになったのが、「SF思考」や「SFプロトタイピング」という考え方・手法になります。以下は、SF思考を用いて未来を想像するワークショップの進め方の一つになります。

これから確立されていく分野のように感じますが、基本的な考え方としては、未来というのは、人間が考えた世界に近づいていく、逆に言えば、人間が想像できないものは実現されないということです。
SF(サイエンス・フィクション)を読もう
未来が、人間が考えた世界に近づいていくのであれば、すでに考えられている未来を知っておくと、これからの世の中がどうなるかの参考になるでしょう。前出でSF(サイエンス・フィクション)という言葉が出てきましたが、まさに、SFを読むことは未来を想像する上で、大変参考となるわけです。
日本で言えば、藤子・F・不二雄氏が描かれた漫画・アニメ「ドラえもん」や星新一氏の小説、鉄腕アトムやガンダムなどが、我々が幼い頃から身近なものになりますね。この手のものは挙げ始めたらきりがないですが、世界的なもので言えば、古典的にはアイザック・アシモフの著書にあるようなものから、映画で言えば、スター・ウォーズやバック・トゥ・ザ・フューチャー、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」など、様々ありますので、参考になる情報は多くあるわけです。
最近話題になったのは、OpenAIが発表したAIモデル「GPT-4o」が、会話・対話の機能が向上したAIとして提供されるようになったことで、2013年に公開された映画『her/世界でひとつの彼女』に出てくる人工知能の「サマンサ」と比較され、インターネット上で記事になりました。この映画を称賛してきたOpenAIのCEOサム・アルトマンは、「GPT-4o」の発表後にソーシャルメディアの「X」(旧Twitter)にこの映画のタイトルを投稿し、それもまた話題になりました。
他にも、未来予測の界隈で話題になっているのは、Netflix版ドラマで注目を浴びた劉慈欣氏の小説「三体」です。超大作なので、未来を考える要素は色々と出てくるのですが、その中で一つ挙げるとすると、人間が普通に生きていて耐えられないような寒暖差が起こる世界になって、それに対応するために、人間が意図的に干からびて寒暖が激しい時代を冬眠するような形でやりすごして、穏やかな気候になったら復活するという話が出てきます。すごい想像力だなと思って読んでいましたが、すでに現在において、理化学研究所で人工冬眠が研究されていることを知って、そんな世の中も意外に遠くなく、実現する可能性もあるのだなと感心しました。
<参考>
https://www.riken.jp/pr/closeup/2023/20230118_1/index.html
未来予測と言われると難しくて取り組みにくい(そもそも、完全に予測するということはできない)かもしれませんが、まずは、身近なSFの世界に触れてみることから始めてみてもよいかもしれませんね。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士