以前投稿した記事「『新しい事業』を生み出すためには、どのような組織で誰が取り組むべきなのか?」にて、「新規事業創出を任せる人は、誰に任せるべきなのか、どう考えたらよいか」という問いに対して回答しましたが、今回は、具体的に、「新規事業創出を行う人に必要な知識・スキル、マインド」について書きたいと思います。
新規事業を創出するために求められる知識・スキルは、幅広い
新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインドを整理すると以下になります。
新規事業を創出するためには、幅広い知識が必要となり、また、既存業務を遂行することとは異なるようなスキルも求められます。
知識に関しては、まず、ビジネス全般について、幅広く知識を得ている必要があります。新規事業を創出するためには、最終的には、「誰に対して」「どのような価値を提供し」「どのようなビジネスモデルで」「どのようなサプライチェーンで」「どれくらいの規模のビジネスをつくりあげるのか」ということを考えられなければならず、事業や戦略、マーケティングなどに関する知識が必要となります。
次に、ビジネスを行う上では、BtoBとBtoCのいずれにしても、顧客に製品やサービスを購入してもらわなければならないので、顧客に対して深い理解を持つことが重要になります。イノベーターと言われる人は、顧客に提供する製品やサービスを検討する前に、
- 顧客にとっての重要な課題が何かを、幅広く探索する
- 課題を深く理解する
ということに多くの時間を費やすことを大事にしています。
顧客に対しての深い理解(ニーズの把握)だけでなく、そのニーズに応えるために必要な技術(シーズ)に関しても知識を持ち合わせている必要があります。新たな解決策を発想するためには、自社や自身が所有している技術領域だけでなく、隣接した分野からも知識を得る必要があります。
また、新規事業を創出するためには、検討した内容を具体的に形にするために必要なプロセス、そして各プロセスで何を行うべきなのかについても詳しく理解しておく必要があります。一般的な新規事業創出のプロセスだけでなく、社内特有のプロセスについても理解しておくことが求められます。
上記の知識を活用して、新規事業を企画して、具体的な事業の形をつくるところまで進めるためには、様々なスキルも必要となります。
顧客や顧客が属している市場に対しての理解を深めて、その中でどのような問題があるかを発見する力が必要となります。問題を発見したら、次に、問題を解決するために、技術なども活用しながら、どのような解決策がありうるかを創造する力が必要となります。解決策を考えたら、その内容が顧客に受け入れられるかを検証するために、解決策を何かしらの形にして(企画書を作成したり、プロトタイプを作成したりする)、顧客となりうる人たちと頻繁に接触を試みて、市場への適合性を確認する能力が求められます。これらの内容を進めるためには、社内外のネットワークを構築して、人を巻き込んで物事を前に進めていく力も必要となります。
知識・スキルだけでなく、マインドも重要
新規事業創出は、困難が多く、すぐに結果が出るということは稀です。したがって、知識・スキルがあればすぐに結果が出るわけではないため、ベースとなる意欲・態度についても備わっていることが重要となります。
困難の多い新規事業創出に立ち向かうためには、前提として、モチベーションが高く前向きに取り組み、結果が出るまであきらめない忍耐力が重要となります。それにあわせて、興味関心が広く、興味があるところに深く飛び込んでいく好奇心も大事です。また、自分で考え、自分で学び、全体を見通す自立心や、自分のアイディアやプロジェクトに対する自信も持ち合わせていたほうが良いです。一方で、チームや企業、さらには顧客まで巻き込む必要があるため、全員に共通する価値観を尊重する精神もなければなりません。
また、最後に、事業の成功を最優先に考える心構えも重要となります。モチベーション高く、やりたいことがある、自分のアイディアに自信を持つことも重要なのですが、技術なりアイディアなりは、事業を実現するための手段の一つでしかないので、そこにこだわりすぎてしまわないことも重要です。譲れないことと譲れることを切り分けて考える柔軟性も必要なります。その柔軟性を養うためには、抽象度を上げたり下げたりして、自身が考えていることを起点にして、本当に成し遂げたいことが何なのかを考えるとよいでしょう。
能力は、個人でどうにかするのではなく「会社が補う」、「チームの中で補う」ことを考える
ここまで読んでいただいて、上記の知識・スキルを全て持ち合わせていて、且つ、マインドもセットされている社員を自社内で探すのは不可能だと感じる方がほとんどだと思います。それどころか、探すのが不可能というより、そんな社員は自社内に存在しないと感じるのが普通でしょう。
ビジネスの世界全体を見渡しても、全てを備えた人は希少です。つまり、自社内に全てを備えた人は存在しないと考えるべきです。そうなると、別の方法で補うしかありません。
補完する方法は、以下の3つの選択肢が考えられます。同時並行で複数の選択肢を実行することもできるので、新規事業創出の活動を加速させたければ、以下の3つをいかに同時に実行するかを考えることが重要です。
① マインドを持っている社員が、トレーニングを行って、知識・スキルを向上させる
② 新規事業創出の活動をチームで行うことで、お互いの不足している知識・スキルを補い合う
③ 推進する立場の人が、環境整備を行うことで、新規事業創出を行う人の活動を後押しする
①について補足すると、上記の「新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインド」の中で挙げられた、
a. ビジネス(事業や戦略、マーケティング)に関する知識
b. 顧客に関する知識
e. 問題を発見する力(質問力、観察力、俯瞰して見る(システム思考)力)
f. 創造力(関連づける力)
g. リスクを考えつつ、試してみる力(リスクの選択能力、実験力)
は、トレーニングすることで向上させることが可能です。
具体的なトレーニングプログラムとしては、例えば、
- マーケティング(顧客への提供価値、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング、価格設定、市場規模の想定、顧客検証など)
- デザイン思考(観察、発想、プロトタイピング)
- システム思考
- 技術シーズ発想
- ビジネスプランニング
などといったプログラムとして確立されています。魔法の杖はないですが、まずは知識として会得し、繰り返し使うことでスキルとして使いこなせるようになることは可能です。
②については、「多様性のあるチームが、ブレークスルーしたアイディアを生み出すことができる」といった論文(Lee Fleming, Harvard Business Review, Vol.82,Issue 9, Sep2004)も書かれているくらいですので、新しいものを生み出していくのに、チームで行ったほうがいいと理解されている方も多いでしょう。とは言え、多様であれば何でも良いというわけではなく、「新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインド」に挙げられている内容に関してそれぞれ得意な人がチームとして集まることで、新しいことを生み出しやすくなるわけです。
特に、「新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインド」の中で挙げられたもののうち、
c. (複数の)技術分野における知識
i. 基本的な技術能力
については、一朝一夕で身につけられるものではないため、技術的な知識・能力が必要なプロジェクトであれば、多様性のあるチームの中に、その技術に関して詳しい人をメンバーに入れるべきでしょう。
③に関しては、上記で整理した「新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインド」の中の
d. (新しい事業、製品・サービスを生み出すための)プロセスに関する知識
h. 人的ネットワークを活用する力(社内政治のスキル、ネットワーク力)
k. 好奇心や感覚を大事にして、人と違った見方をする(現状に異を唱える)
m. リスクを取ることができる。また、うまくいかなくても忍耐する力がある
n. 事業の成功を最優先に考える(技術は、あくまで手段と考える)
を、推進する立場の人が環境整備(社内の制度や新規事業に関する組織体制・プロセス、社内の風土醸成の施策など)することで補完できる可能性が十分にあります。
新規事業創出を行う人(起案者)の活動がよりスムーズになるために、推進する立場の人(推進者)が行える環境整備は、以下のようなことが挙げられます。
- 新規事業創出のプロセスにおいて、意思決定者に提示するべき情報として何が必要で、どういう活動を行うと良い結果が出やすいかを、推進者から起案者に伝える
- 新規事業の案件が評価される基準を明確にする、調整する(例えば、自社の保有している技術が活用されることを必須とする / しないなど)
- 新規事業創出のプロセスを進めるにあたって必要な人的ネットワーク(社内外いずれも)を、推進者が起案者に紹介することで、起案者が必要としている情報が得られる、もしくは、必要としている労力を得られる
- 既存事業とは別の組織・ルールを設けることで、起案者が既存事業の人に潰されることなく、意見ができたり、行動ができたり、チャレンジすることができる
『リーダー』がプロジェクト成功の要。チームの中心となる人に求められること
「新規事業を創出する人材に求められる知識・スキル、マインド」の中で、いくつかの項目については補完する方法があることを述べました。補完できる対象となっていない残った項目は以下になります。
j. モチベーションが高い
l. 自信があり、自立している。一方で、チーム・関係者の価値観も尊重する
つまり、新規事業創出するためのチーム・プロジェクトの中心となる人(特に、起案者)に求められることは、新規事業創出に対してやる気があり、チームメンバーと上手くプロジェクトを進められることになります。また、補完する方法①で述べたように、現時点で知識・スキルがなくても、トレーニングして向上させる気概があることは必要になります。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士