新規事業の案件・プロジェクトが停滞したときに、どのように対応するとよいか?(後編)

前回、「新規事業の案件・プロジェクトが停滞したときに、どのように対応するとよいか?(前編)」という記事で、

  • 新規事業の案件・プロジェクトが停滞する原因
  • その原因を解決するために手を打つことの重要性

をご紹介しました。

今回は、後編ということで、具体的にどのようなことを行えばいいのか、注意しなければならない点は何かをご紹介したいと思います。


目次

顧客候補とのコミュニケーションを増やす

顧客候補とのコミュニケーションを増やすといっても、どれくらい多くの接点を持つべきかの目安がないと分かりにくいと思います。マーケティングリサーチの世界で言われている目安の一つとしては、

  • 顧客に検証する際、強い反応を受け取ることが重要で、わずか5人の顧客インタビューのサンプルで十分

とも言われております。

ただし、強い反応を受け取ることができる顧客インタビューが5人分になりますので、5人にインタビューすればいいわけではありません。当然、反応の薄い対象にインタビューすることもありますので、インタビューの母数を確保するために5人の何倍もインタビューを行わなければなりません。こちらも、マーケティングリサーチの世界で言われている目安の一つでは、  

  • 4~6週間で3060人にインタビューする

とも言われております。強い反応がある顧客候補5人に出会うには、その510倍くらいはインタビューを行わなければならないということです。

上記を実施するにあたっての注意点として、新規事業創出プロセスの初期段階では、 

  • 1つの顧客セグメントに対して「価値提案」を変更して何度もインタビューするよりも、複数の顧客セグメントに様々な「価値提案」を試すほうがいい

と言われております。従って、一つの「価値提案」に関して、顧客検証の時間をだらだらと設けず、46週間という短い期間に区切りをつけて、色々なセグメントの顧客候補にインタビューを行ったほうがよいでしょう。

また、顧客候補とのコミュニケーションを増やすためには、単純に多く接点を持つというだけでなく、新規事業創出プロセスの初期段階からコミュニケーションを取ることが重要になります。よくある間違いとして、ビジネスプラン(事業計画)がある程度完成してから顧客候補へのインタビューを開始するという企業がありますが、これは避けたほうがよいでしょう。理由としては、ビジネスプラン(事業計画)が細かく煮詰められていなくても、アイディアの段階で顧客候補と接点を持ち、コミュニケーションを取ったほうが、アイディアの内容がイマイチだった場合(顧客候補の反応が薄かった場合)に手戻りが少なく、早めに方向転換することが可能になるからです。


顧客候補とコミュニケーションする際の工夫

顧客候補と接点を持ちコミュニケーションを行うにあたっては、以下のように工夫するべき点があります。

(1)アンケートやグループインタビューではなく、デプスインタビュー(※1)を行う
(2)初期の段階では、顧客の「課題」を確認する(ソリューションがいかに受け入れられるかの確認ではない)
(3)「リーンスタートアップ方式(※2)」「アジャイル開発(その手法の一つであるスクラム)」の手法やノウハウを活用する
(4)アイディアの段階でも、簡易的なビジネスプランを検討しておく

1 : 「デプスインタビューとは?(インテージ社)
2 : 「リーンスタートアップ(Wikipedia)」 

(1)(2)については、詳細は以下の図に記載しておりますが、新規事業創出プロセスの初期段階では、顧客と深くコミュニケーションすることが重要になるため、デプスインタビューが適切ということになります。また、同じく初期段階では、顧客候補にソリューションを説明してその反応を見るのではなく、顧客候補の課題に注目して、その課題への理解を深めるために顧客候補の話をよく聞くことが重要になります。

(3)については、すでにここまでお話した内容が、「リーンスタートアップ方式(※2)」に準ずるような内容となっており、新規事業創出プロセスにおいては、非常に有効な考え方となります。また、「リーンスタートアップ方式」にも親和性の高い考え方で「アジャイル開発」という考え方もあり、すでに世の中にも浸透しつつあります。このような有効な考え方・手法は、組織として使いこなせるような環境を整えることをおすすめします。

(4)については、(3)にて取り上げた「リーンスタートアップ方式」の中で、「リーンキャンバス(ビジネスモデルキャンバスを改変したもの)」というフレームワークがあるので、それを活用することをおすすめします。

新規事業創出プロセスの初期段階でアイディアが発想できたら、時間をかけずにリーンキャンバスを一旦完成させるとよいでしょう。一旦完成させる段階では、その精度の高さは重要ではありません。このあとのプロセスで、顧客候補とのコミュニケーションの中で検証を行い、柔軟に変更していくことのほうが重要です。また、一旦完成させたリーンキャンバスは、顧客候補に見せる前に、顧客以外の誰か(アドバイザーなど)に意見を求めるとより良いです。

新規事業創出プロセスにおいて「リーンキャンバス」を活用しながら、顧客候補とコミュニケーションを取った結果、下記の表にあるような状態を目指すことが重要です。初期段階では、「課題インタビュー」後にあるべき状態を目指し、課題が特定できてソリューションを顧客候補に提案する段階では、「ソリューションインタビュー」後にあるべき状態を目指すことが求められます。

いずれにしても、リーンキャンバスや実用最小限の製品(MVP Minimum Viable Product)を用いて外部に意見を求める場合には、インタビューの時間の中で、説明を20%以内にとどめて、80%は対話に使うよう心掛けてください。  


意思決定者とのコミュニケーションを増やす(ための工夫)

意思決定者とのコミュニケーションを増やすために行うべきことは、理屈としては簡単です。起案者と意思決定者が、いかに早い段階からコミュニケーションを取るかが重要になります。

別の記事「新規事業のアイディアは、プロセスのどのタイミングで評価し、どのような評価基準で、どのように意思決定したらよいのか?(前編)」に以前書きましたが、

  • コンセプトの段階でも、意思決定者が評価を行う

ことをおすすめします。しかし、意外とこれを実践できている大企業が少ないように感じます。

顧客候補とのコミュニケーションのときと同じように、新規事業創出プロセスの初期段階でアイディアが発想できたら、時間をかけずにリーンキャンバスを一旦完成させて、すぐに意思決定者とコミュニケーションを取るべきです。


意思決定者がスタンスを変えることも、コミュニケーションをスムーズにする工夫の一つ

意思決定者側のスタンスが原因で問題が起こることもあるので、その点にも触れておきます。意思決定者は、起案者の提案に対して、「Go / No Go」を決められない理由が明確になければ、「Go / No Go」の結論を決めるべきです。特に、起案者が、顧客候補とのコミュニケーションを多く取って、実際にお客様になりうる人・組織を見つけてきているにも関わらず「Go」できないのであれば、理由を明確にして「No Go」と結論づけるべきです。

意思決定者のスタンスに関わる事例として、従来のチョコレートとは全く違う世界観を持つ「明治 ザ・チョコレート」が生まれるプロセスの中で、一つ話題になったことがあります。起案者から提案されたサンプルが、意思決定者の想像を超えたサンプルとして出てきた際、マーケティング部の課長(起案者側)が幹部役員(意思決定者側)に対して、「調査を重ねていくうちにお客様の反応が格段に良いことがわかり、不安を感じた自分はターゲットではなかったんだと理解した。今わからないのは当然だと思いますが、僕もあなたもターゲットじゃなかったんですよ」と説得された話があります。

起案者が、顧客候補を見つけてきたのであれば、意思決定者が顧客としてのターゲットになっていなくて、意思決定者の想像できない範囲の提案内容であっても「Go」するべきです。「Go」できないのであれば、理由を明確にして「No Go」と結論づけるべきです。

少し話は逸れますが、大企業の場合、起案者は、基本的には一人の意思決定者に対してしか提案する機会がないと思います(本来は、この環境も改善するべきだと思いますが)。ベンチャー企業であれば、一人の投資家に断られたら、別の投資家のところに話を持っていくことができますが、大企業の場合はそういうわけにはいきません。

何が言いたいかと言いますと、意思決定者の方には、

  • 起案者からの提案はできる限り多く受けてあげて欲しい
  • 想像を超える内容でも「Go / No Go」を判断して欲しい
  • No Go」であれば、その理由を明確にしてあげて欲しい 

と思います。起案者から見れば、意思決定者は「唯一の提案先、唯一の出資者」なのですから、意思決定者の方は起案者としっかりとコミュニケーションを取って、意思決定の判断が「Go」であろうと「No Go」であろうと起案者に納得してもらってください。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士

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