なぜ、今、イントレプレナーなのか?

アイディアポイント岩田です。現在、私たちの会社は、『会社の中で新しい事業をスタートする / しようとする人をサポートする』ということで、事業開発、組織・人材開発の仕事をしています。

最近、社内で新しい事業を起こす人 = イントレプレナー(社内起業家、企業内起業家)を取材しています。今回は、なぜ、今、このタイミングで、あらためてイントレプレナーが注目されているのか解説していきます。

(イントレプレナーって何?というのは、前回前々回の記事をどうぞ


目次

昭和にできた『これまでの枠組み』はもう限界がきている。令和には、令和の新しい仕組みが必要

少し大きな話になりますが、今、世の中では、いろいろなことが『オワコン』になってきています。特に、ビジネスの分野では、高度成長期を通じて作り上げてきた「大量生産、大量消費」、「効率化」とそれを実現するために組み上げられた『会社』という仕組みに対して、あちこちで疑問が持たれるようになってきています。

多くの人が感じている通り、私たちは、今、ものすごく「先を読みにくい」時代に生きています。次に何が起きるのか、どれくらい変化するのか、本当に変化するのか、社会の中でどこかで何かが起きたときにそれに連動して何が起きるのか、わかりにくい時代になってきています。それを、Volatility(変動性:どれくらいの幅で動く可能性があるのか)、Uncertainty(不確実性:本当に起こるのか、起こらないのか)、Complexity(複雑性:影響がどの範囲、どの程度の大きさで起こるのか)、Ambiguity(曖昧性:何が起こるのか)の頭文字をとって、『VUCA』な時代という言い方をすることもあります。

同時に、AI5G、ブロックチェーンなど、これまでの常識や私たちの人間の感覚を越えるレベルで技術が発展してきていて、20-30年前では、SF映画やマンガの中でしか起こり得なかったことが実際に起こる / 実現できるような社会になりつつあります。

このような背景に加えて、コロナ禍により、「移動する」、「人に会う」というこれまで当然と考えていた行動に大きな制約が課され、自分の限られた時間をどこで誰と過ごすべきなのか、極端に言えば、命のリスクをかけてまで会うべき人は誰なのかを選択しなくてはいけなくなりました。その中で、多くの人が働き方だけでなく、人生の優先順位を考えなおす機会を持ったのではないでしょうか。

直近では、SDGs、脱炭素化とそれに関する議論を通じて、「このままだと地球がもたなくなる」ことも多くの人が感じていて、「私たちは化石燃料を燃やして、世界中をつなげて、人が集まって集中的、効率的にものをつくることで豊かになる」という資本主義の価値観を持ち続けて、本当にそれが幸せなのだろうか」を私たち自身に問うところまできています。ダボス会議のテーマは、「グレイト・リセット」ということで、私たちのビジネスのあり方を再考する、再定義するべきなのではないかという議論がされています。

日本でも、多くの人は、戦後の行動成長期に築いた「昭和の仕組み」である、大量生産・大量消費の社会、それを最も効率的に行うために最適であった「既存企業中心」の経済活動、「年功序列」、「新卒一斉採用」など、これまで「当たり前」とされていた仕組みがそろそろ機能しなくなっていること、そろそろこれまでの産業構造が役割を終えつつあること、このままでは新しい産業を生み出さないと衰退していくことを感じつつあります。

私たちは、これまでの考え方、これまでの成功体験をリセットして、新しい作業を作らなければいけないタイミングにあることを多くの人はわかっています。


多くの企業に求められる『変革』、『新規事業』。今こそ、既存企業の『出番』

上記のような問題意識から、世界 / 日本に限らず、多くのソーシャルベンチャー企業と呼ばれる社会課題に取り組むベンチャー企業が生まれてきました。

ベンチャー企業は、既存のビジネスや既得権、過去の経緯に忖度する必要がなく、小回りが利いて意思決定も早いため、過去のしがらみに関係なく物事を一気に進めるという点については有利でしたが、一方で、歴史のある企業が持っている「大きなものを動かす」力、「長期間かけて物事成し遂げる」力には限界があり、『既存の勢力を動かす』ことができないため、なかなか『本当に』社会を動かすところにまで辿り着きません。

「社会全体」を変えていくためには、やはり、既に力のある(実績のある)企業の力が必要なのは明白です。実際に、企業(特に、既存企業)はベンチャー企業が持っていない下記のような能力を持っています。

  • 全体的に見れば、やはり、ヒト、モノ、お金、情報等のビジネスに必要なリソースの多くを持っている
  • 特に、研究開発、技術などの「時間」、「人材」、「資金」が必要なものは圧倒的に有利
  • 慎重に進めていかなくてはいけないこと、法律などの規制、時間がかかることの調整は得意中の得意
  • 時間や批判にさらされてカイゼンを積みあげた『安全な運用、オペレーション能力』
  • これまで築いてきた歴史とそこから得られる信用

このような能力は、どれだけスキルが高くても、歴史や経験の浅いベンチャー企業はどれだけがんばっても手に入れることができません。実際に『実装』、『運用』の場面では既存の企業の出番になります。

実際に、スマートシティ、金融、飲食、製造分野でも大量生産のタイミングなど、アイディアを試す『場』とそれを『運用する』能力は既存企業にしか作りだすことができません。

既存企業への期待は大きい一方で、既存企業は既に「既存の事業」が存在するため、必ずしも『新しいことに取り組む』人員や予算は確保できていません。また、過去の成功体験を中心にしっかりと仕組みが組まれているため、なかなか新しい知識や技術を取り込んでアップデートすることができません。

特に、創業者から既に世代交代している会社になると、「仕組みを使う」ことはできても「仕組みを作る」ノウハウはすっかりなくなっているケースもあります。既存企業は、社会のアップデートの担い手として期待されている一方で、『自分自身のアップデート』に追われている状況です。


会社の中では、実は、圧倒的に少ない『新しいこと』をやる人

 
既存企業は自分たちの事業を「アップデートしなくてはいけない」、「新しい事業を生み出さなくてはいけない」ことはわかっていても、それができない。実際にはその能力がないことが多くあります。理由としては、大きく3つあります。

①企業の中に『新しいことに取り組んで成功した』世代がいない、ノウハウがない、意思決定できない

3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略 なぜ、御社の新規事業は大きくならないのか?』という書籍の中に分かりやすい『世代論』が書いてあったのでそれを紹介します。これは会社の中の『世代』を示したもので、多くの会社では、「新しい事業を立ち上げた」世代は既に引退していて、現在の経営層はその後の世代、40代以降の社員はバブル崩壊後に入社した世代で、そもそも「景気がよかった体験」をしたことがない。その下の世代も同様です。これでは、新しいことにどう取り組んで、どのように意思決定すればよいのかを判断することもなかなか難しいと言わざるをえません。

②そもそも『新しいことに取り組む』つもりで採用していないし、教育もしていない

企業の採用は、通常、既存事業を継続 or 成長させるために人材を採用しています。入社後の教育も基本的には、既存の事業でより上のポジションを担うための教育をしています。これは、企業側の意図だけでなく採用、教育される社員側もそのように考えています(当たり前の話ですが)。この状況で『新規事業』を担当する人材が育つわけがありません(そもそも本人も会社もそのつもりがないわけですから…)。この状況で、『新規事業を担う人材がいない』のは当然だとしか言いようがありません。

③個人、会社として、アサインする合理性が説明できない

通常、既存事業では、ある程度成果を出す仕組みや型が出来上がっている(がんばればある程度、成果が出る。その後のキャリアも先輩たちの過去の経験からわかる)ようになっています。一方で、新規事業の場合は、そもそもゴールも決まっていない、過去の経験が効かないのでどうやったらうまくいくかわからない、新規事業ということで必然的に失敗する可能性が高い、更に、成功 / 失敗に関わらず、その後、自分がどのようなキャリアを歩むかもよくわからないという状況なのが普通です。新規事業が成功した場合でも大きなインセンティブはなかなかつかないのが現状です。このような状況で、個人が『新規事業を選ぶ』のが合理的な選択肢になるのか、「ワリにあうのか」、甚だ疑問です。
会社側から見たときにも新規事業に誰をアサインするかは大きな問題です。新規事業開発の教科書には『エースをアサインせよ』と書いてありますが、会社としてそんな不確実なところに大切なリソースをはるべきでしょうか。逆に、「失敗しても惜しくない(≒どうでもよい)」人材に、大事な新規事業を任せられるものなのでしょうか。会社としても、既存事業と新規事業のどちらに「優秀な人材」をアサインするのかは微妙な問題です。

どうしても自分で事業をやりたい人は独立してしまう or ベンチャー企業にいってしまう

そうすると、「自分で事業をやりたい」人を探そうという話になりがちですが、そのような人は、本当に既存企業の中の既存事業で長期間働いているのでしょうか。本当にどうしても自分でやりたければ、自分で事業を起こすという選択肢もあり、他の企業やベンチャー企業で大きな裁量を持って仕事をするために転職するという選択肢もあります。「ある程度の期間、自社で働いていて自社のことをよく理解できる人材」を条件としてしまうと、実際問題として、任せられる人には限りがあるという結論になることが多いです。


イントレプレナーは、需要 > 供給 の状態。ひょっとしたら『チャンス』なのかもしれない!?

今、世の中は、人手が「足りない」と言われながら、一方で、「余っている」とも言われています。これはどういう状況なのでしょうか。実際には、人数としての『人手』は十二分にあるもの、『必要な』人材は足りていない / いないということです。イントレプレナーはまさに、『必要なのに、なかなかいない』人材のひとつです。

『すべての人が社内で新しいことをはじめるべし』とは思いませんが、ある程度のビジネススキルがあって、社内でチャンスをもらえるような環境にあれば、選択肢のひとつとしてとても魅力的なキャリアなのではないかと思います。

私自身も企業グループの中で、子会社の立ち上げを2回経験しましたが(私の場合は私が自分で希望してそのようなポジションにつきました)、私の個人的な経験からもおすすめします。おすすめする理由は以下の通りです。

  • 『経営者』としての経験を早い段階で積みたい人にはおすすめ(既存事業で経営者になるよりもはるかに早いタイミングで実際に、BSPLCFを背負ってビジネスができる)。通常、ビジネスも複雑ではない(そんなに難しいことはできない)ために、「ちょうどよい(=自分が理解できるギリギリのサイズ)」のビジネスを経験することができる。
  • これからの時代『どこでも生きていく』ことができるようなスキルを身につけることができる。『何もないところから、自分で考えて、周囲を巻き込んでチームを作り、成果を刈り取り、継続する形で次につなげる』ことのできる人材は、これからの時代には多くの場所で求められる!(はず)
  • 自分自身で大きなリスクを取らずに(借金を背負ったりせずに)新しい事業に取り組むことができる。ここが社内起業のメリットだと思います。自分自身では投資できない規模のビジネスに取り組めるし、様々なサポートを得ることもできる。
  • そして、何よりも『自分で決めて、自分で取り組む』のは楽しい!もちろん、株主だけでなくお客さまやスタッフに対する責任もありますし、誰も決めてくれないので自分で決めなくてはいけないというプレッシャーはあるものの、「自分が」このビジネスに取り組んでいるという充実感は非常に大きいと思います。

  最近では、起業 / 社内起業も少しずつ広がってきています。選択肢のひとつとして検討してみることも悪くないのではないでしょうか。

それでも、実際のところやったことのないこと、前例のないこと、情報がないことはみんな不安なはず…

その気持ち、わかります。「何が起こるかわからない?そりゃいいぜ!いけー!!」という人はそう多くないはずです。やはり、普通の人は、「最終的にはやってみないとわからない」」ことは十分理解した上で、実際にスタートしたら、どんなことが起きるのか、うまくいったらどうなるのか、うまくいかなかったらどうなるか知りたいはずです。少なくとも経験者の話を聞いてみたり、実際に自分の頭の中でイメージできるところまで情報は欲しいところです。

しかし、実際には「起業家の話」は様々な記事や書籍で紹介されてそのイメージを知ることができますが(あるいは、友人の中に起業されている方も数人はいるような人も多いのではないでしょうか)、社内起業家の話を聞く機会は多くありません(あまり、世の中に出てこない?)のが実情です。

ということで、最後に宣伝!です。現在、いくつかの企業でイントレプレナーと呼ばれる社内起業家のインタビューを行っています。彼 / 彼女らがどんなきっかけで新規事業をスタートして、どんな経験をして、これから、どこに行こうとしているのか、その考え方や経験をシェアしたり、多くの人が不安や疑問に思うことを聞いてそれを世に出すという取り組みをしています。こちらは、現在、奮闘中、乞うご期待ということで彼らに聞きたいことや社内起業をしようとする際のお悩みがあれば、お教えください。地味ですが、このブログに書いてしまったので、この企画、後戻りできなくなってきたでも、乞うご期待!!楽しみにしていてください!

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株式会社アイディアポイント
代表取締役社長
岩田 徹

 

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