革新的なイノベーションは、いつも第三者との化学反応から生まれます。
従来、イノベーションは「社内の化学反応によって起こすもの」でしたが、時代が変化するスピードが速くなり、自社のリソースだけでイノベーションを起こし続けることに限界を感じている企業が多いのも事実です。
オープンイノベーションでは、外部のリソースを積極的に活用することでイノベーションを起こすことを試みます。
本記事でオープンイノベーションの基礎知識やメリット・デメリットを知り、自社での活用方法をイメージしてみてください。オープンイノベーションに成功した企業事例もあわせて紹介します。
1.オープンイノベーションとは?
オープンイノベーションとは、企業の枠組みを超えてイノベーションを起こすことをいいます。企業内で完結した取り組みは、オープンイノベーションと対比して、一般的に「クローズドイノベーション」と呼ばれることがあります。
コラボレーションの形はさまざまで、大企業同士の取り組みもあれば、ベンチャー企業と老舗企業といった異色の組み合わせも存在します。固定観念にとらわれず、各自が持つ資源やノウハウが出会うことで画期的なイノベーションを起こすのがオープンイノベーションの大きな目的です。
日経BP総研の調査では、調査対象者の実に9割超が、「自社にオープンイノベーションが必要」と回答しています。事業はもはや自社のみで作るものではなく、外部の組織やパートナーとの協力が不可欠と考えている人が多いことがわかるでしょう。
参考:『社員は「1社でビジネスは成功せず」と認識、9割超が自社にオープンイノベーションを切望――日経BP総研が調査』、日経BP社、2017年
2.オープンイノベーションが重視されるようになった背景
オープンイノベーションが重視されるようになった背景として、大きな時代の変化があげられます。具体的に見ていきましょう。
プロダクトライフサイクルの短期化
プロダクトライフサイクルとは、企業が生み出した商品が生まれてから消失するまでのプロセスのことで、「製品ライフサイクル」や「商品ライフサイクル」とも呼ばれます。
導入期・成長期・成熟期・飽和期・衰退期から成り立っており、近年はプロダクトライフサイクルが短くなることで、スピード感に追い付けない企業も増えてきています。
自社による取り組みに限界を感じた企業が、外部リソースを活用する手段のひとつとして注目しているのがオープンイノベーションです。
VUCA時代の到来
VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、「予測できない時代」を意味します。
デジタル技術の急激な進歩もあり、先の見通しが難しくなった現代においては、社会の変化に対して柔軟に対応することが求められます。
他者との協働による新たな価値創造の手段として、オープンイノベーションが選ばれるようになりました。
リソースの不足
従来、革新的な技術やサービスは、予算やリソースが豊富な大企業によって提供されるものでした。しかし、現代ではスピード感のあるベンチャー企業が躍進しています。
自社のリソースだけでは革新的な技術やサービスを打ち出すには足りないと感じた企業が、ベンチャー企業や外部パートナーに協力を求めるようになったことも、オープンイノベーションが広がった背景のひとつです。
3.オープンイノベーションのメリットとデメリット
ここでは、オープンイノベーションのメリットとデメリットを紹介します。デメリットも踏まえたうえで、自社に合ったオープンイノベーションの形を検討しましょう。
まずは、メリットから見ていきます。
開発のスピードが向上する
オープンイノベーションによって、外部パートナーのリソースや技術、ノウハウの活用が可能になり、自社でゼロから開発を行った場合と比べてスピードの向上が期待できます。自社のリソースだけでは実現できないことを叶えられるのが、オープンイノベーションの大きなメリットです。
コストの削減につながる
オープンイノベーションは、コストの削減という観点においても優れた手法です。
商品やサービスの開発には、人件費・研究開発費・材料などのコストがかかりますが、外部パートナーの強みを活かすことでコストを下げた開発が期待できます。
変化への対応力を強化できる
変化が激しい時代において、企業の対応力は事業を存続させるうえで重要な意味を持ちます。
プロダクトライフサイクルは短期化し、顧客のニーズも常に変化しています。オープンイノベーションによって外部パートナーと協力することで、変化に対するアンテナの感度を高めることが可能です。また、とらえたニーズを即座に商品やサービスの開発に反映する体制が整っていれば、新たな市場を創出できる可能性もあります。
続いて、オープンイノベーションのデメリットも見ていきましょう。
情報漏えいのリスクがある
外部パートナーとの協働は、情報漏えいのリスクと隣り合わせです。しかし、お互いに技術やノウハウをオープンにしなければ、イノベーションは生まれません。不要な情報漏えいを避けるための対策は講じる必要がありますが、外部パートナーと全面的に協力する姿勢を示すことは重要といえるでしょう。
ノウハウを独占できない
自前で商品やサービス、新しい技術などを研究開発する従来のビジネスモデルでは、生み出されたノウハウをその企業が独占できるというメリットがありました。一方、オープンイノベーションでは、研究開発で得られたノウハウを外部パートナーと共有する必要があります。場合によっては、ノウハウを他社の事業に用いられてしまう可能性もあるでしょう。
外部パートナーと契約書を交わし、共同開発によって得られた成果の取り扱い方法をあらかじめ決めておくことでトラブルを回避できます。
結果的に、利益率が低下するノウハウを独占できない
オープンイノベーションでは関係者で利益を分配することになるため、利益率が低下するのもデメリットのひとつです。協働によって開発にかかるコストは抑えられるため、コストと利益のバランスを取ることを意識しましょう。場合によっては、自社が提供した技術やノウハウ、リソースに見合ったリターンを得られるよう交渉も必要です。
組織体制の再構築が必要になることがある
外部パートナーと事業を行うにあたって、自社の組織体制を再構築する必要も出てくるでしょう。
オペレーションや業務フローを見直し、協力体制を整えるうえで一定の労力やコストをかけることは避けられません。その先に待っているイノベーションを見据えながら、必要な取り組みを考えていくことが大切です。
4.オープンイノベーションを成功させた企業事例
ここでは、オープンイノベーションを成功させた企業事例を紹介します。複数の大企業によるオープンイノベーションから、ベンチャー企業とのオープンイノベーションの事例まで、種類の異なる事例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
企業3社による事例
ソニー株式会社・京セラ株式会社・ライオン株式会社は、音の出る歯ブラシPossi(ポッシ)を共同開発しました。
子どもの歯磨きには大人による「仕上げ磨き」が必要ですが、仕上げ磨きを嫌がる子どもは多く、「逃げる」「歯ブラシを噛む」「暴れる」といった行動に悩まされているパパ・ママは多いといいます。
Possi(ポッシ)は、歯磨きをしている間に骨伝導で音楽が聞こえる仕組みになっており、子どもが仕上げ磨きを楽しめるようになっています。
大手企業による技術力やノウハウを組み合わせたオープンイノベーションの事例です。
大企業 × ベンチャー企業による事例
自動車メーカー大手のトヨタ自動車株式会社は、ベンチャー企業の株式会社カブクと共に、超小型モビリティ・i-ROADのカスタムパーツ開発に取り組みました。
株式会社カブクは3Dプリント技術を活用したデジタルマーケットプレイス「Rinkak(リンカク)」の運営を手掛けており、企業の製造をデジタル技術によって後押ししています。同社の3Dプリント技術をトヨタが3Dプリンターで形にすることで、i-ROADのカスタムパーツ開発を実現しました。
企業 × 外部パートナーによる事例
世界最大の一般消費財メーカーであるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は、食用インクジェット技術を開発した外部パートナーと手を組み、「プリングルズ プリントチップス」を開発しました。
ポテトチップスの「プリングルズ」に新しいアイディアを加えたいと考えていたP&Gの開発チームは、チップスの表面にキャラクターを印刷することを思いつきます。しかし、当時はアイディアを実現するための印刷技術がなく、社外からアイディアを募る流れになりました。
それがきっかけとなり、ケーキやクッキーに印刷が可能な食用インクジェット技術を開発した外部パートナーと共同で、「プリングルズ プリントチップス」を製品化することに成功します。
社内外のリソースを活用した戦略は「Connect+Develop」と呼ばれ、「プリングルズ プリントチップス」以外にも数多くの成果をあげたといいいます。
5.オープンイノベーションは自由な発想から始まる
オープンイノベーションは、社外のリソースを活用した取り組みです。解決したい課題によって最適な外部パートナーが異なるため、日ごろから社外のリソースについて感度を高めておくことが重要です。
「大手企業だから」「長い付き合いだから」といった固定観念にとらわれず、自由な発想でオープンイノベーションの可能性を広げていきましょう。
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