
日々の業務でよく使われるものの、その定義や基本的な考え方や論点について、「意外と知らない…」、「なんとなく知っているものの、実は理解があやふやなんだよなぁ」ということは実は言えないだけでよくあることなのではないでしょうか。
今回は、人事の分野でよく聞くキーワードとして、「インクルーシブ・リーダーシップ」を取り上げて解説していきます。
1:インクルーシブ・リーダーシップとは何か
1-1 インクルーシブ・リーダーシップの定義
インクルーシブ・リーダーシップとは、メンバー一人ひとりの多様な背景や価値観を受け入れ、チームとしての力を最大限に引き出すリーダーシップのあり方です。ここでいう「多様性」とは、性別、人種、国籍、年齢、障がいの有無、性的指向、宗教、価値観、経験など、さまざまな違いを指します。従来の「強いリーダー」が指示を出すスタイルとは異なり、インクルーシブ・リーダーは「聞く力」や「共感力」に優れています。

1-2 なぜ、いま、『インクルーシブな』リーダーが求められるのか
現在、グローバル化や技術革新が進む中で、価値観の多様性が一層広がっています。また、少子高齢化により、幅広い人材を活用しなければ組織は成り立たなくなってきました。そのため、「違い」を排除するのではなく、「違い」から学び、成長することが必要です。インクルーシブ・リーダーシップは、こうした社会の変化に対応する重要なリーダーシップの形です。
1-3 インクルージョンとダイバーシティの違い
「ダイバーシティ(多様性)」は、人々の違いを受け入れることです。それに対して「インクルージョン」は、その違いを積極的に活かし、誰もが活躍できる環境をつくることを意味します。つまり、インクルーシブ・リーダーシップとは、ダイバーシティの先にある「行動」であり、組織の中で多様なメンバーが協働できるよう導くことが求められます。
2:インクルーシブ・リーダーシップの実例
2-1 マイクロソフトの取り組み
アメリカのIT企業マイクロソフトでは、多様性とインクルージョンを経営戦略の中核に据えています。同社は、採用から育成、評価までのすべての段階で公平性を重視し、社員が自分らしく働ける職場づくりを進めています。例えば、障がいを持つ社員向けの専用プログラムを設け、働きやすい環境を整備しています。また、上司がチームメンバーの背景を理解するための研修も実施され、リーダーが率先して「違い」を受け入れる姿勢を示しています。
2-2 ユニリーバ・ジャパンの挑戦
ユニリーバ・ジャパンでは、「WAA(Work from Anywhere & Anytime)」という働き方改革を導入しました。これは、社員が時間や場所に縛られずに働ける制度で、子育て中の社員や介護をしている社員も無理なく働けるように設計されています。また、同社ではLGBTQ+に関する社内研修や、ダイバーシティ&インクルージョン担当の部署も設置。こうした制度を活用し、上司が部下に寄り添った働き方を支援する体制が整っています。
2-3 資生堂の女性リーダー育成
日本の大手化粧品会社である資生堂は、女性活躍推進の分野で先進的な取り組みを行っています。同社では、「女性が管理職になることは特別ではない」という文化を醸成するために、女性リーダー向けの研修を定期的に実施。男性管理職にも「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」に関する教育を行い、女性が自然にリーダーシップを発揮できる組織づくりに努めています。
3:実例から見える示唆と実践へのアドバイス
3-1 傾聴と共感が鍵
インクルーシブ・リーダーは、自分と違う意見や考え方にも耳を傾けます。マイクロソフトやユニリーバの例からも、リーダーがメンバーの声を「聞く姿勢」を持っていることが成功のポイントであるとわかります。部下が安心して意見を言える環境をつくるためには、まず上司が「聞く」ことが求められるのです。
3-2 心理的安全性の確保
「心理的安全性」とは、ミスや意見に対して否定されることなく、自分をさらけ出せる環境のことです。資生堂の取り組みは、まさにこの心理的安全性を高める活動といえます。リーダーが無意識の偏見を認識し、発言や行動を慎重にすることで、部下は安心して自分らしく働くことができます。
3-3 制度と文化の両輪が必要
インクルーシブ・リーダーシップを機能させるには、単に制度を整えるだけでは不十分です。制度に加えて、「違いを尊重する」文化が職場に根づいていることが重要です。ユニリーバのように、制度と同時に社員教育や社内啓発を行うことで、組織全体がインクルーシブになります。
3-4 日々の小さな行動が大切
例えば、会議で誰もが発言できるように声をかける、目立たない意見にもしっかり反応する、違いに敬意を持つ――こうした小さな行動が積み重なって、インクルーシブな職場がつくられていきます。特別なスキルが必要なわけではありません。誰もが意識をすれば、今日から始められるのです。
4:まとめ ― これからのリーダーに求められるもの
4-1 リーダー像の変化
これまでの「指示型リーダー」から、「支援型リーダー」へ。現代のリーダーには、メンバーを一方的に導くのではなく、彼らの能力を引き出し、成長を後押しする役割が期待されています。インクルーシブ・リーダーは、そのような新しいリーダー像を体現しています。
4-2 組織の未来を左右する力
多様性を受け入れ、活かすことができるリーダーは、チームの創造性と生産性を高めます。反対に、多様性を無視する組織は、優秀な人材が離れたり、イノベーションを生み出せなかったりします。つまり、インクルーシブ・リーダーシップは、組織の未来を左右する重要なカギなのです。
4-3 今日からできる第一歩
まずは、目の前のメンバーに「関心を持つこと」から始めましょう。相手の話をよく聞き、背景や考えを理解しようとすることが、インクルーシブな行動の第一歩です。そして、「違い」をネガティブにとらえるのではなく、「可能性」として見る姿勢が、これからの時代にふさわしいリーダーをつくります。
インクルーシブ・リーダーシップとは、すべての人の違いを力に変えるリーダーの在り方です。多様な人が活躍できる組織を目指し、一人ひとりの声に耳を傾け、行動する――その積み重ねが、未来を切り拓く力になるのです。
今回は、人事の分野でよく聞くキーワードとして、「インクルーシブ・リーダーシップ」を取り上げて解説しました。正しい活用は正しい理解から!みなさまの業務に活用いただければ幸いです。また、「実はこんな理論、コンセプトも解説してほしいんだよね」というものがありましたら、弊社営業までお問い合わせください。
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高橋佑季