人事にとっての『DX人材育成』とその論点

アイディアポイント岩田です。今回は、前回に続き、別のセミナーでお話しした内容について、解説していきます。

今回は、一般社団法人日本イノベーション協会で開催している第3回人材・組織開発サロンという名称の人事向けの勉強会です。今回は、株式会社GRIと共催で「実戦で通用するDX人材の育て方」というテーマで講演しました。

当日の様子は社団法人のレポートを参考にしてください。今回は、私が当日、お話しした「人事にとっての『DX人材育成』とその論点」について書いていきます。


目次

KKD人事(勘・経験・度胸)はそろそろ、オワコン

日本の人事はKKD(勘・経験・度胸)と言われてきました。社員や社風、組織風土は必ずしも定量的に説明できません。定量的でないものは、経験しないとわからない、必要なスキルは経験でしか身につけられないと言われてきました。実際に、多くの人事部門では、OJTという名のもとに、実際に体験して、勘所を把握する、現場で場数を踏みながら度胸?をつける方法が主流でした。「人は感情の動物だ(だから、理屈ではない)」と言われてきたものです。

この考え方が必ずしも悪いわけではありません。実際に、データで語れることは限定的ですし、経験がないと判断できないことも多いでしょう。特に、人と人との関係、過去の慣例、特例、慣例、不文律、内規等、運用はどうしても、ルールや規則だけでは割り切れず、「のりしろ / 例外」がでてくるため、経緯も含めて知る / 理解することが必要な場面もあるでしょう。

しかし、ビジネス環境が大きく変わり、社内でも様々な立場やバックグランドを持つ社員がいる環境では、過去の社内の経験や事例を踏襲して組織を運営することは、そろそろ無理があります。過去の事例という極めて内向きな勉強は急速にその意味を失い、より公平、公正な意思決定が必要になってきています。

上記の観点から、今後、人事にとって必要なことは、「専門家として基本となる理論を勉強する」ことと、「それを使って、公平、公正な意思決定を行う」ことではないかと考えられます。その際に、「データ」とその「解析」は避けて通れないテーマになってくると考えられます。


人事部門にも『データ x AI』という発想が必要

現時点では、人事部門を対象とするサービスに搭載されているAIのほとんどは、業務サポート、業務効率化、発想や思考のサポートです。業務の効率化自体は非常に便利ですばらしいことではありますが、人事担当者は『その次に何が起きるのか』考えることが必要です。

私自身は、この後、次の二つが起きると考えています。ひとつめは、『神話』がデータで証明されていくということです。これまで、勘や経験で共有されていた / まことしやかに語られていた「神話」がデータで検証されていくということです。

例えば、「体育会出身者は、営業に向いている」、「成長させるには修羅場体験が必要」、「あの人、最近、急に元気になったから会社辞めるかな」等、これまで経験的に「そういうものだ」と言われていたことが実際にどうなのか明らかになっていきます。さらに、それが『予測される』時代がやってきます。ここまでくるとSFの世界に近くなってきます。これまで偶然そうなっていたものを計画的に起こすようになります。

ふたつめが、AIが膨大なデータで経験を積んで学習した結果、「人事の仕事が人間では勝負できなくなるほどAIが優れる時代がくる」ということです。これは、タクシー業界の例を挙げるとわかりやすいのではないかと思います。

簡略化して説明すると、以前、タクシー業界では、売上はタクシーの運転手さんの技量がすべてでした。雨が降ったらこの辺りで人が乗り降りするとか、月末はここに人が集まる、ここは走っていても顧客がいない、この道は夕方混むので裏道を走る等、ノウハウのすべては、運転手さんが持っていて、優秀な運転手さんがどれだけいるかがビジネスの勝敗を分ける時代でした。

しかし、現在、タクシーにセンサーがついてあらゆるデータが24時間365日、日本全体で蓄積され、それをAIが学習して最適な走り方を計算できるようになった結果、いつどこをどう走っていると顧客に出会いやすいか、どのルートを通ると早くつけるのかは、すべて本部(とAI)が考えるようになりました。すると個人で考えてやっていても、データ量から経験、動かせるリソースがまったく違う、そもそも個人で勝負しようと思わないくらいAIの方が精度のよい指示が出せる。そんな時代になりました。

同じように、この人がどんな仕事に向いているのか、どんな勉強をしたらよいのか、誰が、当社で活躍するのか等、現在では「さすがに人間でしかわからないでしょう」ということが、どんどん、データとAIで対応するようになり、最早、「人間がやろうとすら思えなくなる」時代がくるというのが私が考えるシナリオです。


これからのビジネスパーソン全員に「データ、AIツールを使った問題解決」という発想が必要

次に、人事の仕事である「社員教育」という観点から、データ関連のスキルをどのように取り組むべきなのか考えていきましょう。

最初にお伝えしておきたいのが、社員全員に「データ、AIツールを使った問題解決」という発想が必要だということです。問題を解決することが必要な社員には、全員に「データxAI」という発想と基本的な仕組みの理解が必要だと考えます。

問題解決のプログラムでは、よく『実現したいこと(目的、ゴール)こそが重要で手段(ツール、手法)は、あくまで、それに付随することである』と言われます。自分のできることから考えてしまうと自分のできることしか問題にしないということが起きてしまいます。その結果、「これ、解決してもうれしいの?」、「なんのために、これやっているの?」と思うようなことが起きてしまいます。目的と手段を混同してしまうことに対しての戒めとしては一理あります。

しかし、一方で手段を知らないと、そもそも「この問題が解けるのかもしれない」と発想することができない、問題を見つけることができないというのも事実です。特に、データサイエンス、AIに関しては、ある程度、基礎的な知識がないと「何ができそうか」検討をつけることができません。今後、データサイエンス、AIが世の中に普及する中で、「データ、AIを使った問題解決」をするという発想は必須のものとなるでしょう。そのための素養としてテクノロジーの学習は全社員にとって必須と言えるでしょう。


オフィスツールが使えるのと同じようにAIツールを抵抗なく使えないと仕事にならない

過去、「PCは本当に使えるのか」という議論がありましたが、もうそんな話をする人は誰もいません。全員に必要なのか、どのように使うのが適切か議論することは必要ですが、時間とともに性能があがり、使いやすくなり、安くなる中で、PCが使えるものであることは間違いのないことでした。

同様のことがAIツールでも起きるでしょう。最早、使える / 使えないは議論の余地はありません。それよりも、どうやってより有効に効率的に、そして安全に使うのかが論点です。

今回は、AIの仕組み上、『何も考えずに使って』はいけません。昔から、『習うより慣れよ』と言われるように使いながら慣れることは重要です。しかし、データやAIに関しては、単なる自動化ではなく、その中がブラックボックスになっていることもあるため、データの取り扱いや解析方法等の基礎的な理屈や仕組みは理解しておくことが大事です。半端な知識や認識で取り扱わない方がよいとさえ言えます。

多くのビジネスパーソンは、学校で受ける授業がとても嫌いなようですが、今回は基礎的な知識を身につけ、理解することが必要です。きちんと勉強する / 習う方がより効率的、効果的に身につけることができるでしょう。やはり、データ関連の知識は、一度、きちんと勉強しておくのがよいのではないでしょうか。


最後に、私が、データサイエンス、AI、IoTを学ぶときにおすすめの考え方 – 大人の学びは経験学習

こちらのスライドは前回のR&Dサロンのブログ記事で説明したものと同様のスライドです。

大人になってからの学習は、「役に立ちそうだな」、「おもしろいな」、「やってみようかな」と思うことが重要です。また、実際に手を動かしながら学ぶことで、難しいところや大変なところを実感できます。特に、データサイエンスの分野はそれに加えて、「1回、基礎的な理論を網羅的にきちんと勉強する」ことがポイントなのではないかと考えています(必要なところだけちょっとやるような勉強だと理解できない or 逆に、効率が悪いのではないかと思います)。


結論:ビジネスパーソンは、『教養科目』としてデータサイエンスを勉強すべし。専門家になる必要はないが、素養として学んでおくのがこれからの時代を生きるコツ

今後、全てのビジネスパーソンにとって「データとその活用」は必須のスキルになるでしょう。

人事部として、ぜひ、全社員にデータサイエンスを勉強するような機会を設計することを検討してください(という営業です)。もし、全員にできなくても、やはり、問題解決のためには、データxAIという発想は持ってほしいし、AIツールを抵抗なく使える程度には知識を持っておけるようにすることを検討するべきでしょう。

以上が、今回のセミナーで話した内容でした。今後はタクシー業界のように、私たち(一般消費者、顧客)では知らないところがどんどんAIに置き換わって、知らないうち人間がいなくなってしまうのではないかと想像しています。みなさんが「アイディアポイントの岩田さん or 社長」だと思っているけれども、実態は、9割はAIが仕事をしているかもしれません(メールやチャットの返信、コラムを書いたり、講演内容を考えたり、もっと先だとオンラインで講演するもの実はAIがやってくれていたりして…)。ちなみに、この文章は私が書いていますので、あしからず。

あらためて、『人間』とその役割とは何なのでしょう?答えのない問いですが、私たちも勉強しながら考えていきますので、議論したい方は、ぜひ!お声かけください。デジタルスキルに関する研修も絶賛!行っておりますので、ご興味のある方は、ぜひ、弊社までお問い合わせください。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
代表取締役社長
岩田 徹

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