新規事業を停滞させない! 「判断基準・ドメイン・検証」をアップデートする方法 ― 2025年度によく耳にした新規事業創出における課題とその解決策

近年、日本のビジネス界では「失われた30年」を打破すべく、多くの大企業が新規事業創出に邁進してきました。しかし、直近の十年ほどでは、多くの現場から聞こえてくるのは「期待したほどの成果が出ない」という声です。既存事業の延長ではないイノベーションを追い求めるあまり、自社の強みが活かせない、スケールができないなど、迷いが生じている企業が少なくありません。今、改めて求められているのは、教科書的な正論と、泥臭い自社の現実をいかに摺り合わせ、新規事業創出に関して持続可能な組織・仕組みの形を再定義することではないでしょうか。


目次

新規事業創出の活動を行っていても、なかなか成果が出ない原因

新規事業開発部門の方とお話ししていると、「数年間活動してきたが、目に見える収益化に至った案件が一つもない」という悩みを本当によく伺います。なぜ、これほどまでに優秀な人材とリソースを投下しても成果が出にくいのでしょうか。その大きな原因の一つは、いわゆる「飛び地」での成果の期待と、自社での実行の現実性の欠如にあります。

多くの企業が、既存事業からある程度離れた領域に手を広げようとします。しかし、日本の大企業において、全くのゼロから新しい市場でスケールさせることは、想像以上にハードルが高いのが現実です。そこには、その領域特有の商習慣もあれば、競合となる先行企業の存在、新たに参画してくるスタートアップのスピード感もあります。自社の看板が通用しない世界で、尖った人材を育成し、維持し続けること自体が、組織文化の壁に阻まれてしまうのです。

また、評価の仕組みが「既存事業の物差し」のままであることも、成果を阻む大きな要因です。新規事業は、不確実性が高い時期にこそ柔軟な支援が必要ですが、社内の評価委員会では「3年後の売上100億円の根拠は?」「利益率は既存事業を上回るのか?」といった、立ち上げ初期には答えようのない問いが投げかけられます。これに応えるために、担当者は「通るための計画書」を作ることに時間を費やし、肝心の顧客検証がおろそかになってしまいます。結果として、計画だけは立派だが、市場に出してみると誰にも求められない「机上の空論」の事業が出来上がってしまうのです。

さらに、最近の傾向として顕著なのが、経営層と現場の「期待値のズレ」です。現場は教科書通りに「まずは小さく試して、失敗から学びたい」と考えますが、経営層は(特に業績が芳しくない時期ほど)「リスクを取りたくないが、確実に稼げる新しい柱が欲しい」という矛盾した要求を抱きます。この心理的なブレーキが、投資の決断を遅らせ、あるいは中途半端なリソース投下にとどまらせ、結果として「良いとも悪いとも言えない停滞案件」を量産する原因となっているのです。


経営層がどのように判断するとよいか

新規事業の「Go / No Go」の判断が不明確であるという不満は、担当者からすれば最もストレスが溜まるポイントです。しかし、経営層の立場からすれば「今の時点では何とも言えない」というのが正直なところでしょう。ここで重要なのは、判断基準を「一度決めたら変えない不変のルール」と捉えるのをやめることです。

まず、経営層に求められるのは、判断基準を「更新し続ける」というスタンスです。新規事業は進めていくうちに、当初の想定とは異なる課題や可能性が見えてきます。そのため、一年に一度、あるいは半年に一度、今の自社の経営状況と照らし合わせて、「今、我々が本当に求めているのは何なのか」を言語化し、発信し続けるべきです。「今は飛び地よりも、既存顧客の負を解消する新サービスを優先したい」といった方針転換は、決して悪いことではありません。むしろ、判断基準が曖昧なまま放置されることこそが、組織のエネルギーを最も削ぎます。

次に、判断の際に「正解」を求めすぎないことも大切です。新規事業に100%の正解はありません。経営層がすべきことは、担当者の提案に対して、自らの「ストライクゾーン」を提示することです。具体的な指示ができないのであれば、まずは多くの案件に目を通し、「これは好き」「これは自社らしくない」といった主観も含めたフィードバックを早期に、かつ頻繁に行うべきです。それによって、担当者側も「うちの経営層が今、何に価値を感じるのか」という感覚を掴むことができ、コミュニケーションの精度が上がっていきます。

また、既存事業とのカニバリゼーション(共食い)に対しても、腹を括った判断が必要です。新しい事業が既存の利益を奪う可能性がある場合、多くの企業でブレーキがかかります。しかし、外部の競合に奪われるくらいなら、自社で奪いにいくという「覚悟」を経営層が持てるかどうかが、変革の成否を分けます。判断に迷ったときは、「もしこの事業を他社にやられたら、5年後の自分たちはどう思うか?」という問いを自分自身に投げかけてみてください。経営層が「煮え切らない」態度を捨て、自らの意思を明確にすること。それこそが、検証のサイクルを回すための出発点となるのです。


新たな事業(もしくは新製品・新サービス)の創出の活動を継続するための工夫

「新規事業創出」という言葉が持つ重圧に、組織全体が疲れ始めている側面があります。特に直近の1〜2年、多くの大企業では、あえて「新規事業」という大きな風呂敷を広げるのではなく、既存事業の周辺領域における「新製品・新サービス」の創出にシフトする動きが見られます。これは、活動を停滞させないための、非常に現実的で賢明な工夫だと言えます。

いわゆる「両利きの経営」における「探索」は重要ですが、それが常に自社と全く無関係な「飛び地」である必要はありません。既存の顧客、既存の技術、既存のチャネルを活かせる範囲で「新しい価値」を生み出すことは、成功確率を高めるだけでなく、社内の協力も得やすくなります。組織は論理だけで動くものではなく、現場の「これなら自分たちも手伝えそうだ」という感覚的な納得感が、プロジェクトの推進力になるからです。

活動を継続させるための具体的な工夫として、「新規事業」と「新製品・新サービス」の境界線を柔軟に管理することをおすすめします。最初は既存事業の延長として「新製品」の開発をスタートさせ、ヒト・モノ・カネの調達が既存の枠組みでは収まらなくなった段階で、それを「新規事業」として認定し、切り出すというプロセスです。最初から「全く新しいことをやるぞ」と構えるよりも、心理的なハードルが下がり、結果として「新しいものを生む」という空気感を絶やさずに済みます。

また、ポートフォリオの考え方を取り入れることも有効です。「10年先の未来を作る大きな賭け」が1割、「既存事業を強化する隣接領域の施策」が4割、「日々の業務を改善・進化させる小さな工夫」が5割、といったように、時間軸とリスクで重み付けを行うのです。すべてを「不確実な大博打」にしてしまうと、成果が出ない時期に活動自体が全否定されてしまいます。確実に手応えが得られる小さな成功(Quick Win)を積み重ねながら、組織全体の「新しさへの耐性」を高めていくことが、結果として大きな事業を生むための土壌を育てることになるのです。


新たな事業(もしくは新製品・新サービス)の成功の確率を高めるための検証の工夫

「やってみないと分からない」という新規事業の本質は変わりませんが、その「やってみる」の質をどこまで高められるかが、投資のリスクを取り切るための鍵となります。最近では、大掛かりな開発に入る前に、低コストで市場の反応を確かめる「テストマーケティング」の手法が非常に充実してきました。

まず取り組むべきは、ビジネスプランを精緻に作り込む前に、顧客候補とのコミュニケーションを圧倒的な量でこなすことです。具体的には、まだ製品がない段階で「仮の営業資料」や「パンフレット」を作成し、実際のお客様に見せてみることです。「もしこれがあったら、今すぐお金を払って買いますか?」という問いに対して、顧客がどのような反応を示すか。この「強い反応」を得られるまで、ターゲットや提供価値(バリュープロポジション)を何度も修正します。5人程度の深いインタビューで十分な場合もあれば、その5人に出会うために50人に話を聞く必要もあるでしょう。この泥臭いプロセスこそが、計画の精度を劇的に高めます。

また、デジタルツールやクラウドファンディングを活用した検証も有効です。試作(プロトタイプ)を作り、実際の市場に出してみることで、「関心がある(クリックする)」「実際にお金を出す(支援する)」という具体的な行動データを集めることができます。アンケートでの「良いと思います」という回答には責任が伴いませんが、少額でも「お金を払う」という行為には、顧客の真実が隠れています。こうした「行動データ」を積み上げることが、社内の意思決定者に対して「これだけのお客様が待っている」という動かぬ証拠になります。

さらに、社内での検証においては、「リーンキャンバス」のようなフレームワークを活用し、常に「今、どの仮説を検証しているのか」を明確にすることです。一度書いた計画に縛られるのではなく、検証結果をもとに「ここは違ったので、こう変えます」というピボット(方向転換)を、ポジティブな前進として組織が受け入れる文化が必要です。検証とは「成功を証明すること」ではなく、「何が正解でないかを早く見つけること」です。このスピード感を上げ、一回あたりの検証コストを下げる工夫を組織として習得していくことが、最終的な成功確率を押し上げる唯一の道と言えるでしょう。


本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士

目次