最近の企業では、利益偏重から継続的な経営が求められ、多様な社員を受け入れて活き活きと働ける環境を整えることが求められるものの、これまでの歴史が長い大企業ほど、会社を良い方向に変えていくことに苦心されているように見受けられます。そのような中で、大企業の方々より「組織開発」という言葉が聞かれるようになりました。
組織開発という言葉は、有識者によると「組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていく(よくしていく)ことや、そのための支援」と表現されておりますが、このような抽象度の高い意味合いで言葉が用いられるときと、組織開発の具体的な手法を意味して言葉が用いられるときがあり、後者の使い方の場合に実は内容を理解せずに使われているケースが多いのではないかと感じます。
そこで今回は、そもそも組織開発とは何か、そして組織開発の具体的な手法について、簡単にまとめてみたいと思います。主な内容は、『入門 組織開発』(中村和彦、光文社、2015年)より引用されているものが多いですので、興味ある方は、ぜひご一読ください。
最近、組織開発が注目されている
大企業においては、組織の縦割りや業務の細分化が行われており、個々人での仕事が多く、一体感が薄れている中で、さらに、新型コロナウイルスの影響によって、物理的にも離れて仕事を行う時間も増え、求心力が落ちてきている状態になっている企業が多いのではないでしょうか。そのような状態にも関わらず、短い時間の中で高い生産性が求められ、生産性が高いわけではない職場では常に業務に追われていて、仕事に対して前向きに取り組むことができない社員が増えていると想像されます。
さらに、多様性の受容が求められ、様々な個性、年齢、人種などの社員がいて、雇用形態の違う人も混在しながら仕事を上手く進めていかなければならず、その組織をマネジメントしなければならない立場の人は、これまでのマネジメント、一律のマネジメントでは通用しなくなってきているのが現状だと思います。マネジメントを行わなければならない人たちは、これまで自身が育ってきた環境とも大きく変わり、場合によっては年上の部下 / 年下の上司といった関係性もありながら、自身が教えられてきたことをそのまま実行しても上手くいかないという課題の多い職場があるのではないでしょうか。
実際に、日本人は、組織に対してのロイヤリティ(エンゲージメント)が高いというのは過去の話のようで、GALLUP社の調査 「State of the Global Workplace2021」によると、従業員エンゲージメントの国際比較で、日本は世界の各地域と比較しても、さらに日本と東アジア(中国、韓国、台湾、香港、モンゴルなど)と比較しても、エンゲージメントの高い社員の割合が最低水準と言われています。
この数年の環境変化で、これまで誤魔化しながらなんとかしてきた企業も、課題が浮き彫りになり、いよいよ無視できない状況になってきたと感じます。そのような企業が、解決の糸口の一つとして、組織開発ということに着目する人が増えてきているのだと考えます。
組織開発とは何か
まず、「組織」とは、「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や機能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させること」と定義されております。文字だけだと難しいですね。この記事を読まれている大半の方は企業に勤めていると思いますが、例えば「会社」という組織は目的・目標があって、それを達成するために役割分担や権限・責任を設けながら活動をしていて、その活動をよりよくするために組織開発があるというわけです。また、組織開発が働きかける対象としているもの(つまり組織)が何か図解化されているものがあるので、そちらをご覧になっていただけるとさらに理解が深まると思います。
次に、組織開発で言うところの「開発」とは「組織の発達・成長を促す」というイメージになります。組織というシステムが発達していくためには、組織内の当事者が自ら組織をよくしていくことに取り組むということが組織開発では重要だと考えられております。
記事の冒頭でも、「組織開発」について有識者が表現している文言をご紹介しましたが、別の有識者が明確に定義した内容で表すと「組織の健全さ、効果性、自己革新力を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である」と定義されているそうです。こちらもパッと分かりにくいですね。有識者の書籍の中で分かりやすい例えがあったので、そちらを引用すると、「綱引きに例えると、手を抜いたり、タイミングがズレたり、引っ張る方向や角度が異なると、大きな力が出ない。一方で、みんなが全力を出して、タイミングが合っていて、引っ張る方向や角度がピッタリ合えば、大きな力が出る」という表現がありました。大変分かりやすいですね。「手を抜いたり、タイミングがズレたり、引っ張る方向や角度が異なる」ことは、ロスにつながるということです。ロスするかしないかは、その組織(と、そこに属している人)が、以下の観点においてどのようになっているかが関係すると言われております。
- どのような気持ちか
- どのように参加しているか
- どのようにコミュニケーションがなされているか
- どのように課題や仕事が進められているか
- どのように決められているか
- お互いの間にどのような影響があるか
- リーダーシップはどのように発揮されているか
また、有識者によれば「コミュニティや組織の中の信頼関係やお互いの間のネットワーク、助け合いの規範という関係性を資本と捉えると、その形成に投資しないと目減りするとされている」と延べられております。ついついそのままにしがちなことですが、人の関係性には時間などと費やしていかないと良い状態は保たれないということです。
組織開発の方法について
それでは、ここからは組織開発の具体的な手法について、ご紹介したいと思います。組織開発の手法は、基本的には、2つのアプローチが存在すると言われています。「診断型組織開発」と「対話型組織開発」です。
診断型組織開発は、その名の通り、「診断」というフェーズが入る取り組みです。診断型組織開発の代表的なモデル(組織開発の進め方)として「ODマップ」というものがあるそうなのですが、その組織開発の進め方が以下の内容になります。
診断型組織開発の特徴は、データに基づくことが重視されており、フェーズに出てくる「データ収集」では、インタビュー調査、会議や日頃の職場の様子の観察、質問紙調査などによってデータが集められます。質問紙調査は、例えば、従業員満足度調査や360度サーベイ・フィードバックなどがそれに該当します。
対話型組織開発は、「データ収集」「データ分析」「フィードバック」という診断のフェーズがないものを対話型組織開発として位置づけられております。代表的な手法として、AI(appreciative inquiry、アプリシエイティブ・インクワイアリー)やフューチャーサーチといったものがあります。このあたりは、かなり専門的になり、それだけで分厚い書籍が出されているくらいなので、今回は簡易的な説明にとどめておきます。AIは、人や組織の強みに光を当て、強みや潜在力が活き活きと発揮されるような状態や源を探求し、潜在力が発揮された将来とそれに向けての行動を計画しているアプローチと言われています。AIのセッションは「4Dサイクル」と呼ばれており、「①ディスカバリー : 組織や個人の強みや潜在力を発見する」「②ドリーム : 発揮された未来を創造する:」「③デザイン : ともに目指す状態やあり方を明確にする」「④ディスティニー : 行動と変化の定着のための取り組みを計画する」という4つのステップを用いて組織開発が行われます。これだけ聞くと、AIが大変素晴らしいもののように聞こえますが、個人的には、このセッションをファシリテーションすることができ、且つ、その組織とも関係性が構築できている組織外の人が、なかなか存在しないという難しさがあるのではないかと感じております。
診断型組織開発と対話型組織開発の大きな違いは、診断型組織開発は診断のフェーズで組織の外の人が当事者の代わりに現状把握を行いますが、対話型組織開発では当事者が対話を通して現状を把握するという点です。
対話や個人・組織の強みがより重要視されていく
誤解のないように改めて記載しておきますと、「診断型組織開発」においても、「対話型組織開発」においても、いずれも「対話」は重要な行動になってきます。「診断型組織開発」においても、収集されたデータをもとにして、「対話を通してプロセスについての気づきを促進する」ということを行いますので、「対話」は避けては通れないということです。
また、そのときには、個々人の強みを活かして、最終的に組織の強みにしていって、高い成果を出していくことも重要になります。
これまでのマネジメントで主に用いられてきた「指示・命令」だけでなく(これが不要だと言っているわけではない)、これからのビジネスの環境にあわせたマネジメント(対話や強みも重視する)を行い、綱引きでみんなが全力を出し、タイミングが合って、引っ張る方向や角度をピッタリ合わせて、大きな力を出すということを目指していっていただければと思います。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士