『イントレプレナー』は、『幸せ』なのか – 幸せの四因子から見るイントレプレナーの幸福度

 アイディアポイント岩田です。現在、『イントレプレナー』と呼ばれる『社内で新しいことをはじめる人たち』に焦点をあてて、その人たちはどんな人たちで、どんなきっかけで新規事業をスタートして、どんな苦労を乗り越えて、どこに向かっているのかを調べています。

今回は、『イントレプレナー』という立場が、『幸せ』なのかについて、最近、徐々に広がっている(?)『幸福学』の観点から考えていきたいと思います。(イントレプレナーについてはこちらの記事をご覧ください。)


目次

そもそも、『幸福学』って何?

「幸せってなんだろう?」、「幸せな人ってどんな人だろう?」、「どうすれば幸せになるんだろう?」多くの人が、素朴な疑問にしてとても難しい疑問を持って生きているのではないでしょうか。特に、先行きが見えにくく、どうやらこれまでのやり方ではうまくいかないようだと、なんとなくわかっているものの、どうしたらよいのかわからない人にとっては、あらためて、『幸せ』について考えたくなる瞬間があるのではないでしょうか。

直近では、「Well-being」という言葉を聞くことも多くなってきています。Well-beingとは、そのままの意味で「よい状態でいる」ことです。WHOの定義によると、「肉体的にも、精神的にも、社会的にも健康な状態」と定義されています。やはり、多くの人にとっては体が健康で、精神状態も落ち着いていて、社会的にも十分、満足した状態で人生を送りたい、そのような環境で働きたいと思うのではないでしょうか。

『幸福学』では、このような『幸せ』というキーワードに対して、『幸福度(幸せだと感じる度合い)』に対して、どのような要素が影響を与えているのかを分析したものです。本ブログの内容は、書籍「幸せのメカニズム」(前野隆司、講談社現代新書)及び慶應義塾大学前野研究室とパーソル総合研究所、「はたらく人の幸福学プロジェクト」の内容を参考に書いています。今回は、『幸せの4つの因子』を中心に議論しますが、その前提について、簡単に説明しておきます(あくまで、幸福学の一部なので、詳細は上記をご覧ください)。
 

  • 幸福には『長続きする』ものと『長続きしないものがあるらしい
    ・「地位財」と呼ばれる他人と比較できる財で得られる幸せは長続きしない(金、モノ、社会的地位など)
    ・一方で、そうでないもの(非地位財型)の幸せは長続きする
  • 非地位財型の長続きする幸せは、安全などの環境、健康など身体の状態、そして、心の状態により得られるものである
  • 今回、議論する心の状態(幸せだと感じている状態)には、4つの因子が影響を与えている
    1. 自己実現と成長(やってみよう因子)
    2. つながりと感謝(ありがとう因子)
    3. まえむきと楽観(なんとかなる因子)
    4. 独立と自分らしさ(ありのままに因子)

イントレプレナーは『幸福な仕事』なのだろうか?

ここでは、幸せの4因子を元に、イントレプレナーという仕事が「幸せ」なのかについて議論したいと思います。もちろん、どんな状況、状態を『幸せだなぁ』と感じるかは、人によります。一方で、人には『傾向』がありますので、一般論として、「幸せを感じる」仕事なのかという点について、それぞれの因子とイントレプレナーの仕事を比較しながら考えていきたいと思います。

自己実現と成長(やってみよう因子)

ひとつめの因子は、「自分自身がやりたいことに取り組んでいる」「何かチャレンジする」、「そして、成長している」と感じているというものになります。

社内起業のほとんどは、何らかの形で「手を挙げている」ものがほとんどです。また、業務としてアサインされた場合でも、裁量が大きいため、多くのイントレプレナーは、「自分のやりたいような形」にしながら進めていることがほとんどなのではないでしょうか。

今回のインタビューで、「自分が成長している」ことに言及している人はほとんどいませんでしたが、一方で、「成長していますか」という質問に対しては、全員が、「事業の立ち上げを経験しなければ、こんなにいろいろなことができるようにはならなかった」と成長の実感を持っている様子はうかがえました。ご本人としては、自分の成長よりも、事業の成長に興味関心がいっているために、優先順位は確実に下がっているのでしょうが、ほぼ全員が「自分自身が成長している」ことを感じているようです。

このように見ていくと、イントレプレナーという仕事は、「自己実現と成長」の因子は満たしている仕事のように感じます

つながりと感謝(ありがとう因子)

これは、つながりを感じていたり、感謝の気持ちを持って、日々を過ごしているかどうかという内容です。

今回のインタビューでは、多くの人が「チームの重要性」、「親会社への感謝」、「顧客、パートナーへの感謝」の話をしていました。おそらく、何もないところから新しいことに取り組む場合に、支えてくれる人、助けてくれる人、お金を出してくださる顧客、一緒にリスクをとってビジネスを推進してくれるパートナーには、つながりを感じるだけでなく、本当に感謝されているのだろうと思います。また、多くの人が「顧客から感謝される」経験を本当にうれしそうに話すのを聞くと、感謝されることの実感も非常に得られるのだろうと思います。
これらは、イントレプレナーに限らないことかもしれませんが、「小さいチーム」、「小さなビジネス」だと顧客やチームの顔が見える / 見えやすいという特徴なのかもしれません。

一方で、人との「つながり」や親会社や本体ビジネスとの「距離感」、「関係」、『自身のチームづくり』は多くのイントレプレナーの悩みのひとつであり、社内で新しいことに取り組みをスタートするときに「つながりと感謝を感じられる環境を作れるかどうか」は、ひとつの課題のように感じられます。

まえむきと楽観(なんとかなる因子)

これは、その状況を前向きにとらえられることができる、自分ならできるような気がしている、状況がよい方向になると感じる / 信じることができるということを指しています。

今回のインタビューで感じたのはみなさん前向きで明るいし、楽観的だなということです。まさに、そのまんまです。ここは、特に、議論の余地がなさそうです。

一方で、それは、「性格」だけで片付けられるものでもなさそうなので、いくつか補足したいと思います(もっとも、本来の性格もあると思いますが)。

ひとつめは、彼 / 彼女らは、前向きさ、明るさを「コントロール」していることです。理由やコントロールする方法は人それぞれですが、「リーダーが暗かったり、元気がなかったりするとチームに影響がでるから、お客さんが心配するから、最初は苦しくても楽しくやっているフリをすることも大事だから」という声は何度も聞きましたし、「もちろん、大変なこともあるけれども、意識的に引きずらないようにしている」、「困ったことがあったら、メンターに話すように決めている」など、自分が前向きであること、明るくあることを「そうでなくなる」ことを前提にして、よい状態を保つ工夫をしています。

ふたつめは、彼 / 彼女らは、ものすごく『考えて』います。前向き、楽観的という表現だけでは、「あまり、考えないようにしている」ように聞こえますが、実際は、まったくそんなことはありません。彼 / 彼女らの「考えても仕方がないことは考えない」は、正確には、「(自分とみんなので力であらゆるケースを考えつくしてできることは全部やった上で、それ以上のことは)考えても、(自分たちではどうしようもなかったということで)仕方がないこと(なので、それ以上)は考えない(ことにする)」というものです。

みっつめは、『根拠のある自信』です。彼 / 彼女らは、一様に明るく、前向きですが、その言葉には、自信があります。自信というとやや押しの強いイメージがありますが、きちんと自分の能力を信じていることからくる「大丈夫」という感じです。少し専門的な用語では自己効力感(セルフエフィカシー)といいますが、「よくわからないけど、自分ならできるんじゃないか」という自信です(根拠があってもなくても構いません)。ほとんどの人は過去にきちんと仕事に取り組まれていて、「自分ならなんとかなる」という根拠のある前向きさと明るさを持っているように感じました。

独立と自分らしさ(ありのままに因子)

「自分が、自分で考えて、自分で行動している」感覚のことを言います。また、それを「尊重されている」という感覚を持っていることも重要です。ここでは、「自分勝手にやっている」という意味ではありません。

この点に関しても、基本的には、イントレプレナーは組織的には独立して動いているので、独立して自分らしく働いていると言えそうです。一方で、実際にインタビューするとこの点に関しても課題や悩みがありそうだと感じます。

具体的には、「独立していても、本体の意向でビジネスがストップすることもある」、「本体の意思決定を待たなくてはいけないので、結果的に非常にスピードが遅くならざるを得ないときがある」、「スタッフの人事異動など、権限があると言えども、自分ではどうしようもできないことがある」、「細かくレビューが入っていて、毎回、できていないところを指摘される」など、独立体として活動していても、実際には、どのくらい『拘束がある』のかという点での悩みは多いようです。とは言え、逆に、『基本的にはすべて任されているので、ほとんどのことは自由にやっている』という話も聞くので、この点に関しては、各社によって異なるのかもしれません。


結局、イントレプレナーは『幸福な仕事』なのだろうか?

 
今回の結論としては、『イントレプレナーという仕事は、幸せを感じやすい仕事』だということが言えます。但し、これは『仕事の種類』として、『幸せ』を感じる要素を満たしているということにしかすぎません。

実際問題として、自分がその環境に置かれたときに、それぞれの因子を満たすような状況を作れるのか、自身の気持ちをそのような状態にして、その後、無理なく維持できるのかという課題もあります。

今回、議論できていないネガティブな因子と取り除くことができるのか、例えば、オーバーワークの問題(質、量、共に自分ができる範囲に収まっているのか)、評価の公平性に耐えられるのか(各社の事情によりますが、新規事業の評価が既存事業の評価と比較して十分、公平かどうかは必ず難しい課題になってきます)、自分が孤立せずによいチームのリーダー / 一員として振る舞うことができるかという課題もあります。

最終的に何が「幸せ」なのかは人によりますが、様々な研究で「幸せを感じる人」にはどんな傾向があるのかが解明されつつあります。個人的には、「イントレプレナーはその資質と自信がある人にとっては、幸せを感じる仕事」になると思います。今回の記事をきっかけに、「イントレプレナーってどうかな」と思うきっかけにしていただければうれしいです。

現在、私たちは、「社内で新しい事業を起こす人(=イントレプレナー)」にインタビューを進めています。彼ら/ 彼女らについて、『聞いてみたい』ことや『興味のある』ことがありましたら、ぜひ、お問い合わせください(どんな切り口でまとめようか試行錯誤中)。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
代表取締役社長
岩田 徹

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