デザインシンキングを取り入れて新しい事に取り組んだ企業の例を5つ紹介します。また、実際にデザインシンキングを実施するにあたって、どんな方法を取り入れることができるのかについても見ていきましょう。
デザインシンキングとは?
デザインシンキングとは、ユーザー目線で商品やサービスの開発、課題解決を進める思考法のことです。デザイナーがデザインするときの思考法をベースに生まれました。
デザインシンキングは、以下の3つの過程で進めていきます。
- より高い満足や共感を得るために、ユーザーを「観察」する
- 個人や業界の固定観念にとらわれることなくアイディアを「発想」する
- アイディアを実現するために「プロトタイピング」を行い、具体的な形にする
また、観察・発想・プロトタイピングの過程を何度も繰り返すことで、アイディアをブラッシュアップするのもデザインシンキングで欠かせない要素です。
世界はかつて経験したことのないスピードで変化しています。また、不確実性や複雑性、曖昧性が増し、企業側が一方的に提案するモノやサービスでは市場に受け入れられなくなってきました。
そこで注目されているのがデザインシンキングです。デザインシンキングではユーザーファーストの視点でモノ作り、サービス開発を行うので、ニーズの変化や不確実さ、複雑さ、曖昧さにスムーズに対応できます。
今後ますます急速に変わり続ける世の中に対応するためにも、デザインシンキングを学び、実行することは有意義といえるでしょう。
デザインシンキングの特徴
デザインシンキングの特徴をまとめると次の3点に集約できます。
- ユーザー目線で考える
- アイディアを形にしてからブラッシュアップする
- 固定観念を取り払う
それぞれのポイントについて、具体的に詳しく見ていきましょう。
ユーザー目線で考える
従来、モノやサービスを開発する際には、ユーザーニーズをリサーチし、仮説を立てて検証し、商品開発に活かす「仮説検証型」の思考法がよく用いられます。
仮説検証型の思考法でも、ユーザーに寄り添った商品開発や課題解決は実現することは可能です。しかし、そもそもの仮説がユーザーニーズを反映していないことや、リサーチでユーザーニーズを発見できないことも多く、多様性を是とする現代の世の中にはフィットしないケースが少なくありません。
その点、デザインシンキングは、商品やサービスの提供者側目線ではなくユーザー目線での思考法です。仮説検証型ではリサーチ結果を分析する段階や仮説を立てる段階で企業の視点が入ってしまいますが、デザインシンキングの各ステップでは企業側の視点が一切入りません。そのため、よりユーザーに寄り添った商品やサービスの開発、課題解決を実現しやすくなります。
アイディアを形にしてからブラッシュアップする
デザインシンキングでは、アイディアが生まれたらそのまま商品化するのではなく、まずはプロトタイプの作成です。プロトタイプの作成はあくまでも簡易的に行い、何度も作成し、実用可能か、より使いやすいにはどう工夫ができるかなどの検証に活用します。
デザインシンキングでは、観察と発想、プロトタイピングの過程を何度も繰り返すことが特徴です。よりユーザーに寄り添ったモノやサービスへとブラッシュアップするためにも、観察と発想、プロトタイピングの過程を繰り返します。
固定観念を取り払う
デザインシンキングを実施するときには、固定観念が入り込まないように注意します。デザインシンキングをする人個人の固定観念や、業界ならではの固定観念が入り込むと、従来の仮説検証型の思考プロセスと似たような結果を生み出す恐れがあるでしょう。ユーザー視点の商品開発や課題解決を実現するためにも、固定観念を取り払い、ユーザーの共感と満足を得ることに注力します。
デザインシンキングを活用した5つの事例
デザインシンキングを商品やサービスの開発、課題解決などに活用している企業も少なくありません。実際にデザインシンキングを実施した事例を5つ紹介します。それぞれデザインシンキングを活用するに至った経緯や結果についても見ていきましょう。
日商エレクトロニクス
企業のDX推進をサポートする日商エレクトロニクスでは、8つの異なる事業を有する自社サービスの価値や魅力をユーザーに伝えきれていないという課題を抱えていました。そこで、よりユーザーにわかりやすくサービス内容や特徴などを伝えるためにも、WEBサイトのリニューアルを思い立ちます。
元々、8つの異なる事業がそれぞれ単独で機能しているため、WEBサイトも8つ別々に存在していました。しかし、そのままそれぞれのWEBサイトをリニューアルするだけでは、ユーザーにとっては使いにくく、また、使い分けることが難しいままになってしまいます。
そこで、ユーザー目線での発想、デザインシンキングを活かし、8つの事業とWEBサイトを統合して1つのブランドとして事業を展開していくことで使いやすさを実現しました。また、1つのブランドにしたことで、社内で意思統一しづらいという課題の解決にも繋がっています。
トヨタ
トヨタではサービス技術部を設け、サービスエンジニアと呼ばれる技術系のスタッフの育成やサービス技術の開発などを行っています。サービス技術部が開設したサービスセンターには、毎年多くのサービスエンジニアが技術などを学びに来る施設です。
トヨタではサービスセンターで新しいアクションを起こし、サービスエンジニアたちに夢を持ってほしいという希望を持っていたものの、実際どんなアクションを起こせばよいかという点が明確ではありませんでした。
そこでサービス技術部では、サービスエンジニアたちが「ありたい姿」を描くことで、ビジョンマップをつくるというアクションを起こします。つまり、このケースにおける「ユーザー」であるサービスエンジニア側の目線に立った改革を始めたのです。例えばサービス工場の作業スペースに監視カメラを設置するというアイディアも、サービスエンジニアたちの「ありたい姿」から生まれました。
実際に、監視カメラを設置することで作業の様子が把握しやすくなる、2人でしていた作業が1人でできるようになる、顧客が自分の車が整備されている様子を確認できるなどの多くの成果が得られています。サービスを開発する側ではなくサービスエンジニアたちの目線に立ち、デザインシンキングを実施したことで、より良い成果物が生まれたといえるでしょう。
ピアトラスト
従業員同士が褒め合う社内コミュニケーションサービスの開発を目指していたピアトラストは、開発チームだけでなく、クライアントも巻き込み、従業者目線でのアイディア出しを実施しました。
この場合の「ユーザー」に相当する従業者の目線に立った結果、他の従業員から受け取った賞賛はより価値を感じやすいようにカード型で表示する、賞賛コメントを送ったほうも評価するなどのさまざまなアイディアを得られています。これらのアイディアの多くはコミュニケーションサービスに反映され、より良いサービスの実現に貢献しました。
Airbnb
Airbnbでは自宅を宿泊施設にしている民泊を紹介するサイトですが、開発初期は利用者が少なく、事業継続も厳しい状態でした。しかし、デザインシンキングを活かして利用者目線で考えたことから、民泊物件の写真の見栄えが悪く、決して泊まりたいと思えないことに気付きます。
その気付きを活かし、民泊物件を登録しているオーナーの協力も得て見栄えの良い写真に差し替えていったところ、利用者が急激に増えました。
Spotify
Spotifyのようにストリーミングサービスを提供している企業は多数あります。しかし、Spotifyはデザインシンキングを活かしてユーザー目線で開発した「音楽リスト」を提供することで、他のストリーミングサービスとの差別化に成功しました。例えば「月曜日を元気にするリスト」など、ユーザーが求める音楽をリストとしてまとめ、使いやすさや楽しさを実現しています。
今すぐ実施できるデザインシンキングのポイント
デザインシンキングは、決して難しい思考法ではありません。以下5のつのポイントに留意することで、誰でもすぐに実行することができます。
- ターゲットに共感して注目点を探す
- ターゲットの行動の理由を探る
- ターゲットのニーズを見つける
- ニーズに合うモノやサービスを試作する
- 試作とブラッシュアップを繰り返す
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
ターゲットに共感して注目点を探す
デザインシンキングでは作り手の思いは必要ありません。ユーザーのターゲットを定め、ターゲットに共感して注目すべき点を探します。ターゲットと自分自身をシンクロさせることで、何に注目すべきかが見つけやすくなるでしょう。
例えばメッセージアプリを開発する場合、アプリ内のスタンプ機能を使用しているユーザーが少ないという点が気になるかもしれません。このようにターゲットの行動に理由付けをするのではなく、あるがままの状態に共感し、注目すべきポイントを探ります。
ターゲットの行動の理由を探る
ターゲットを観察すると、気になる行動がいくつか見つかるでしょう。なぜそのような行動に出るのか、理由を探っていきます。このときにも観察者自身の推測や経験などは不要です。シンプルにターゲットだけを見て、ターゲットの行動の理由を正確に突き止めます。
メッセージアプリ開発の例でいえば、スタンプ機能を使用しているユーザーが少ない理由を探ることができるでしょう。アプリ提供者側が推測するのではなく、直接ユーザーに尋ねる、あるいはユーザー目線で使いにくさを探るというアプローチを選択します。
ターゲットのニーズを見つける
ターゲットの行動の理由が明らかになると、ターゲットのニーズも見つかることがあります。スタンプ機能を使用しているユーザーが少ない理由として、スタンプを表示させるまでに数字やエンターを3回もクリックしなくてはいけないことが判明したとしましょう。ワンクリックで表示できるように仕様を変更することが、ターゲットのニーズだと考えられるかもしれません。
ニーズに合うモノやサービスを試作する
ターゲットのニーズを特定したら、ニーズを満たすモノやサービスを試作します。この段階ではニーズをひとつに絞り込まずにいくつかの可能性を想定しておくこともできるでしょう。
スタンプ機能の例でいえば、ワンクリックでスタンプを表示できる仕様にアプリを変更できるかもしれません。プロトタイピングを行い、実際に使いやすいか、ユーザーに受け入れられるか探っていきます。
試作とブラッシュアップを繰り返す
試作は1回では完成しません。何度も作成し、より使いやすい状態、よりターゲットのニーズを満たすモノやサービスにブラッシュアップしていきます。試作とブラッシュアップを繰り返すことで、ユーザー目線での開発や課題解決を目指すデザインシンキングが完成するでしょう。
デザインシンキングの思考法を習得しよう
多様化するニーズに対応していくためにも、ユーザー目線で商品やサービスの開発、課題解決を実行するデザインシンキングの思考法は欠かせません。固定観念を取り払い、ユーザーと思いをひとつにしてニーズを探っていきましょう。また、ニーズを探った後はプロトタイピングを行い、何度も観察とアイディア出し、試作の過程を繰り返すことも大切です。
デザインシンキングなどの手法を通して新しい価値観を生み出したいとお考えのときは、ぜひアイディアポイントにご相談ください。激しく変わる社会の中で新しいニーズの発見を目指す企業さまに寄り添い、サポートを実施していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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