シュンペーターのイノベーション理論とは?定義や実践方法を具体的に解説

シュンペーターのイノベーション理論とは?定義や実践方法を具体的に解説

イノベーションに関する研究は古くから行われており、多くの経済学者が独自の理論を展開しています。

なかでも代表的なのが、現代のマーケティング理論の基盤とされている、シュンペーターのイノベーション理論です。シュンペーターは、イノベーションという言葉を初めて使用したことで知られています。

今回は、シュンペーターのイノベーション理論について、定義や実践方法などを具体的に解説します。

目次

1.シュンペーターのイノベーション理論とは?

ヨーゼフ・シュンペーターはオーストリアの経済学者で、20世紀前半にイノベーションという言葉を最初に使った人物だといわれています。

シュンペーターはイノベーションを、「価値の創出方法を変革して、その領域に革命をもたらすこと」と定義しました。そして、イノベーションの初期段階では、「新結合(ニューコンビネーション)」が起きるといいます。

イノベーションには、シュンペーターが提案したもの以外にもいくつかの理論がありますが、シュンペーターのイノベーション理論は多くの経済学者に影響を与え、現代のマーケティング理論の基盤となっています。


2.イノベーションの定義は「技術革新」ではなく「新結合」

シュンペーターが定義したイノベーションの大きな特徴として、イノベーションは「技術革新」ではなく「新結合」であるという点が挙げられます。

新結合とは、単体ではすでに存在するものの、それまでに組み合わせたことがない要素同士を結び付けることで、新たな価値を創造することを意味します。

日本では「技術革新こそがイノベーション」という考え方が根強く、画期的な商品やサービスを生み出すことが重視されてきました。結果的に、そのことが今日の日本でイノベーションが発生しづらくなる要因のひとつになっているといわれています。

また、シュンペーターはイノベーションを「経済発展の原動力」と位置付け、次の2つの段階から成り立つとしています。

1.経済の循環的変化

人口構造や社会情勢の変化といった経済そのものの変化によって起きる

2.経済の断続的変化

この段階で新結合が起きる

新結合によって、価値を創出する方法が変わります。また、その段階で重要になるのが、銀行・企業者・イノベーションの3つの要素です。
銀行が企業者に融資を行い、企業者はその資金をもとに商品やサービスを生み出し、イノベーションを創造します。まさに今日の経済発展のもとになる形といえるでしょう。


3.シュンペーターによるイノベーション理論の5つの類型

シュンペーターによるイノベーション理論は次の5つから成り立っており、それぞれ経済発展と深いつながりがあります。

  1. プロダクトイノベーション(商品やサービスの創出)
  2. プロセスイノベーション(生産・流通方法の創出)
  3. マーケットイノベーション(市場の創出)
  4. サプライチェーンイノベーション(供給方法の創出)
  5. オーガニゼーションイノベーション(組織の創出)

具体例を交えて詳しく見ていきましょう。

1.プロダクトイノベーション(商品やサービスの創出)

新結合によって今まで世の中に存在しなかったものを生み出すことで、新しい価値観を消費者に提示できます。例えば、回転寿司。かつて、寿司は高価な食べ物でしたが、それをベルトコンベアと掛け合わせることで、注文が入る前に機械を使って大量生産することが可能になりました。価格が下がり、寿司は誰でも気軽に楽しめる食べ物へと変化しました。

2.プロセスイノベーション(生産・流通方法の創出)

生産や流通の方法を見直すことで、従来よりも短い時間で、より良い製品を消費者に届ける効果が期待できます。プロダクトイノベーションのように新しい商品やサービスは生まれませんが、コストや時間の大幅な節約、商品の精度向上などにつながります。低価格の衣料品を大量生産するファストファッションも、生産や流通の方法を見直すことで生まれたイノベーションの事例です。

3.マーケットイノベーション(市場の創出)

単身者向けのマンションのチラシをファミリー層向けに配布し、テレワーク用の部屋を探している潜在客にアプローチするなど、目線を変えて新しい市場を創出するのがマーケットイノベーションです。市場が広がることで、頭打ちになっていた売り上げが再び伸び始めることもあります。

4.サプライチェーンイノベーション(供給方法の創出)

サプライチェーンイノベーションでは、材料そのものや材料の供給源を開拓することで新たな価値を生み出すことを目指します。例えば、アパレルメーカーが新たに開発された再生繊維を利用して洋服を製造することなどが挙げられます。供給元を広げることは経営におけるリスク回避の意味も持ちます。

5.オーガニゼーションイノベーション(組織の創出)

理想的な組織の形は、時代と共に変化していきます。従来の組織の形にとらわれず常にイノベーションを起こしていくことで、時代の変化に強い筋肉質な組織への変革が可能です。従来、組織の形態は経営者を中心としたトップダウン型が中心でしたが、すべての従業員が社内運営における決定権を持つ「ホラクラシー」や、上司と部下の関係性がない「ティール組織」など、新しい形の組織が次々と生まれています。


4.イノベーションの事例

イノベーションが技術革新ではなく「新結合」であることがわかる事例として、ヤマト運輸株式会社が手掛けた個人向けの配送サービスが挙げられます。

ヤマト運輸は、もともと有名百貨店の輸送を請け負う大手のトラック運送会社でした。近距離配送の事業で成功をおさめた同社でしたが、長距離配送の分野においては競合から大きく後れを取っていました。

その後、徐々に業績が悪化していき、新たな事業を立ち上げるうえで個人宅配の市場に着目しますが、その当時、「個人宅配はコストが高く、採算が合わない」という考え方が業界内では一般的でした。

しかし、ヤマト運輸は、「小さな荷物でも集めれば大きな流れになる」と考えます。それがイノベーションとなり、今日の個人宅配の仕組みがつくられるきっかけになりました。その後も、「配送+冷蔵」「配送+ゴルフ」など、顧客の視点に立った画期的なサービスをいくつも創出しています。

このように、既存の要素を組み合わせた新結合によるイノベーションの事例はいくつも存在します。


5.シュンペーターの理論から学ぶイノベーションのコツ

組織でイノベーションを起こすことは、事業を継続するうえで大きな意味を持ちます。ここでは、シュンペーターの理論から学ぶイノベーションのコツを紹介します。イノベーションを起こすには、偶然起きるのを待つのではなく、「起きやすい環境」をつくることが重要です。

イノベーションは0から1を生み出すことではないと理解する

技術革新は、まさに0から1を生み出す思想です。今ここにないものを技術革新によって生み出すと世の中に大きなインパクトをもたらしますが、ハードルが高く、めったに起きることではありません。

イノベーションは新結合であり、今あるものの組み合わせで起きると考えれば、非常に身近なものだと感じられるはずです。イノベーションは0から1を生み出すことではないと理解しましょう。

外部パートナーの力を借りる

「イノベーションは自力で起こすもの」というプロダクトアウトの思想も、イノベーションを遠ざける要因になります。

モノやサービス、情報があふれ、人口減少などの理由から人材の確保が難しくなっていくこれからの時代においては、自社の強みと外部パートナーの強みを掛け合わせるオープンイノベーションが重要になってきます。外部パートナーの力を借りて、自社の強みをイノベーションに転換することを考えてみましょう。

デザインシンキングを取り入れる

イノベーションは身近なところから起きることが多いため、日頃から目の前の小さな出来事に気づけるかどうかが重要になります。そこで活用したいのが、デザインシンキングという考え方です。

デザインシンキングは、イノベーティブなアイディアを創出し、それを形にするための思考法です。

(デザインシンキングについてはこちらの記事をご覧ください。)

デザインシンキングに活用できる手法には、さまざまなものがあるため、自社に合ったものを探してみましょう。詳しくは次の記事↓をご覧ください。


6.イノベーションが生まれる組織へ変化しよう

シュンペーターのイノベーション理論は、イノベーションが誰にでも起こせるものであり、身近なものだと感じさせてくれます。

組織でイノベーションを生み出すには、柔軟な発想をもとに新しいことにチャレンジしやすい環境を整えることが重要です。その手段として、デザインシンキングという考え方を取り入れることも、ぜひ検討してみてください。

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