デザインシンキングはさまざまな分野に活用できる考え方です。どのように活用できるのか、具体的なプロセスを紹介しつつ解説します。また、デザインシンキングを事業開発などのビジネスに用いるメリットや注意点についても見ていきましょう。
デザインシンキングとはユーザー目線の課題解決法
デザインシンキングとは、デザイナーの思考プロセスを生かした課題解決に導く考え方のことです。デザイナーはデザインを考えるとき、自分が作りたいものを自由につくるのではありません。ユーザーが何を求めるのかを第一義とし、ユーザーの目線で望ましいデザインを決めていきます。
例えば乳児用の下着であれば、どんなにかわいらしいデザインでも、ユーザー目線に立っていないならばニーズは少ないと考えられるでしょう。シルクなどの洗濯機で洗えない素材は1日に何度も汚す下着には不適切といえ、また、ビーズやボタンなどの小さな飾りがついているものも万が一取れたときには誤飲を招く恐れがあります。
ユーザー目線に立つならば、洗濯機で洗いやすく、誤飲するような飾りをつけず、それでいて愛らしいデザインが求められていることに気付くでしょう。このように「自分が何をしたいか」ではなく「ユーザーに何が求められているか」を考え、具体化していくことがデザインシンキングです。
デザインシンキングを行う4つのステップ
デザイナーがデザインを生み出すときの思考の流れに合わせてビジネスの課題解決を行うのが、デザインシンキングです。具体的には次の4つのステップによりデザインシンキングを進めていきます。
- 観察(Observation)
- 発想(Ideation)
- プロトタイピング(Prototyping)
- 1~3を繰り返す
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
1.観察(Observation)
最初にユーザーが何を求めているか知るために、ターゲットとなるユーザーの観察を行います。現場に出向き、ユーザーの行動や行動しないこと、発言、発言しないことに注目しましょう。
また、単に観察者という立場で接していると、ユーザーが何を考えて行動あるいは発言している・していないかは理解できません。ユーザーに共感し、ユーザーとつながり、自分自身がユーザーと同じ目線に立つことで初めて、ユーザーのニーズを本質的に理解することができます。
2.発想(Ideation)
観察した事柄から、何が必要なのかアイディアを発想します。また、アイディアが浮かんだ後に、創造性を働かせてブラッシュアップを行うとより優れたアイディアとして昇華することができるでしょう。
アイディアの特徴を一目でわかるようにするために、アイディアを絵で描くこともできます。機能的にどのような特徴があるか、また、そのアイディアを実現することで感情的にどのような動きがあるのか伝えやすくなるでしょう。
3.プロトタイピング(Prototyping)
アイディアをプロトタイプとして具体化します。具体的な形にすることで、改良するべき点が見えてくるでしょう。
なお、プロトタイプの段階では精密な完成品として仕上げる必要はありません。問題点や改善できる点を探すことが目的なので、手間とコストをかけずにたくさんつくれることがポイントになります。
4.1~3を繰り返す
ターゲットの観察、発想、プロトタイピングの3つの過程を繰り返していきます。何度か観察することで前回には得られなかった気付きが得られるでしょう。
また、プロトタイピングの後にメンバー内外からフィードバックを得ることで、より客観的な視点を得られます。その視点を次回の観察と発想、プロトタイピングのサイクルに生かしていけば、さらにユーザーのニーズを反映したモノやサービスを完成させることができるでしょう。
デザインシンキングの4つのメリット
デザインシンキングは手間がかかる考え方です。単にオフィスでアイディアを生み出すのではなく、ターゲットがいる場所に出かけ、ターゲットの行動や言葉、行動しないことなどを細かく観察することから始めるだけでなく、観察・発想・プロトタイピングの工程を何度も繰り返す必要があります。
しかし、デザインシンキングは手間と時間をかけるだけのメリットがある手法です。主なメリットとしては次の4つが挙げられるでしょう。
- ニーズに基づいた製品・サービスを生み出せる
- 類似する製品・サービスと差別化を図れる
- 実現可能かどうかを事前に確認できる
- 既存の事業をブラッシュアップできる
それぞれについて詳しく解説します。
1.ニーズに基づいた製品・サービスを生み出せる
デザインシンキングは、ターゲットを丁寧に観察することでどんなニーズがあるのか探っていく考え方です。ターゲットのニーズありきで製品やサービスを生み出していくので、必然的にニーズに基づいた製品・サービスをつくることができます。
2.類似する製品・サービスと差別化を図れる
似たような製品やサービスがあったとしても、それらがユーザーのニーズにマッチしているとは限りません。また、ユーザーのニーズを反映した製品・サービスであっても、別のユーザーのニーズを取りこぼしている可能性があります。
デザインシンキングは、ユーザーが本当に求めているものを細かく観察することがベースとなる考え方です。類似する製品やサービスがすでに出回っている場合でも、「使いやすさ」や「デザイン」などの付加価値をプラスし、差別化を図ることができます。
3.実現可能かどうかを事前に確認できる
デザインシンキングでは、観察と発想の後にプロトタイピングの過程があります。そのため、事業として本格的に始動する前に実現可能かどうかを確認することが可能です。
プロトタイピングの過程で実現が難しいということがわかれば、観察と発想の段階に戻って、より現実的なアイディアとして提案できるでしょう。事業として始動してから実現不可能ということが判明すると、時間だけでなく費用的にも多大な損失につながることがあります。経営資源を有効活用するためにも、たとえ手間がかかっても丁寧にデザインシンキングすることができるでしょう。
4.既存の事業をブラッシュアップできる
ユーザーのニーズは、常に新しいものにあるとは限りません。「このアプリのカメラ機能が使いやすかったら良いのに」「カバンにつけた飾りが、引っかかっても取れにくかったら良いのに」など、すでにあるサービスや商品を少し改善したものを求めていることも多いのです。
そのため、ユーザーのニーズを時間をかけて観察するデザインシンキングは、既存の事業をブラッシュアップする際に適しているといえます。使い方やコンセプト、機能などを少し変えるだけで、よりユーザーのニーズにマッチしたものを生み出し、ヒットにつながることもあるでしょう。
デザインシンキングの2つの注意点
ユーザーを丁寧に観察して共感し、ユーザーの目線でニーズを探るデザインシンキングは、ユーザーのニーズを的確に反映できるだけでなく、既存の製品やサービスをブラッシュアップできる手法です。また、デザインシンキングの過程でプロトタイプを作成するので、実現可能なアイディアのみをプロジェクト化することができます。
しかし、どんな場合でもデザインシンキングが適しているわけではありません。デザインシンキングを実施する前に、次の2つの注意すべきポイントについて理解しておきましょう。
- 手間と時間がかかる
- 上層部と認識を共有していないと実現が難しい
それぞれの問題点について、具体的に解説します。
1.手間と時間がかかる
デザインシンキングはターゲットの丁寧な観察と発想、プロトタイピングの過程から成る考え方です。また、一通り過程を実行するのではなく、観察・発想・プロトタイピングの流れを何度も繰り返し、ユーザーが本当に求めていることに近づいていきます。
そのため、手間と時間がかかり、思ったようなスピードで新規プロジェクトを立ち上げられない可能性があるでしょう。すでにプロジェクトの期限が決まっている場合であれば、観察の工程がおろそかになったり、プロトタイピングを繰り返さずにゴーサインを出すことになったりするかもしれません。
デザインシンキングによる製品やサービスの開発を実施するときは、「デザインシンキングには手間と時間がかかる」ということを認識し、必要な人員を割いておくことが必要です。デザインシンキングは決まった期間内に結果が出るとは限らないので、期限を決めずに、自由に考えられる環境を用意しておくことも欠かせません。
人員と期限の条件からも、事業所や部署全体で緊急に対応しなくてはいけない案件があるときや、デザインシンキングを実施するスタッフを十分に割けないときは、デザインシンキングに適したタイミングとはいえないと考えられます。時と場合を考慮してから、デザインシンキングに取り組むことが大切です。
2.上層部と認識を共有していないと実現が難しい
企業や部署の上層部が、デザインシンキングについて理解していないときはデザインシンキングを実施することは難しくなります。上層部が「ひとつの製品やサービスを生み出すのになぜそんなに時間がかかるのか」と疑問を持っている場合は、協力を期待できません。
成果が出ていないからとにかく早くアイディアを出すようにと担当するスタッフを急かし、観察やプロトタイピングの過程がおろそかになってしまうこともあるでしょう。また、発想の段階で焦りが生じ、時間をかけて観察した結果を反映できていないアイディアを生み出してしまうかもしれません。
「デザインシンキングには手間と時間がかかる、しかし、ユーザーのニーズを反映できる有意義な考え方だ」ということを上層部が認識して初めて、デザインシンキングによる開発が実現できるといえるでしょう。
上層部がデザインシンキングの意義について理解するために、上層部自身がデザインシンキングを実施するという方法もあります。実際に観察・発想・プロトタイピングの過程を繰り返すことで、実感としてデザインシンキングが持つ意味を理解できるようになるでしょう。
また、上層部だけでなく、製品やサービスの開発に関わるすべてのスタッフがデザインシンキングの手法と意義について理解していることも必要です。把握できないほどの製品やサービスがあふれる現代社会において、机上のアイディアを形にするだけではユーザーの心に響くものは生み出せません。
スタッフ一人ひとりがユーザーの元に出向き、現場の声を丁寧に聞き、デザインシンキングを通して社会的に必要とされている価値を生み出すことが求められているといえるでしょう。
デザインシンキングをビジネスに活用しよう
デザインシンキングはビジネスの課題を解決する考え方のひとつです。デザインシンキングでは、ターゲットとなるユーザーの元に出向き、ユーザーの発言や行動を丁寧に観察して共感することからアプローチを開始します。そして、何が求められているのかを実感として探り、丁寧な観察によって得られたものから発想して浮かんだアイディアからプロトタイプを作成することで、アイディアの弱みや改善可能なポイントを探っていく方法です。
デザインシンキングは、観察・発想・プロトタイピングの工程だけで終わりではありません。この観察・発想・プロトタイピングの工程を何度も繰り返すことで、アイディアをブラッシュアップし、よりユーザーのニーズを反映した製品やサービスとして形にしていきます。手間と時間がかかる考え方ですが、その分、ユーザーのニーズを反映し、既存の製品やサービスと差別化を図れるなどのメリットが多い手法です。
デザインシンキングを実施するためには、上層部の理解が欠かせません。上層部がデザインシンキングを実際に体験し、実感として重要性を認識することなども必要になることがあるでしょう。
デザインシンキングなどの手法を通して新しい価値観を生み出したいとお考えのときは、ぜひアイディアポイントにご相談ください。激しく変わる社会の中でイノベーションを実現する企業さまに寄り添い、サポートを実施していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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