デザインシンキングにおけるプロトタイピングとは?重要性や実践方法を解説

一般的にプロトタイピング(試作)は、完成形に近い試作品をつくることを意味します。しかし、デザインシンキングにおけるプロトタイピングはクリエイティブな活動の過程の一部であり、完成形をブラッシュアップするために作成することを指します。

今回は、デザインシンキングにおけるプロトタイピングの意味や重要性、実践方法を解説します。

一般的なプロトタイピングと、デザインシンキングにおけるプロトタイピングの違いを理解することで、プロトタイピングをよりクリエイティブな活動に役立てられるようになります。 

目次

1.デザインシンキングにおけるプロトタイピングとは?

「商品の完成像をつくり上げるのがプロトタイピング」という考え方もありますが、必ずしもそれだけではありません。単純なスケッチや絵コンテなどもアイディアを形にしたものであり、プロトタイプ(試作品)といえます。 アイディアの段階で、商品が現実世界に対してどのような影響を与えるのか検証できるのが、プロトタイピングのメリットです。

一方、 デザインシンキングにおけるプロトタイピングでは、試作品をつくり上げるまでの過程も重視します。試作品をラフにつくりながらコンセプトを理解し、他者からフィードバックを受けて改善を重ねていくのがデザインシンキングにおけるプロトタイピングです。頭だけでなく手や体も動かし、短時間で多くのアイディアを試して改良することを目指します。

従来のプロトタイピングは、設計した商品を実際につくることで評価・検証することを目的とした「左脳型」なのに対して、デザインシンキングにおけるプロトタイピングは、全身を使って感性を高める「右脳型」の働きを重視します。

ユーザー視点をベースにしたデザインシンキングでは、サービスを「提供する側」と「される側」を区別することなく、自らが顧客の視点を持って課題解決を目指すのが大きな特徴です。デザインシンキングの一連の活動に含まれるプロトタイピングは、開発者とユーザーの立場を越えて、融合させた活動であるといえるでしょう。


2.プロトタイピングの重要性

プロトタイピングを行うことは、商品やサービスを開発する過程で重要な意味を持ちます。具体的には、次のようなメリットがあります。 

早い段階で課題に気づける

プロトタイピングを作成しないままアイディアばかりを膨らませていくと、徐々にもとのコンセプトからズレていくことがあります。方向性が大きくズレると、後々、大きな修正を余儀なくされ、プロジェクトのスケジュールに多大な影響を及ぼします。

アイディアは、早い段階で現実的な形に落とし込むことが重要です。それによって課題に気づき、方向修正が可能になります。試作品をベースにしながら考えることで追加のニーズも発見できて、完成品の精度が向上するのも大きなメリットです。

バイアス(思い込み)を排除できる

バイアスは(bias)は日本語で「偏り」を意味し、ビジネスやマーケティングの分野においては、思考の偏りや知識を持っていることによる、「思い込み」や「先入観」と解釈されることが多いでしょう。

商品やサービスを開発する初期段階では、アイディア出しの材料としてデータの収集が行われます。収集されるデータには、ユーザーの行動分析や競合他社の売上情報などが含まれ、事実を客観的に分析するのに役立ちます。しかし、収集したデータによって開発者には少なからずバイアスが生まれ、それが自由な発想の妨げになることもあります。

プロトタイピングを行うことで、アイディアが具体的な形になり、テストできるようになります。それによって、アイディアの段階では気づかなかったバイアスに気づき、排除することで新しいアイディアが生まれる可能性が高まります。

チームの認識を合わせることができる

アイディアは、開発者の頭の中に存在するものです。そのため、開発チームのメンバーが集まってアイディア出しを行なっている段階では、コンセプトに対するそれぞれのメンバーの認識にズレが生じている可能性があります。

プロトタイピングによってアイディアが形になると、コンセプトに対してメンバー間で共通理解が得られるようになります。チームの認識が合ったうえで行う議論は、より具体的なものになり、活性化するでしょう。


3.プロトタイピングの進め方

プロトタイピングのプロセスは次の通りです。

  1. アイディアがある程度まとまった時点で、確認したい点と改善点を絞る
  2. 紙や粘土など、身近な素材を用いて有形の試作品をつくる。無形のコンセプトやサービスの試作品をつくる場合は、スキット(寸劇)や動画、スライドなどストーリーを表現する手段を用いる
  3. 試作品を見ながらディスカッションを実施する。ディスカッションは、チームメンバー・顧客・ユーザーなど、共感を得たい相手と行う
  4. ディスカッションを通じて気づいたことや、参加した相手の反応などをヒントにアイディアを修正・改善し、次のプロトタイピングへ進む

プロトタイピングには、フレームワークの活用がおすすめです。「デザインシンキング フレームワーク」の記事で、プロトタイピングに活用できるフレームワークを紹介していますので、ぜひご覧ください。


4.プロトタイピングのコツ

効率的にプロトタイピングを実施するには、次のようなコツを押さえることが大切です。

知識に頼るのではなく「感じる」ことを意識する

デザインシンキングにおけるプロトタイピングは、頭だけでなく、手・心・足など体全体を使うのが特徴です。左脳的な論理思考だけでなく、右脳的なひらめきや感性を大切にしながら創造することを意識します。

知識に頼っていると、既存のアイディアや枠組みから抜け出せません。プロトタイピングを単なる作業ではなく、クリエイティブ活動の一環としてとらえてみましょう。

アイディアを形にしながら改善していく

クリエイティブな活動において、一発で正解を出すことは、必ずしもよいこととはいえません。あらゆる角度から物事を観察し、考え、既存の枠組みにとらわれないアイディアを出すことが重要です。

プロトタイピングでも、アイディアを形にするだけでなく、その過程で改善していくことを目指しましょう。プロトタイピングは完成形ではなく、アイディアをブラッシュアップするための材料といえます。

完成度にこだわらない

試作品は、あくまでも「試作」です。トライ&エラーの途中経過を形にしたものに過ぎず、欠点もたくさんあるでしょう。しかし、欠点が多い試作品ほど改善の余地があり、価値が高いといえます。ラフ画などの簡単なものでよいので、完成形にこだわらず、まずはアイディアを形にしてみましょう。


5.プロトタイピングはアイディアを形にするための第一歩

プロトタイピングは、クリエイティブな活動の最終段階というイメージを持っている方も多いでしょう。しかし、デザインシンキングにおけるプロトタイピングは、アイディアを形にするための第一歩に過ぎません。

アイディアをどんどん形にして、ブラッシュアップするための材料にする。

ブレストを行うように失敗は関係なくできるだけ多くの課題を見つける感覚でプロトタイピングに取り組めば、アイディアが磨かれていき、最終的なアウトプットも素晴らしいものになるでしょう。

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