『平均さん』なんていない話

アイディアポイント岩田です。新年度を迎え、組織や制度の設計や様々な企画に関わることが多くなってきました。『創造的な組織作り / チーム作り』というテーマで、様々な書籍を読む中で、とても印象的だったエピソードがあったので、本日は、その紹介をします。本日のテーマは、『平均ってなんだろう?』です。

組織やチームの運営やルールを考えるときには、『平均』という数字を中心に議論を進めることが多くあります。ところで、『平均』にはどれくらい意味があるのだろう?という疑問があって、いろいろ調べるときに見つけたエピソードです。(今回は、数学的な議論はしませんので、あしからず)出典は、『ハーバードの個性学入門―平均思考は捨てなさい』(トッド・ローズ著)の中で紹介されていたエピソードです。有名な例のようで、他のところでも見たことがあります。

ギルバード・S・ダニエルズ氏が、ハーバードを卒業後、アメリカ空軍基地の航空医学研究所に就職して、事故を減らすべく、パイロットに最適なコックピットを作るためにデータを集めた際の話です。以下は書籍からの抜粋です。

彼(ギルバード・S・ダニエルズ氏)はその答えを見つけようと決心する。そして、4,063人のパイロットから集めた大量のデータを使い、コックピットのデザインに最もふさわしいと思われる平均的な寸法を 身長、胸回り、腕の長さなど、10ヵ所について計算した。計算にあたってダニエルズは 思いきって、それぞれの寸法について集められたデータの中間30パーセントの範囲内に収まる数値であれば「平均的なパイロット」に当たるものと見なすことにした。たとえば、データから割り出された正確な平均身長は175cnであったが170cmから180cmの範囲内であれば、「平均的なパイロット」の身長に当たると見なすことに決めたのだ。ダニエルズはここまで準備を整えると、パイロットをひとりひとり、平均的なパイロットと比較する作業に取り組んだ。

研究所の同僚たちはダニエルズの計算の結果を待っているあいだ、パイロットの大半は ほとんどの部位の測定値が平均の範囲内に収まるだろうと予測した。結局のところパイロットの応募者は、体が平均的なサイズかどうかでまずふるいにかけられる(たとえば身長 が2m以上あったら、つぎの段階には進めない)。かなりの人数のパイロットが、 10項目すべてに関して平均の範囲内に収まるだろうと科学者たちも予想した。しかし実際の数字がまとめられると、ダニエルズさえも衝撃を受けた。

結果はゼロ。

4,063人のパイロットのなかで、10項目すべてが平均の範囲内に収まったケースは ひとつもなかったのである。平均と比べて腕が長く、足が短いパイロットがいるかと思えば、胸回りは大きいのに腰回りの小さいパイロットも確認された。それだけではない。

10項目を3項目に絞りこみ、たとえば首回り、腿回り、手首回りに注目してみても、3つに関してすべて平均値に収まるパイロットは3.5%に満たなかったのである。 ダニエルズが発見した答えは明快で、議論の余地がなかった。

平均的なパイロットなど、存在しないのである。

つまり、平均的なパイロットにフィットするコックピットをデザインしたら、実際には誰にもふさわしくないコックピットが出来上がるのだ。
 
引用元:トッド・ローズ著『ハーバードの個性学入門―平均思考は捨てなさい』(2019年)早川書房(p11-16)

というものです。みなさんはどのような感想を持たれたでしょうか?

確かに、数学的に考えてもそれぞれの要素が大まかな相関があるにせよ、それらが独立した要素である以上、『完全に平均な人』は、確率的に減るだろうという直感が働くものの、さすがに、ゼロというのは意外だったのではないでしょうか。

実は、私たちも同様に、「様々な要素の平均(あるいは、中央値)をとって、それを重ね合わせたり、組み合わせたりしながら、人物像を作り上げて、その『ミスター / ミス / ミセス 平均』を想定して企画していないだろうか、あたかもそうすることが、一番、多くの人を幸せにしているような錯覚に陥っていないだろうか」ということを考えました。

多分、やっている少なくとも、存在しない『平均さん』を幸せにしていると勘違いしていて誰も幸せにしていないのではないか、誰を幸せにしているのかを常に頭の隅においておかなくてはいけないなと思いました。

さらに、実は、『平均』を是として企画してしまうことで、無意識に『これが平均だから、みんながこれに合わせてね』という結果になっていないのかも心配です。結果的に、『誰もうれしくないんだけど、全員がちょっとずつ我慢できる範囲で不自由になる企画』みたいなものになっているのかもしれません。いや、なっているかも常にチェックしなくてはいけません。

このような考え方の根底には、個別の事情は考慮しきれないから『平均』をとって対応するのでみんなそれに合わせてねという『人が組織に合わせる』考え方があって、多くの場所で、そろそろその考え方自体が受け入れられなくなっています。組織の方が人それぞれの事情や個性に合わせていこうと考えたときに、この『平均』を中心に考える方法は、あらためていかなくてはいけないのかしれません。

最近では、データを活用した施策の立案や企画を行う機会が多くなってきました。大きな組織では、どうしても、個別の事情を加味しきれないために、全体をデータそのものと見なくてはいけないこともありますが、やはり、組織は『人』の集まりなので、その人の『顔』が見えることを大事にして、様々な施策を考えなくてはいけないなと思った本でした。組織と個人の関係は、これから大きく変わっていく(であろう)中でとてもよい機会でした。

平均的な日本人の顔では、平均的な20代男性はと言われることも多くありますが、『平均的』とは何なんだろうと思いますね。これからもデータを扱うことは多くなりそうですが、『人間』その人を大事にしていきたいですね。

というわけで、本日の結論は、『平均さんなんていう人はいない』ということでした

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株式会社アイディアポイント
代表取締役社長
岩田 徹

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