アイディアポイント岩田です。現在、『イントレプレナー』と呼ばれる『社内で新しいことをはじめる人たち』に焦点をあてて、その人たちはどんな人たちで、どんなきっかけで新規事業をスタートして、どんな苦労を乗り越えて、どこに向かっているのかを調べています。(イントレプレナーについてはこちらの記事をご覧ください。)
今回は、少し視点を変えて、彼らの経験や体験談をどのように読めばよいのかについて議論していきたいと思います。弊社の研修でも『事例を聞きたい』という声をいただく一方で、どれだけ事例を話しても、『自分には当てはまらない』、『おもしろかったけれども、役に立たない』という声をいただくことも多くあります(詳しくは、こちらへ)。「事例」や「体験談」をどのような点に注意して、どのように理解すればよいのかについて考えていきましょう。
体験談はひとつの物語(ストーリー)で、成功法則ではない
最初に、体験談は、その人がそのときにその場所で体験したひとつの経験だということを理解しておくことが重要です。人生はその『瞬間』だけで成立しているわけではないので、その前にも様々なことが起きているし、その後も人生は続くので、その瞬間だけを切り取って理解しようとしてはいけません。できるだけ、長い期間の話を追いかけて、一つの物語(ストーリー)を理解しようとすることが大切です。
ひとつの話(ストーリー)なので、当然、自分自身が心を動かされたり、実際にやってみようと参考にできることも多いのですが、一方で、必ずしもその体験談に、それは今の自分の状況には当てはまらない、自分とは異なる考え方をしていて『再現性』がないところもあるでしょう。
人間が全員、違うのと同じように人生も全員、違うものです。なので、そもそも、『自分にそのまま当てはまりそうな体験談』は、ほぼ存在していないと理解しておくことを知っておくことが重要です。
このことを理解しておくことで、『〇〇さんの体験談に感動しました!自分も〇〇さんと同じようになりたいので、同じことします!全部、真似します!』というような妄信的になってしまう?ことも、逆に、『〇〇さんの体験談はすばらしかったけれども、私には参考になりませんでした』とバッサリと切り捨てることもなくなると思います(こういう人は意外と多いのと、そのような感想を聞くと話した方は、「自分の体験談は話すけれども、そうやれと言ったつもりはないのにな」と、とても残念な気持ちになります)。
ひとつの体験談は、ひとつの物語に過ぎません。多くの事実から導かれた『法則』ではありません。もちろん、実例がひとつもないことよりは、はるかに説得力のある『法則』、『勝ちパターン』の一つである可能性はありますが、『成功法則』だと思って聞いてしまってはいけません。
『体験談』を聞くには、まず、ひとつの『物語(ストーリー)』体験談として、「なぜ、そのとき、その人は、その状況で、そういう行動をしたのだろう?」、「自分だったらどうするのだろう?」、「他にどんな選択肢があったんだろう?」等、小説や物語を楽しむのと同様に、まずは、その経験を追体験しながら、楽しむことを意識して、その上で、そこから自分なりの意味や学びを持つことがよい受け取り方なのではないでしょうか。
生存者バイアスに注意
『生存者バイアス』とは、多くの人が持つ思い込み(バイアス)のうち、『何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行い、通過に失敗した人・物・事が見えなくなること(Wikipediaより)』のことを言います。簡単に言うと、『うまくいった人の話だけ聞いて判断しちゃダメだよ』、『うまくいかなかった人の話もきちんと聞いた上で話を聞かないと公平な判断はできないよ』ということです。
多くの「体験談」は、『生き残った』人の話がほとんどです。私たちが設定する講演やインタビューでも、少なくとも、「ある程度、うまくいっている」人が多く、もちろん失敗を話してくださいとお願いしても、「立ち直れないほどの失敗談」が出てくることは、ほぼありません。少なくとも、「人に話してもいいよ」というレベルでは、大丈夫な状況の人たち?が出てきます。
『体験談』はうまくいった人の「自慢話」だったり、「昔話」だということではありません。本当にすばらしい真実であり、物語(ストーリー)の一部ではあるものの、それは、ある側面だけから見てはいけないということです。そして、特に、「うまくいかなかった」話は世の中にあまり出てきません(最近では、失敗した体験談を共有することも、また、価値があることだという認識は広がりつつありますが、それでも、成功体験と失敗体験を比較すると成功体験の方が圧倒的に世の中にでてきやすいと思います)。
時間の関係や因果関係を見誤らない。結果的にそうなったことと狙ってやったことは違う
今回、私がインタビューする中で、「これは、後から振り返ると結果的によかったということなのですが」、「今、考えれば、以前の職場で身につけたスキルがその後に活かされたという言い方もできますね」という話が多く出てきます。逆に、「これは最初からブレずに考えていた」、「もともと狙っていた通り」という話も出てきます。
この点は、1対1で話を聞いていると明確に違いがわかるのですが、一つのストーリーとして文章を読んでいたり、講演で「話を聞いている」状態(都度、確認できる状態)では、違いがわかりにくいのではないかと思います。
本人が『意志を持って取り組んだこと』と、『結果的にそうなったもの』は、その考え方や行動等、全く違うものなので、意識的にこの違いに注目することは重要だと思います。
スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションで、『コネクティング・ドット』という話をしています。「未来がどうなるかは誰にもわからない。無駄なものはないので、今、興味のあることに夢中で取り組むことができること。その経験を、後からつなぎ合わせて(ドットをコネクトする)意味のあるキャリアができる(相当、意訳)」というものです(詳細はこちらの動画をご覧ください)。
この辺りの議論が不正確な人は、実は、多く、今回のインタビューでも、「あのときの修羅場が自分を成長させた」というお話を多く聞きますが、一方で、「成長のために修羅場に飛び込んだ」人はいません。ほとんどの人は、「修羅場にならないなら、それに越したことはないよね」と思っています。
人は過去の事象に対して、「意味づけ」をします(そして、それは重要なことです)が、総じて、『それはよかったことである』という方向が多いものです。「結果的にはよかった」という表現は、そこからの学びがあった、自分ではそのときに気が付かなかったけれども意味があった等、振り返ってそこに意味を見出したという意味です。
体験談ではここの『結果的によかった』ことが多く出てきますが、それは本人が『意図したもの』なのか、『意図しなかったもの(後から意味をつけたこと)』なのか見極めてくことも重要です。
実は、『感じ方』は人によって、相当、違うので注意しておいた方がよい
もう1点、今回のインタビューで感じたことは、当たり前ですが、人によって、『感じ方』は相当違うということです。この点は、よく覚えておくべきだと思います。
例えば、下のような会話をみなさんはどう感じられますか?
- 「いくら怒られても、命までとられるわけではないじゃないですか」(えっ、死ぬのと比べてましだったらいいの!?)
- 「ダメだったら、元の職場に頭下げて、働かせてもらえばいいじゃないですか」(えっ、そういうのって普通、嫌なんじゃないの!?)
- 「最悪、職場に泊まり込んで1週間、徹夜すればなんとかなるかなって」(えっ、なんとかなるの?というか、1週間、徹夜するの!?)
逆に、下のような話をみなさんはどう感じられますか?
- 「お客さまに、『こういうサービスを待ってたんだよね』と言われて、本当にうれしかった」
- 「1人でも喜んでくれる人がいるなら絶対にこのサービスは続ける」
- 「サービスがリリースしたときのうれしさは、本当にうれしいとしか言えない」
- 「創業当初に参加してくれた〇〇さんには、なんというか感謝の気持ちしかない」
この辺りの話も文字にすると雰囲気が伝わりにくいと思いますが、本当にそう思っている人にしか出せない実感のこもった言葉があるのだと思います。
今回のインタビューを通じて、仕事の『おもしろさ』と『大変さ』は紙一重?表裏一体?だということと、その感じ方は、人によって全く違うということが実感できました(非常に共感するところもあれば、逆に、うーん、これは自分には無理だな or こんな風に思うんだ等)。
このような感覚は本人にとっては当たり前なので、講演や文章ではサラッと進んでしまうことがほとんどですが、人によって『相当違う』ものなので、話を聞きながら『自分だったらどうかな』ということは常に頭の中に置いておくことが重要だと感じます
体験談を聞くときはどうやって聞けばよいのか – キーワードは『メタ化』、『持論 / 自論化』
体験談は、完璧にコピペできるもの(100%使えるもの)でも、自分とは違うので役に立たないもの(0%)でもありません。まずは、その物語(ストーリー)を楽しんだ上で、マネできるところとマネできないところを切りわけで、できるだけ活用していくという考え方がよいのではないかと思います(更に、歩留まりがよければ、尚、よい…)。
体験談の価値は、自分が体験したことのないことを「疑似的に体験できる」ことです。人生は一度しかない、体験できることには限りがある(し、そもそも、同じ時期に同時に二つの人生を歩むことはできない)ため、とても有用なのではないかと思います。特に、これまで自分が経験したことがないことに関しては、より参考になるのではないかと思います。
ということで、最後に、『体験談』の聞き方として、意識しておくとよいことをまとめておきます。
- まずは、『十分、体験してみる(追体験)』して、楽しんでみる
- あらためて、事実関係やその時の行動などの事実と、そのときの気持ちなどを客観的に整理しながら理解を深める(より共感して体験してみる)
- 自分だったらどうかと考えてみて、比較しながら自分にとっての意味、学びを考えてみる
- そこで得るものがあれば、それは自分の人生を豊かにしてくれるものだし、そうでなければ、ひとつの情報として有用だったということして、何らかの『行動』に移す。そして、そこから更に学ぶ
- くれぐれも成功法則だと思って妄信したり、逆に、自分には関係ないこと / 小説や物語だと割り切るだけにならないようにしてほしい
体験談に関しては、「どう役に立てるのか / 立てることができるのか」議論することに意味はあっても、「役に立つか / 立たないのか」という議論は意味がありません。キーワードは、『メタ化(抽象度を上げて理解すること)』、『持論 / 自論化(自分なりにオリジナルの考えを持つこと)』です。みなさんは、ぜひ、「役に立てる」方法を考えて実践してみてください。
みなさんは、物語は好きですか?僕は好きです。今回のインタビューでは、社内起業家の物語(ストーリー)を届けたいと思って書いています。ということで、今回は、『体験談』の読み方について検討しました。
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株式会社アイディアポイント
代表取締役社
岩田 徹