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「事例が欲しい」というご要望


 
 
 

巷にあふれる「事例が欲しい」というニーズ。『その事例、本当に必要?』問題

 
研修を行う際、研修事務局のみなさまが(または研修会社が、研修事務局のみなさまを通じて)、事前に受講者にアンケートを取ることがあります。アンケート項目の中に「研修プログラムに何かご要望はありますか?」や、「どんなサポートがあると嬉しいですか?」といった質問項目がある場合、ほぼ100%の確率で「事例が欲しい」、「何かよい事例はないですか」というご要望をいただきます。事前アンケートの場のみならず、研修中に講師が「質問はありますか?」と尋ねると、「事例を教えてください」というご要望をいただく確率も高いです。

これは研修に限ったことではありません。例えば営業担当者がお客さまとの商談の場で「事例が欲しい」と言われることがあると思います。また、昨今話題のDXだとか、カーボンニュートラルだとか、大きな施策の導入を検討する際に、「他社の事例は?」という話題が交わされる可能性が極めて高いと思われます。

私が前職で、所属する事業部門の年度方針や顧客企業の年度方針を、全国の営業部署に解説・推進して回る、という役割を担っていた際、部長クラスから担当者クラスに至るまで「事例が欲しい」というコメントをいただいていました。もう当たり前のように事例が求められるため、予めアジェンダに正式に「事例紹介パート」を設けていたほどでした。どうやら「何かを伝える / 教える」、「推進する」という役割を担う立場の者に対して、その受け手は事例を求めがちである、という仮説が成り立ちそうです。

今回は、このように巷にあふれる「事例が欲しい」というニーズに関する対応や注意点について書いていきます。
 
 


 

なぜ、『事例』が欲しくなるのか?

 
何か新しい取り組みに取り掛かる場合、一般的にはその主体者が一旦自分の頭でその取り組みの本質を理解しようと試み、まず一旦、概念化・抽象化(メタ的に理解)します。その後、具体化を試みます。具体化とは、身近な対象や、自分自身の環境に一連の取り組みの手順を当てはめて、その取り組みを脳内の仮想空間でなぞってみることを指します。この段階で、果たしてその取り組みは実現可能なのか?実現可能な場合は、上手くできるのか?などについて、一定の理解と判断を行います。

そして理解と判断ができた後に、その主体者には「よし、やってみよう」という決心がつき、ほぼ同時に「やるからには成功させたい」、「やるからには失敗したくない」という意識が芽生えます。成功するため、失敗しないための手段の一つが、「事例との比較」なのでしょう。事例を確認することで、自分のイメージを補強するのだと思われます。つまり、参考情報として「事例」を求めるのだと考えます。
 
 


 

実際に『事例』を提供すると本当に問題は解決できるのか? – 事例を提供した場合の、受け手のリアクション

 
実際に事例を提供した場合、受け手のリアクションにはいくつかのパターンが見られます。代表的なものを記載します。
 
 
①「それは〇〇の場合だからでしょう」「自分の置かれた環境は▲▲だから当てはまらないなぁ」:
 
「事例が欲しい」と言うから事例を提供したのに、評論家のような口調で「それは〇〇の場合だからであって、自分の場合には当てはまらない」という、元も子もないようなリアクションをする人もいます。「だったら最初から事例を求めないでほしい・・・」と、提供者側がガッカリするパターンです。そもそも事例がそのまま別のケースに当てはまるわけがないのですから。
 
 
②「もっと他の事例はないの?」:
 
事例を求める側の頭の中で、既にある程度イメージが完成に近づいている場合に多いパターンです。受け手のイメージと、提供側が提供した事例にミスマッチが生じた場合にこのように「他の事例が欲しい」となりがちです。これは提供側が、受け手のことを理解しきれていない場合に発生する傾向があります。これを言われてしまうと、提供側は「ピントがズレてる事例を紹介してしまった!」と大いに反省します。

このパターンは、受け手が「〇〇な事例が欲しい」と、もう数段詳細なオーダーを出し、対話を重ねれば決着するでしょう。しかし単に受け手がワガママで、よく考えもせずたくさんの事例を欲しがっているだけ(たくさん事例があると安心するタイプ)、という場合もあるので要注意です。
 
 
③事例を鵜呑みにする / そのまま自分に適用する:
 
事例がそっくりそのまま当てはまるわけはないので、このようなパターンはあまりないと思いきや、意外に存在します。事例をそのまま自分の環境に当てはめて、「上手くいかないじゃないか!」と怒る。これは最悪です。

ただし、若手社員などが「まずは事例を参考に、素直にそのまま試してみる」という、初々しい、かわいらしいパターンもあります。この時はむしろ忠実に試したこと自体を褒めてあげましょう。
 
 
④「なるほど、この事例のポイントは〇〇ですね」「自分の環境に当てはめると、▲▲な点が共通しているので、ちょっと◆◆な形にアレンジして活用してみよう」:
 
このパターンは、予め「事例の何を参考としたいのか?」がハッキリした状態で事例を尋ねてくることが多いです。事例を参考にして何を判断したいのかまでが、既に整理されているパターンです。このタイプの人は、「事例」の一部始終全てを訊いてくることは無くて、あくまで知りたい「部分」に絞って訊いてくる傾向にあります。

ちなみにあくまで経験値ですが、このパターンの人は、「①」みたいな言い方はしません。
 
 


 

効果的な『事例』の提供方法 – その注意点、コツ

 
先に受け手側のリアクションについて書きましたが、リアクションはアクションに対する反応なので、まずは事例提供側が「どんなアクションをしたか?」すなわち「どんな事例を提供したか?」が本来重要です。「『提供する事例』の事例」を以下にご紹介します。
 
 
①受け手との立場や受け手の環境を意識して、受け手がイメージしやすい事例を用意するのが望ましいでしょう。

②受け手がどんな環境にあるとしても、共通して示唆となる点が多い事例(注意すべき点、重要な点、教訓となるような点などを含んだ事例)を提供することも重要です。

③加えて、ややトリッキーな事例も敢えて提供することで、視野を広げてあげることも重要です。ただし、「③単独」はやめましょう。あくまで「①」「②」とセットでの提供が効果的です。

④提供する際は、ちゃんと編集してストーリーを仕上げましょう。事例に関する事実をそのままフルセットで提供すると、ポイントがズレてしまうおそれがあります
 
 
事例を提供する側は、絶妙な事例を探し出し、絶妙な編集を加えて、複数の事例を絶妙の配分で提示するのが腕の見せ所です。これが上手くいくと、受け手側のリアクションはポジティブになるでしょう。

そのためにはどうしたらよいでしょうか。事前に受け手に関する情報を集めておいて、共感を高めておくことが重要だと考えます。また、事例となりそうな情報を普段から集めておく、興味をもって観察する、実際にヒアリングする、このような準備をして、事例の引き出しを増やしておくとよいでしょう。
 
 


 

無駄になる / 無限ループになる『残念』な事例提供

 
受け手がなにかと「事例、事例」と求める割に、その前段階をすっ飛ばしていると、いくら事例を提供しても、上手く活用されません。前段階とはすなわち、前述したように「主体者が、一旦、自分の頭でその取り組みの本質を理解しようと試み、まず一旦概念化・抽象化(メタ的に理解)する」という段階です。この段階を踏んでいないと、事例を適切に判断できないでしょう。こういうタイプほど「『あなたと私は違うから』さん」、「『事例クレクレ』さん」、「『事例そのまま適用』さん」・・・になりがちなのではないでしょうか。

また、冒頭に記載したように、例えば営業担当者が「お客さまから事例が欲しいと言われました」と持ち帰り、そっくりそのまま上司や先輩に報告すると、「お客さまはなぜ事例が必要なの?」「その事例でお客さまは何を確認したいの?」と突っ込まれて、タジタジになります。このような場合は、お客さまと一緒に概念化・抽象化というステップを踏む必要があります。上司や先輩に「いやー、お客さまから『DXを推進している企業の事例ってある?』と聞かれました。なんかあります?どうしたらいいですかね?」こんな質問をしてしまったら、あとは悲劇が待っていることでしょう。
 
 


 

まとめ:安易な『事例提供』は逆効果。目的、意味を確認して『事例』を吟味する

 
まとめです。事例を提供する側は、受け手に関する情報を集めて共感力を高め、また事例となりそうな情報を普段から集めて引き出しを増やしましょう。絶えず最新の情報を集めておくことも重要です。そして、上手に編集し、タイプの異なる複数の事例を意図的に提供できるように準備しましょう。よく考えずに事例を渡してはいけません。

一方受け手は、何かに取り組む際に、一旦、脳内で概念化・抽象化(メタ理解)し、どんな事例が欲しいのかのイメージを作った状態で事例を受け取りましょう。よく考えずに事例を欲しがってはいけません。

最も重要なことは、「事例から何を学んで、どう活かすか?」なので、これを受け手と提供側の双方が理解しておくことです。事例から何を学ぶか?は、みんなで考えて議論することで深まりますので、当社ではこのようなプログラムをご提供しております。
 
 

 
 
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株式会社アイディアポイント
企画開発部
川村 明之

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