新規事業の『数字』ってどの程度、精度が必要なのか?

新規事業の『数字』ってどの程度、精度が必要なのか?

アイディアポイント岩田です。みなさま、いかが、お過ごしでしょうか。私の方は、相変わらず、新規事業の検討プロジェクトをサポートしておりまして年度末に向けてそろそろ細かいところを議論する段階です。今回は、そこで、何度か質問を受けている『数字(売上、利益、キャッシュフロー)』について、書こうと思います。

新規事業で計算する『数字』は、既存事業で計算する『数字』とはその意味や精度が異なります。今回は、基本的な考え方、原則についてお伝えします。実際に作成する際には、やはり、個別に計算することになるので、迷われた際には、個別に相談ください(毎回ですが、最終的には、個別にチェックしています)。

目次

新規事業の『数字』は、『ファクト(事実)』、『結果』ではなく、『仮説』、『意志』である

私たちはビジネスパーソンなので、当然、共通語としての『数字』で議論をします。これほど明確なものはないからです。これは、既存事業でも新規事業でも変わりありません。

扱う数字の意味は大きくことなります。普段の業務で扱う数字は、多くの場合、何かを表した「事実」であり、「結果」です。経営計画を立てるときに扱われる数値も将来のこととは言え、比較的、確度が高いものでしょう。したがって、それに対して、「コミットメント(達成する)」が求められることになります。

しかし、新規事業で計算する将来の売上、費用、キャッシュフローは、そのほとんどは、それなりの根拠があるとはいえ、「願望」であり、「皮算用」です。もう少しビジネスっぽい表現をすると「意思」と「仮説の積み上げ」で成り立っているものです。したがって、当然、大きな『ブレ幅』が予想されます。

このように、新規事業の『数字』は、とても悩ましい課題と言えます。不確実性の高い状態でなんとか計算したものなのですが、実際に、数字になった瞬間、いきなり、確実性を突っ込まれ、コミットメントを求められるからです。

そのような状況では、数字を計算して提示することは避けたくなってしまいます。まず、数字を作る人も見る人も新規事業における数字(売上、費用、キャッシュフロー)の精度はそれほど高くないことを十分に理解しておくことが大切です。


新規事業では、『数字』よりも『計算式(計算ロジック)』の方が大事

新規事業の数字(売上、費用、キャッシュフロー)では、計算した結果よりもそれを組み立てるプロセスが重要です。まずは、下記のような基本的な問いに答えながら、お金の出入りに関する具体的なイメージを持ちましょう。

売上について

  • どんな種類の収入があるのか?(事業別、商品・サービス別など)
  • それぞれの項目を、単価×顧客数×購入回数 で表現するとどのような式になるか?
    • 1回に購入するのにいくら払うか?
    • 顧客は何社 / 何名 なのか?
    • 顧客は1年間で何回購入するのか?

費用について

  • 変動費(売上に連動する費用)。売上に連動してどんな費用が必要になるか?
  • 固定費(売上に連動しない費用)
    • 商品・サービスを販売するのにどんな費用をかけるのか?(営業やマーケティング)
    • このビジネスを運営するのに必要な人材とその人件費はどのくらいか?
    • 上記以外にも、ビジネスを運営するのに必要なものは何か?(家賃、その他)

初期費用について

  • 最初に必要な投資はあるか?
  • ある程度、ビジネスが進んだ後に投資するべきものはあるか?

これらを5-10年分、洗い出したら、そこから計算スタートです。実際には、上記に当てはまらないケースも多くありますし、社内のルールもあるので、詳細は、確認して作成してください。

これらがある程度、決まってきたら、計算式を作ります。まずは、一旦、作成してみましょう。驚くほど赤字になることもあるでしょう。そのときは、現実的な範囲で売上を増やすか、経費を減らすかします。逆に、驚くほど利益が出ることもあるでしょう。その場合は、見落としている経費がないかチェックします。このような調整をしながらある程度、現実的な数字を作っていくことになります。


3年で単年度黒字、5年で累損解消がひとつの目安。営業利益率は既存のビジネスを参考に

よく「この数字でよいですか」という質問をもらうのですがなかなか答えにくいものです。Webサービスのような立ち上がりの早いビジネスもあれば、エネルギー関連のビジネスのように大きな投資と長い期間がかかるようなビジネスもあるからです。

それでも、ある程度、何らかの目安になる数字がほしいと思うので、その際には、『3年で単年度黒字(その年度で利益が出る状態)、5年で累損解消(投資金額が返ってくる状態)』をひとつの目安として作成するようにしています(多くの会社もそうしているようです)。

利益に関しても同様で、もちろん、ビジネスによるのですが、ビジネスモデルによって営業利益率は大体決まっているので、同様のビジネス / 似たビジネスの営業利益率を参考に、ある程度、似た数字になっているとよいと思います。 


必要な精度は『有効数字1~2桁』で十分 – 普段のように細かく計算しなくてOK

ということで、本日の本論です。数字(売上、費用、キャッシュフロー)に必要な精度はどの程度かということですが、結論から言えば、「意思決定ができる」程度です。最初に述べた通り、どうしても不確実なものなので、それを十分理解した上で、ある程度、概算で意思決定せざるを得ません。その際に、数字をどの程度、精査するのかは、意思決定者次第と言えます。

一般的に言えば、『有効数字1~2桁』。大体、「桁があっていればよい」くらいでしょうか。こういうと「もっと精度を高くした方がよいのではないか」という指摘を受けます。

もちろん計算できるのであれば、それで構いませんが、そもそも、売上の「単価」がその金額で売れるのかわからない、「顧客数」がそんなに人が集まるかわからない、「購入回数」も本当に何度も購入・使用してもらえるかわからない状態なので、桁があうかもわかりません。その状態で、他の項目を精緻に計算してもそれほど意味がありません。普段、細かい計算をしているので概算で計算するのは気持ち悪いのだと思いますが、そういうものだと思ってください(もちろん、細かく計算してもらってもよいのですが)。 


数字の『不確実さ』は『幅』で表現する – ベストケース、通常ケース、ワーストケース

ビジネス上の数字を作るときには『保守的につくる』のが原則です。最初は、売上は確実な数字を、費用や投資は多めに見積もります。しかし、それでは、ほとんどの場合は、大赤字になってしまうでしょう。

新規事業で計算する数字は不確実です。うまくいくかもしれないし、いかないかもしれないものです。そのため、多くの場合は、ある程度、幅を持たせて作成します。最初は単純でよいので、「ベストケース(楽観ケース)」、「通常ケース」、「ワーストケース(悲観ケース)」と名前をつけて、妥当な「通常ケース」を中心に、うまくいった場合、うまくいかなかった場合を計算するとよいでしょう。


『仮説』と『意志』を積み上げて『数字』をつくろう!!

今回は、新規事業で質問を受ける数字の『精度』について書きました。私たちはビジネスパーソンなので、『数字』は大切であり、数字で議論することは必須です。新規事業で議論する『数字』は、不確実性が高いため、それが『事実』だと考えてしまうと議論が進まなくなります。ビジネスのスタート時は、顧客がつくかどうか、いくらで買うのかが圧倒的に大事です。ということで、『売上』自体が大きく動く時点で、精緻な計算は不要です。一旦、「桁があっていればOK」くらいの感覚で計算してみてください。

多くの人が意識している / していないはわかりませんが、『数字』は誰が見ても同じなので、質問したり、議論するのが楽なのです。実際に『数字』を提示すると一気に根拠、妥当性等、『数字』に関する議論に流れがちです。なかなか『使いどころ』の難しい『数字』問題ですが、使いすぎず、使わなさすぎず、新規事業促進に上手に活用しましょう!

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
代表取締役社長
岩田 徹

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