このコラムでは、大企業の社内新規事業提案制度を上手に継続するために必要なことについて説明します。事務局を務めるお客様からいただいたご相談として、「何年か運用してきたが社内的にイマイチ盛り上がってこない」、「一旦、プロセス自体はできたもののこのまま義務的に継続していくのもどうなのだろうか / 本当にこれで新しい事業が生まれるのかと迷い始めている」などがあります。同じような悩みを抱えている提案制度事務局のみなさまにとって、参考になる情報をまとめました。
多くの企業が3年で『壁』に当たる新規事業提案制度
新規事業提案制度を運用されている多くの企業では、応募数が目減りしてきていて、エントリー条件を緩和したり、グループ会社へ門戸を開いたりと、対処しているケースが増えてきています。私たちも新しく制度を立ち上げるコンサルティングを行う際には、応募が年を追うごとに減っていくことは織り込んで設計することをおすすめしています。
実際に3年運用した以降の姿を具体的にイメージされている企業は少ないのではないでしょうか?最近、私たちのところにも、「そろそろ制度自体のあり方を考え直したい」、「継続していきたいが、成果や経済合理性を上手に説明できず困っている」といった声が寄せられるようになりました。
新規事業提案制度を立ち上げた当初の目的は、大きく分けると風土醸成と事業創出になることが多いです。これらのバランスをとりながら運用していきます。実際には、いずれの目的も簡単に達成できるものではありません。3年である程度の手応えがあり、見通しが立てることができれば成功なのではないでしょうか。
新規事業提案制度を、長期的な視点から『サスティナブル』に継続していくにはどうしたらよいのかという視点が必要になってきます。
継続できる企業の特徴は事務局自身の『熱意』と『ホスピタリティ』
実際には何年も継続して運用されているケースも存在します。継続できている企業にあるものは何なのか、これはずばり、事務局を担う担当者の『熱意』に依存する側面が大きいと考えています。事務局の方々が生き生きとされている企業は、制度を上手に運用して成果を上げているように見受けられます。彼 / 彼女らの『熱意』や『志』に感化されて応募者側も本気になるシーンは何度も見てきましたし、そのような事務局の方は応募者とのコミュニケーション量がとても多いことも特徴的です。
新規事業提案制度を運用するために、各種スケジュール調整、経営陣とのすり合わせ、社内通知の手配、問い合わせ対応、外部パートナーとの折衝など、やらねばならない業務が多いので、事務局の皆さんは日々とても忙しくされていると思います。
一方で、その結果、余裕がなくなってしまったり、話しかけにくくなっているせいで、応募者との距離を拡げてしまうケースも多く見受けられます。就職活動で採用担当者に向けられる視線に例えると、忙殺されて余裕のない採用担当よりも、エネルギッシュに動いて積極的に関わってくれる採用担当のいる会社の方が、就職先として魅力的に感じるのと同様です。不安を抱えた就活生が、採用担当の何気ないコミュニケーションに感化されて心が動くように、新規事業提案制度の応募者も背中を押してくれることを待っているかもしれません。もし応募前に雑談ベースで相談しに来てくれていたらアドバイスできたはずなのに、そのチャンスを逸してしまっていた可能性があるかもしれません。
熱意があると周囲からの見え方が変わるだけでなく、実際の行動も変わってきます。応募するか迷いながらワークショップに参加してくれた人、審査を通過できなかった人、最終審査を控えている人にかけるちょっとした一言が変わってきます。熱意のある / なしは1対1のコミュニケーションだけではなく、全社に発信するメッセージ等にも表れるものだと思います。新規事業の提案や推進は孤独な活動になりがちですから、精神的な支えの存在として事務局が機能していることは大切な意味があります。
重要なのは、余裕を持とう!ホスピタリティを持とう!ということではなく、その源泉は熱意にあるということです。制度を立ち上げた時や事務局に着任した当時持っていた熱意を上手に継続させていってください。
事務局の『熱意』が続かないのにも理由がある
事務局の仕事は、大別すると事業開発に分類され、事業サイドの業務と見られがちですが、実際にやっていることはバックオフィス業務に近いものも多くあります。意気揚々と新規事業創出を目指していたはずなのに、事務的な作業や調整に奔走して、新しいことに関わっている実感がないということが起きてしまいます。
事務局の仕事は、提案を選ぶ側に回ることにもなるため、自分は選ぶ側であるという意識から「上から目線」になり万能感を持ってしまうことも起こり得ます。そのような気持ちでは、応募者を心の底から応援することよりも、提案内容の質ばかりに目が行ってしまい、エントリーシートの粗さがしをしては「今年もイマイチだ」と嘆いてしまうことになったりします。
ここでお伝えしたいのは、事務局には事務局なりの熱意の持ち方があるということです。自分で事業立ち上げを目指すでもなく、部下に指示を出すでもなく、応募側と審査側の間に立って、成果創出を目指す仕事なので、「自分は主体者ではないのに成果を出さなくてはいけない(人に成果を出してもらわなくてはいけない)」というジレンマや難しさがあります。
例えば、一人でも二人でも良いから「新しいことをやりたい」という志を救う、という「手触り」感のあるものをゴールに置いてみると、事務局のやりがい、おもしろさを実感できるのではないでしょうか。
自分自身の無理がないと本当に思うところにモチベーションの源泉を置くことで、事務局のみなさん自身がやりがいをもって働くことが重要です。
継続できない『環境的』な要因
継続できない要素は、事務局の熱意だけではありません。既存事業のビジネスモデルによる特性が影響していること、成功の定義が厳しすぎること、人事部門や他部門との協力体制を敷けていない等の『環境的』な要因も考えられます。
ビジネスモデルの特性としては、受託型ビジネスか、自社サービスを持っているかの違いは大きいようです。業界を問わず起こっています。受託型や請負型のビジネスを主体としている業態は、先に受ける業務があって、それにコストがいくら掛かるのかを積み上げていき、利益を出すという進め方のため、どうしてもコストを下げる方向に頭がいってしまい、お金を使って売上をあげるという投資の感覚を持ちにくいことが多いです。投資の感覚を持っていないと、リスク排除の方向に思考が引っ張られ過ぎてしまい、大胆な意思決定ができず、事業が立ち上がる前にストップがかかったり、決裁のために膨大な資料が求められることがよくあります。経営陣や意思決定者にこの傾向が強い結果、提案制度から上がってきた事業案はひとつも立ち上がることなく、残念ながら制度が役に立たなかったと結論づけられてしまうのをよく目にします。
提案制度の目的として風土醸成を掲げているのに、人事部門との連携が取れていないケースも上手く継続できないケースの典型です。ここが連携できていないと、社員へのメッセージに一貫性が無かったり、人材開発の施策と齟齬や矛盾を起こしたりして、提案制度の存在意義が危ぶまれます。組織に関することは組織のプロである人事部門と連携した方が効率よく、実際に色々なデータを持っているので、協力して進めるのがよいでしょう。人事部門も組織風土についての課題意識を持っている(はず)なので、取り組みやすい所から連携していくことをおすすめします。
「小さく」ても「少なく」ても『成果』があれば続けられる
企業において社員や現場からボトムアップで新規事業を生み出す仕組みは、可能な限り継続していくべきだと考えます。これらの取り組みは、一度止めると失敗体験として記憶に残り続けるため、再開するときにはより手間と労力がかかります。大切なのは一件でもよいので成果を出し続けることです。象徴的な一件が出てくるだけで社内は盛り上がり、次に続く人も出てきます。
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最初の一件は必ずしも大きくなくて構いません。実際に最初から「大きい」新規事業なんてありません。最初は一人の社員の何気ないアイディアからスタートして、いくつもの審査をくぐり抜けて、経営陣を動かして新規事業として立ち上がったというその事実だけで尊いことだと思います。事務局の役割はその成果を心の底から喜び、周囲に伝播していくことです。それが風土醸成に繋がり、次の『ヒーロー』を生み出すことにつながるのだと思います。
今回は新規事業提案制度を継続するための事務局の重要性について書きました。現在ご担当されているみなさんも熱意を上手に継続させてよい事業を生んでください。応援しています。
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