新規事業提案制度 : エントリーするときにどのくらい『具体性』を要求すればよいのか / してよいのか?

本日のコラムは、新規事業提案制度における応募書類がテーマです。お客様からは、「応募書類の段階で、どの程度具体的な内容を求めるべきか?」や、「応募フォーマットに盛り込むべき項目を教えてほしい」、などのご質問をよくいただきます。応募書類の項目や問いの設定は、応募のハードルを左右すると同時に、審査の精度にも影響を与えるため、なかなかバランスを取るのが難しいです。これから制度を設計される方はもちろん、現在の制度を見直そうと考えられている方もぜひお役立てください。


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簡素にしてハードルを下げるより審査を前提に詳細を書かせる方が結果的によい

基本的な考え方として、応募のタイミングで、ある程度「しっかり書かいてもらう」ことを前提とすることをおすすめしています。その目的は2点あり、審査の精度向上と、提案の質の向上です。

まず審査の観点から考えると、(一次審査は書類のみで判断する一般的なケースであれば)きちんとスクリーニングを行う必要があります。良い提案を見つけるよりも、落とすべき提案をきちんと落とし、その後の審査の効率を上げることに意味があります。簡易な項目で文字数も少ない応募書類にしてしまうと、正しくジャッジできなくなってしまうのです。例えば、ポストイット®に書かれた『ドローンで届ける高齢者向け食料品』というアイディアだけでは良し悪しの判断ができないのと同じです。

また、提案の質においては、私たちの経験上、質より量と言いながら、気軽に考えたラフな提案をたくさん受けるよりも、本気で深く考えた渾身の提案を受けた方が、結果として成果に繋がりやすいと考えています。もちろん、新規事業が成功するか否かはやはり確率なので、案件数が多い方がよいのですが、そもそも分母に含まれている案件の質が悪いものしか無ければ、成功の確率は限りなくゼロに近くなってしまいます。優秀な起業家やビジネスパーソンが本気になって考えても、一定確率は失敗してしまうのが新規事業ですから、最初のハードルはある程度高く設定しておいてもよいと思います。


ベースとなるフォーマットを公開します!

具体的にはどの程度の内容を書いてもらうのがよいのか、具体的にイメージできるように、ある程度汎用的なフォーマットを公開します。迷ったらこのまま使っていただいても構いませんので、ぜひご活用ください。

フォーマット作りで私たちのお客様と議論になるのは、「マネタイズ」と「自由記入欄」です。マネタイズについては、この後詳しく解説します。自由記入欄は、設けないお客様も多いものの、何かと便利なので設けておくことをおすすめします。例えば、既に見込み顧客にコンタクトを取っている、パートナーとなる企業と具体的な会話を始めている、など積極的な行動の跡が見える場合や、起案者の強烈な原体験のエピソードが語られる場合などが想定されます。こういった情報は審査にあたって、意外にも重要な情報になります。あるいは応募者から「○○について書きたいが項目が無いのでどうすればよいか?」と問合せがあったときにも便利です。無記入だから減点にすることはない旨を表記しておけば、自由記入欄を設けないデメリットはないでしょう。


マネタイズとキャッシュフローを含めるかは慎重に判断を

提案するビジネスがどの程度稼げる見込みがあるのか、投資に見合うだけの利益を稼ぐことができるのか、といった観点は、新規事業を検討する上で避けて通ることはできません。しかしながら、応募の段階でそれを問うのは、考慮する必要があります。

その懸念は2つあり、ひとつは苦手意識を持っている人が多いこと、もうひとつは一次審査の判断材料になりづらいことです。普段から数字に慣れている営業部門や経理部門の方ですら、新しい事業に関して、市場規模や売上見込みを立てるのは難しいと感じるはずです。特に、苦手な人が利益の計算をしようとすると、予測しにくい売上 / 粗利よりも細かく計算のできる経費を一生懸命計算してしまうということが起こりがちです。アイディアを思いついたものの、マネタイズの部分が書けずにつまずいてしまい応募できなかった、となってしまっては残念ですので、思い切って応募書類の段階では項目ごと無くしてしまう判断もアリです。この点は、上述の本気度を問うこととは少し種類の違うハードルですので、質の高い提案を募りたいという趣旨とトレードオフになる心配はありません。

また応募の段階で、納得感のある根拠をもとに数字を計算してくるケースはそもそも稀です。大体はざっくりのイメージで提出されることを想定すると、それが審査基準を満たすか否か判断することは非常に困難です。

これらの理由から、マネタイズの項目に関しては、一次応募の段階では必ずしも必要ないというのが当社の見解です。


意外と参考にならない記入例、役に立つのはガイドライン

応募書類のフォーマット作りをご一緒する際によく聞かれるのが、「記入例を用意してはどうか」の質問です。回答はNOです。一見、記入するイメージを作りやすくなるので便利ではないかと考えてしまいがちですが、あくまでイメージでしかないので、実際に書く際に横に置いてもあまり役立つものではありません。むしろ当社がおすすめしているのは、ガイドラインを用意してあげることです。例えば、上記のフォーマットにある「顧客への提供価値」という項目名だけでは、審査に耐えうる情報を過不足無く記入できる人はごくわずかでしょう。各項目・問いに対して、どんなことを答えねばならないのかを解説するガイドラインや記入上の注意点をまとめて事前に知らせておくことで、その名の通り記入する際のガイドをしてくれるでしょう。もし記入例を用意するなら、ガイドラインと共にNG例を載せるとよいです。当社のお客様には、内容そのもののご提供と、細かい言葉遣いを企業ごとにチューニングする作業を弊社がご支援して、必ずガイドラインや注意点を用意していただくようにしています。とあるお客様は小冊子にして全社員に配布されました。


本日は新規事業提案制度の応募書類についてまとめました。オリジナリティを求める企業様が比較的多いのですが、あまり奇をてらわずに基本に沿って整えるのが得策です。ぜひ今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

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