新規事業創出に取り組む企業の方から、「新しい事業のアイディアを発想することが難しい」「どうしても既存事業の延長のようなアイディアしか出てこない」といった課題に関するご相談をいただくことがあります。今回は、これらの課題を解決するために、「新しい事業のアイディアは、どのような観点で発想したらよいか」について解説したいと思います。
発想に関する原理原則、発想しやすくするきっかけづくりが重要
本題である新しい事業のアイディアの発想の話をする前に、「発想を広げる」ことに関する原理原則を押さえておくことが重要です。押さえておくべき原理原則は、以下の4つになります(ビジネス以外のことでも、「発想を広げる」ときに活用できます)。
(1)アイディアを数多く出す
(2)発散と収束を分ける
(3)発想の手法を知る
(4)掛け合わせるネタを多く持つ
(1)は、最も基本的な原理原則です。何かのアイディアを考えようと思ったときに、効率良く、いきなり良いアイディアを発想するということは、なかなか難しいです。発想することに関して相当トレーニングされている人、もしくは、ある種の天才は別ですが、そうでない限り、新しいアイディアを発想しようと思ったら、とにかくいっぱいアイディアを出すことが重要です。
実際、クリエイターと言われる(新しい発想が求められる)職業の方々でも、何か新しいアイディアを発想する際には、アイディアを多数出すと聞きます。以前コピーライターの方に伺った話で、一つのコピー(たった一つの文章)を考えるのに、ノート一冊が埋まるくらい書いてみて考える、という話がありました。クリエイターと言われる職業の方ですらそうなのですから、そうでない人たちは、少なくともクリエイターと同じように(もしくはそれ以上)多くのアイディアを出す必要があります。
(2)も(1)同様、新しいアイディアを発想する際の原理原則として重要な考え方です。例えば、何かのアイディアを考え始めて、アイディアがいくつか頭の中に思い浮かんできたとします。そのときに、その思い浮かんできたアイディアに対して、「あー、でもこういう問題が発生するかも」といったように評価や取捨選択を始めてしまう(収束させてしまう)と、発想が広がっていきません。評価・取捨選択(収束)することがダメなのではなく、発想を行う(発散させる)ときは、アイディアをとにかく出せるだけ出すことが重要です。具体的なやり方としては、何かアイディアを考えようと思ったら、発想(発散)する時間を決めて(例えば、20分間とか)、その間は評価・取捨選択を一切行わず、「もうこれ以上アイディアが出ない」と思えるまでアイディアを出し尽くします。発想(発散)する時間(例えば20分間)が終わったら、そこから評価・取捨選択する時間に充てるとよいです。発想を広げる(発散)時間と、発想したことを評価・取捨選択(収束)する時間は、明確に切り分けるべきです。
(3)については、魔法の杖のような手法はないですが、発想に関する手法の中で、使い勝手が良いもの、もしくは、よく知られているものをいくつか知っておくと、効率良く発想を広げることが可能になります。
よく知られている手法についても、正しいやり方を知った上で実施するか否かによって、発想の広がりは異なります。
例えば、使い勝手が良い手法(且つ、世界的にも知られている手法)では、
- ブレインストーミング
- 9 チェックリスト
- 6 Thinking Hats
といったものが挙げられます。
また、近年注目されている手法の一つとして、「デザインシンキング」があります(正確には、デザインシンキングは、発想する部分の前後のプロセスも包含した概念ですが)。
発想法には、自由連想法と言われるものと、強制発想法と言われるものが存在します。それぞれ知っておくと良いでしょう。また、複数人で実施することに向いている手法と一人でも実施できる手法もそれぞれ知っておくと良いと思います。このあたりは、あまり細かく説明してしまうとマニアックな内容になってしまうので、このあたりにしておきたいと思います。発想法については、辞典が存在するくらい多くの手法が存在するので、学び始めるときりがないです。上記くらいの範囲で手法を知っていれば十分だと思います。
よく知られている手法で、
- ブレインストーミング
がありますが、正しいやり方で実施されていないことが多いように感じます。
- ブレインストーミング
には、以下の4つのルールがあって、そのルールをきちんと守るか否かによって、発想の広がりが異なります。使い勝手の良い手法の使い方も詳しく知っておくとよいでしょう。
(4)については、(1)(2)(3)と比較すると、すぐに効果が出にくいことですが、長い目で見ると、取り組んでおくとよいです。そもそも人間は、何かのアイディアを考えようと思ったときに、脳の中で、全く何もない「無」の状態から、フワっとアイディアが浮かんでくるということはないです。基本的には、脳の中にすでにある情報、もしくは、その情報同士を何かしらと掛け合わせて新しいアイディアを考えているのです。つまり、掛け合わせる情報を多く持っている人は、アイディアを幅広く発想できる可能性が高いということです。分かりやすい例を挙げると、「オフィスグリコ」があります。江崎グリコは、菓子メーカーとして小売業者を通じてお菓子を販売していたわけですが、その形態とは異なるビジネスモデルを構築しました。「オフィスグリコ」のビジネスモデルは、もともとは「富山の置き薬」で用いられていたものです。医薬品販売の分野では昔から存在したことが、菓子販売の分野では当たり前ではないので、医薬品販売の分野の要素を菓子販売の分野に転換して発想してみると、発想が広がる(今までとは異なるアイディアが出る)というわけです。
ビジネスにおいて情報収集を行う際、自身・自社が属している分野の情報は積極的に収集したとしても、異なる業界の情報を積極的に収集することは、意外と少ないと思います。新たなビジネスを発想するためには、異なる業界の情報(その中でも特に新しい情報)にアンテナを立てておくと、発想が広がりやすくなります。
多様性が高い状態だと、イノベーティブなアイディアが出る可能性がある
発想の原理原則を理解した上で、さらに発想の幅を広げるためには、一人ではなく複数の人で、且つ、多様性が高い状態でアイディアを考えたほうが、発想の幅が広がり、イノベーティブなアイディアが出る可能性が高まります。
多様性が高い状態ということをもう少し詳しく説明しますと、同じ分野の専門家が集まって考えるより、異なる分野の専門家が集まって考えるほうが、イノベーティブなアイディアが出る可能性がある、ということになります(ただし、雑多なアイディアも出ることになるので、効率は悪くなります)。
つまり、新しいアイディアを生み出すためには、多様性が高い状態をどのようにつくるかも重要で、例えば、
- 同じ部署の人同士でアイディアを考えるのではなく、異なる部署の人とアイディアを考える
- 自社の人同士でアイディアを考えるのではなく、他社の人とアイディアを考える
- 同じ業界の人同士でアイディアを考えるのではなく、異なる業界の人とアイディアを考える
- サービスを提供する側の人同士でアイディアを考えるのではなく、顧客になりそうな人とアイディアを考える
といった工夫を行うとよいでしょう。
「新しい事業を考える」ための発想であれば、「ニーズ」と「シーズ」を起点にして発想し、合致するところを探す
「発想を広げる」ための原理原則や工夫を理解したとしても、ビジネスのアイディアを考えるとなると、押さえなければいけない点があります。それは、「顧客のニーズ」が存在するアイディアでなければならないということです。
近年注目されている発想の手法として「デザインシンキング」を挙げましたが、「デザインシンキング」が注目されている理由の一つに、「顧客の(潜在化されたものも含めての)ニーズを捉える」ことを意識した手順がデザインシンキングの考え方の中に組み込まれていることだと思います。
また、企業によっては、「自社の強みが活かされている」アイディアでないと、意思決定者が承認をしない場合もあります。そのような場合は、「を行わなければなりません。顧客のニーズが存在するようなアイディアを幅広く考えて、それぞれのアイディアが自社の強みを活かせるものか考えることは効率が悪いため、「自社の強みが活かされている」ことの優先順位が高い企業は、「シーズを起点」とした発想を行うほうが効率は良いです。特に、メーカーなどで「技術」を持っている企業は、その技術を活用して新たな製品・サービス、新たな事業を展開していきたいと考えることは自然なことです。
「シーズを起点」とした発想とは、もととなる技術の価値の抽象度を上げて、技術シーズとして捉えて、そこから発想する方法になります(アイディアポイントでは、オリジナルの手法があります)。例えば、建築関連で土管の劣化状況を把握する技術を、抽象度高く捉え直して「管(くだ)状のものの中の状況を把握できる」と考え、そこから応用展開先を発想し、血管の劣化を発見する技術として使われる、といった感じです。
「シーズを起点」とした発想は、制約事項がある中で発想を行うことになるため、幅広くアイディアが出にくいというデメリットがあります。また、「シーズを起点」とした発想を行ったとしても、当然、そのアイディアに対して顧客のニーズが存在するかを確認して、シーズとニーズを合致させることが重要になります。
「顧客のニーズ」を起点に発想する応用的な考え方で、デザインシンキング以外にも最近よく用いられる考え方が「シナリオプランニング」です。シナリオプランニングとは、「設定したテーマにおいて起こり得る不確実な未来の可能性を検討し、その結果をインプットとして不確実な未来の可能性に備える対応策を検討する。さらに、このステップを繰り返すことで、未来のとらえ方をアップデートし続ける取り組み」と定義されています。
つまり、「シナリオプランニング」の考え方を用いて、設定したテーマの未来を想像することで、未来に発生する可能性のあるニーズを想像し、そこから新しいアイディアを発想するというアプローチとなるわけです。
現在の延長にないような発想を行うきっかけづくりとして、「未来に目を向ける」ことで発想の幅を広げるということは、有効な手段の一つと考えられます。
今回は、新しい事業のアイディアを発想するために、基本として押さえておいたほうがいい点をご紹介しました。次回は、上記のことを進めるにあたって、注意しなければならない点をご紹介したいと思います。楽しみにしていてください。
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株式会社アイディアポイント
営業部
内田 智士