デザインシンキングで共感が重要な理由とは?活用例やポイントも紹介

複数人がチームとなってアイディアを出し合いながら協創していくデザインシンキングの過程では、「共感」という概念が欠かせません。(デザインシンキングについてはこちらの記事をご覧ください。)
 
イノベーティブな活動を行うには、観察される人と同じ目線で、ときには相手の中に入り込んでその価値観を探り、じっくりと物事を観察する姿勢が求められます。また、得られた示唆(インサイト)をチームで共有・共感することで、新たな発想につながるのです。

今回は、デザインシンキングで共感が重要な理由や活用例、ポイントをわかりやすく紹介します。


目次

1. デザインシンキングで共感が重要な理由

まずは、デザインシンキングで共感が重要な理由を見ていきましょう。

オブザベーション(観察)のフェーズで役立つ

イノベーションは、オブザベーション(観察)→アイディエーション(発想)→プロトタイピングのプロセスを行ったり来たりしながら生まれます。

その入り口であるオブザベーションのフェーズでは、観察される人自身も気づいていない潜在的なニーズや価値を明らかにする必要があります。そこで役立つのが、「共感」という概念です。

「共感」は英語で “empathize” といいますが、“em”は「中に入る」を意味します。オブザベーションにおいても相手の中に入り込み、相手の目線で価値観に共感することで、新たに見えてくるものがあります。

固定概念(思い込み、バイアス)を取り払い、ゼロベースで物事を観察することで、すでに存在するモノの機能や性能を強化するという「改善型」ではなく、新たな価値の創造を追求する「革新型」のアイディアを実現できるのです。

クリエイティブな「協創」に役立つ

従来のビジネスパーソンは、主に頭で考えられることが求められていました。しかし、不確定要素が多い現代のビジネスパーソンには、「手も足も心も頭も的確かつ自在に動くこと」が必要不可欠といえます。

左脳的な論理思考だけでなく、右脳をフル活用して感性を研ぎ澄ませ、あらゆる方向にアンテナを張ることが革新的なビジネスアイディアにつながります。

左脳と右脳のバランスがよく、全脳・全身で考えることができるビジネスパーソンは、クリエイティブな協創で重宝されるでしょう。

これからの時代は、「仕事ができる人」だけでも、「いい人」だけでも不十分です。柔軟に物事を観察し、気づいて共感する力が強く、周りを巻き込みながら、さまざまな技法を使って協創していける人物が求められています。

このような能力は、決して上位職、管理職のポジションのみに求められているわけではありません。どのような立場で働いていようとも、常に新しい目線で物事を観察する習慣は身につけられます。チームのメンバーそれぞれが立場を越えてアイディアを持ち寄り、協創していくのが、新しい時代に求められているチームの姿といえるのではないでしょうか。


2. 共感を活かしたオブザベーション(観察)プロセスの例

 
オブザベーションのフェーズで共感を活かすと、どのようなメリットがあるのでしょうか。オブザベーションで頻繁に行われるアンケートとインタビューを例にあげて解説します。

アンケートの例

アンケートを活用したユーザー調査やニーズの深耕で求められるのは、量的調査では見えてこない定性的な情報です。調査者や観察者が、観察される人たちの中に入り込み、主観的に感じて調査する質的な活動を目指します。

観察対象者のインサイトを捉えるには、観察者が感性を働かせて観察対象者に共感し、相手の無意識的な活動を身体で理解することが大切です。

その際に、思い込みやバイアスといった固定観念にもとづく仮説にとらわれないことを意識しましょう。マーケティングでは、仮説を立ててから検証に移るのがよくある流れです。しかし、デザインシンキングのオブザベーションプロセスにおいては、仮説という思い込みによって重要な事実を見落とす可能性を、できる限り減らす必要があります。

インタビューの例

インサイトは表に出てこないものなので、ユーザーの行動や発言から推測する必要があります。インタビューは、観察される人のインサイトを推測するための材料を集めるのに効果的です。

インタビューの成果を左右するうえで、共感は大切な要素であるといえます。共感とは、自分の経験と相手の経験を同一視することであり、相手の視点で、相手の経験や現象に歩み寄ることで、価値観が見えてきます。

インタビューでもアンケートと同様に、固定観念(思い込み、バイアス)に縛られないこと が大切です。「沈黙を受け入れる」「答えを出さない」などの工夫をして話過ぎずに、より共感的に話を聞き出すための工夫をこらしましょう。


3. 共感できるようになるためにはどうしたらよいか

 
共感する能力は、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、日頃から物事を見るときに意識を変えていけば、いつも見ているはずのものから新しい発見が生まれるようになります。ここでは、共感する能力を高めるための具体的な方法を解説します。

気がつく能力を高める

気がつく能力は、多くのビジネスパーソンが最初に身につけるべきスキルです。

同じものを観察しても、「気づける人」と「気づけない人」がいますが、これは生まれつきの能力ではなく、自分の周囲の人や物事を観察しようとする努力と訓練によって鍛えられるものです。

気がつく能力を高めるには、ビジネスの場だけでなく、日常生活のあらゆる場面で訓練を積み重ねることが大切になります。些細なことにもアンテナを立てて、大げさに、「すごい!」「すばらしい!」と感じてみてください。

また、自分が知らないことや、試したことがないことに興味を持ってみましょう。いろいろなことに興味を持って、楽しみながら体験することは、デザインシンキングにとって重要な考え方のひとつです。

気づいたらアウトプットする

協創の基本的なプロセスは、立場の異なる人がそれぞれに価値観を主張し、それを新しい価値へと変換していくことです。何かに気づいたら、それを人に伝えてみましょう。それにより、自分自身では見過ごしてしまっていたことが見えてきます。

集中して自分の周囲を観察し、何かに気づき、その結果をありのままに受け止めて、アウトプットに反映する。

この習慣を身につけることで、徐々に共感力、感性が磨かれていくでしょう。

協創的コミュニケーションを意識する

複数の人が集まると、さまざまなアイディアが生まれますが、ビジネスにおいてはそれらが対立してしまうことがよくあります。

例えば、会議を行ったときに、「A案かB案」で意見が分かれたとしましょう。大抵の場合は、結論が出ないまま次回に持ち越されるか、上司の一声で話し合いが終わります。ビジネスパーソンであれば、一度は経験があるのではないでしょうか。

デザインシンキングに必要なのは、A案とB案のどちらかを取ることではなく、A案とB案を組み合わせてC案を創造することです。

対立型のコミュニケーションでは、イノベーションが生まれにくくなります。相手に共感することによって、協創的コミュニケーションを意識しましょう。

人同士の物理的な位置や距離も、心理状態に大きく影響します。話し合いをするときは、テーブルの反対側ではなく、同じ側に座るなどの工夫もしてみましょう。


4. 共感する力はアイディアを生み出す力

イノベーティブなアイディアは、イノベーティブな思考から生まれます。そして、共感する能力は、イノベーティブな思考のベースともいえるでしょう。

先入観を捨てて新しい環境に飛び込んでみると、これまで見えていなかったものがたくさん見えてきます。そして、何かに気づいたらアウトプットまで結び付けることが重要です。1人よりも2人、2人よりも3人でアイディアを共有すれば、それだけ新しい視点で物事を考えることができるでしょう。

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