デザインシンキングは、イノベーティブなアイディアを創出し、それを形にするための思考法です。
プロセスの一部は抽象的な作業になるため、ときには自分の考えを他の人に伝えるのが難しいと悩んだり、他の人が自分の考えをわかってくれないと不満が募ったりするでしょう。
デザインシンキングの手法の中には、抽象的なイメージを分類し、共通理解を得るのに役立つものもあります。
今回は、今すぐマネできるデザインシンキングの手法8選と活用事例、事例から学べるデザインシンキングのポイントを解説します。
1.今すぐマネできるデザインシンキングの手法8選
それでは早速、今すぐマネできるデザインシンキングの手法8選を紹介します。
ブレインストーミング
ブレインストーミングは、アイディアを大量生産するための発想技法で、マーケティングの現場でもおなじみです。
テーマと時間(10〜60分)を設定し、少人数のグループを作成します。アイスブレイクを行なったあと、付箋紙1枚につきアイディアを1つ書き出していきます。付箋紙に書いた内容を声に出して読み上げ、他人のアイディアに「いいね!」などのポジティブな反応を返します。そして、更に、アイディアを出していきます。
親和図法
親和図法は、情報をグループ分けするのに役立つフレームワークです。複数のアイディアが出たら、情報の意味が近いものをカテゴリ分けして、名前をつけます。
具体的な流れは、次の通りです。
- ブレインストーミングなどでアイディアを創出する
- チームで議論しながら、意味の近さ(親和性)にもとづいてカテゴリ分けする
- それぞれのカテゴリを端的に表す名前をつける
- グループに分ける過程を振り返りながら全体を俯瞰する
- 視点を変えて何度もグループ分けを繰り返す
シナリオグラフ
シナリオグラフは、ブレインストーミングのように自由な発想法とは異なる、「強制連想法」の一種です。型が決まっていることで実現性があるアイディアが生まれやすいのがメリットです。
テーマを設定し、いつ、どこで、誰が、何をするといったシナリオ形式でアイディアを生み出していきます。いろいろな要素を組み合わせて数多くのシナリオを作成していくと、常識的には思いつきそうにないシナリオができあがり、参加者の思考に揺さぶりや刺激を与えます。
2軸図
「高い・安い」「重い・軽い」のように、縦軸と横軸で平面を区切って情報をまとめる手法です。定性的あるいは定量的に情報を俯瞰するのに役立ちます。そこから得られたインサイトは、付箋の色を変えるなどして目立つようにしておきましょう。一度情報を整理したら、軸を変えて同じ作業を繰り返します。
フィールドワーク
フィールドワークは、教室や会社を飛び出して相手の活動の現場に出向いて行う調査・研究です。共感の意識を強く持ち、イノベーション創出に向けたインサイトを得ることを目的とします。
プロトタイピング
プロトタイピングは、プロトタイプ(試作品)によってアイディアを形にすることを意味します。アイディアの最終形態だけでなく、デザインシンキングの途中で作成した手書きの図などもプロトタイピングに含まれます。
プロトタイピングの目的は、次の通りです。
- つくってみることでアイディアを実感し、よりよくする
- 顧客やユーザー、メンバー間で共感を得る
- 最終的な製品やソリューションを検証する
ストーリーテリング
ストーリーテリングは、アイディアやコンセプトを具体的なストーリーに変換し、話して聞かせたり、演じたりすることです。プレゼンテーションに比べてメッセージがダイレクトに伝わりやすく、共感が得やすいため、相手の率直な反応を確認できます。
即興劇(インプロビゼーション)
発表の場でスキット(寸劇)などを演じて、自分の体験を相手にわかりやすく共有します。演者自身も、即興劇を通じて製品・サービスの特徴や効果を実感でき、アイディアの改善につなげられます。
2.デザインシンキングの活用事例
ここでは、デザインシンキングがビジネスや人々の生活をよくするために活用された事例を見ていきましょう。
出典:編著者 前野隆司、『システム×デザイン思考で世界を変える 慶応SDM「イノベーションのつくり方」』、2014年、日経BP社、P88・P80・P76
ハマノパッケージの事例
1954年創業の株式会社ハマノパッケージは、贈答品や高級菓子向けの貼り箱の専業メーカーです。
優良企業との取引で順調に売上を伸ばしてきましたが、製品単価の下落や高級品向け製品の不振などの複合的な課題に直面。コスト削減や品質向上など、あらゆる施策を打ち出しました。
とりわけ、高級貼り箱メーカーの生命線ともいえる品質の向上に注力しました。
顧客にヒアリングを実施しながら、「要望通りのよいもの」をつくり上げましたが、どれだけよいものをつくっても、思うように売上は伸びませんでした。そこで、本当に必要なのは「高品質」ではなく「高価値」だと気がつきます。
ハマノパッケージは、慶応SDMとのコラボレーションを通じて、システム×デザイン思考の方法論を取り入れながら戦略の転換に向けて動き出しました。百貨店でのフィールドワークを通じて、売り手や買い手の目線を意識できるようになり、「最終的に貼り箱を手にする最終消費者のことを意識できていなかった」ということを理解しました。
この出来事が、贈られた喜びがいつまでも持続する、廃棄を前提としない貼り箱の開発につながりました。「お菓子などの中身がなくなれば箱は捨てられてしまうもの」という固定観念を覆すことにより成功した事例です。
東芝の事例
株式会社東芝は、日本の総合電機メーカーです。美容家電やヘルスケア製品の開発にあたり、「そもそも美とは何か?」「健康とは何か?」といった根本的な問いに対して答えを見つけることで、人々の美と健康の維持・向上が容易になる製品開発を目指しました。
チームでのブレインストーミングや、チームの学生・教員・家族へのインタビューを通じて、キーワードとコンセプトを収集。それらを親和図や2軸図などのフレームワークを用いて分類しました。心理学の文献も参考にしながら、美と健康に関する要素を可視化した結果、睡眠やストレスフリーが、体の健康と心の健康を実現するうえで重要であるという仮説ができました。
得られたインサイトは新たな製品の開発に活用され、複数の製品のプロトタイピングを通じて、最終的に「美診断(日常生活の中で自然に美と健康に関するデータを測定するツール)」の開発の入り口につながりました。
UR都市機構・日建設計総合研究所の事例
都市再生をはじめとした「まちづくり」を手掛けるUR都市機構は、都市開発のコンサルティング会社である日建設計総合研究所とともに、東京都の新橋・虎ノ門・愛宕エリアの開発に取り組みました。
このエリアは、銀座や六本木などに比べて、特徴が今ひとつはっきりしないという大きな課題を抱えていました。加えて、環状2号線が街を横切っているという、避けては通れない前提条件をクリアする必要がありました。
開発チームはまず、街の魅力を発見するためにフィールドワークを行い、「まちのユーザーは誰か?」「そのニーズはどこにあるのか?」と問いかけました。
その過程で、「新橋・虎ノ門・愛宕エリアの地形は東京ディズニーシーに似ている」という、意外な発見がありました。もともと東京ディズニーシーの敷地は埋め立て地で、入場者の動線や施設の配置を考慮して造成されたはずです。その考え方を新橋・虎ノ門・愛宕エリアに当てはめれば、歩くことにエンターテイメント性を付加できるかもしれないというアイディアにつながりました。
環状2号線によって街が分断されている事実を、「Michi(道)によって人の交流を生み出す」というポジティブなアイディアに変換し、エンターテイメント性を高めるソリューションにつなげました。
3.デザインシンキングのポイント
最後に、事例から学べるデザインシンキングのポイントを解説します。
いろいろなことに興味を持ってみる
「楽しく興味を持つ」というのは、デザインシンキングにおいて重要な考え方です。それが、気がつく能力を高めることにつながります。新橋・虎ノ門・愛宕エリアの事例では、環状2号線というネガティブな要素を、発想の転換でポジティブな要素にしたことが成功のきっかけとなりました。
仲間の意見を否定しない
デザインシンキングは自由な発想が不可欠です。また、1つの正解に向かっていくような作業とも異なるため、相手の意見を尊重し、ポジティブな雰囲気で意見交換することが重要です。ハマノパッケージの事例では、「箱は捨てられるもの」という固定観念を捨て去ることがイノベーションにつながりました。
理屈よりもそこで起きていることを大切にする
アイディアの創出では、理屈よりも、今そこで起きていることが重要視されます。そこで人がどのような気持ちになったかを丁寧に感じ取ることで、インサイトが深まります。東芝の事例では、「そもそも美とは、健康とは何なのか?」という基本に立ち返り、ブレインストーミングやインタビューを通じて、今そこで起きていることを注意深く観察したことで有効な仮説が生まれました。
4.手法はアイディア創出の手段に過ぎない
デザインシンキングに活用できる手法には、さまざまなものがあります。
1つ試してみてしっくりこなければ、別の手法を試してみましょう。手法はあくまでもアイディア創出の手段に過ぎないため、手法を使いこなすことが目的にならないよう注意することが大切です。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。