本日のコラムは、新たに新規事業提案制度を設ける際の手順についてまとめました。
広く社員からアイディアを募ることで、特定の部署や人が考えているだけでは出てこない発想が生まれたり、予想外にポテンシャルを発揮する人材が発掘されたりと、様々な効果が期待できる新規事業提案制度ですが、その設計の手順やポイントをまとめた書籍や資料はあまり世に出ていません。
今回は、弊社のノウハウをフル公開していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
先に出口から決めておく
まず決めなければいけないことが、出口です。審査を通過した案件と起案者がどのような取り扱いとなるのか、明確に決めておく必要があります。これが無いまま、「とりあえず賞金を出すことにしておこう」などとしてしまったら、学生のビジネスコンテストと何も変わりません。本気の提案が出てこないどころか、会社の本気度が疑われてしまい、新規事業への意欲を削ぐという、まったく逆の効果を生んでしまいます。「どんな提案が上がってくるかわからないので、出てきてから判断できるように曖昧にしておこう」と思われるかもしれませんが、絶対におすすめしません。厳しいことを言いますが、制度を運用する立場として覚悟が足りないと言わざるを得ません。
出口の決め方は色々ありますので、他企業を参考にしながら自社にとって妥当な形を選択しましょう。最終審査通過後の取り扱いとして、大きく分けて3パターンです。
- 起案者本人が異動(出向)し、稼働100%で事業開発に取り組む
- 起案者は異動せずに、稼働の20~50%を使って一定期間取り組む
- 起案者は事業開発に関わらずに、提案のみを事務局or事業部が引き取って推進する
※実際には3となることは稀
実感値としては1のパターンが一番多いです。1の注意点として、審査後にスムーズに異動が行えるように、人事部と連携し、人事制度との整合を取っておく必要があるのはもちろん、既存の所属部署から引き抜く形になるので、各事業の責任者にも事前に筋を通しておきましょう。
事前に経営陣と対話して新規事業の『位置づけ』を決めておく(そしてコミットしてもらう)
次にやるべきことは、審査を担う経営陣との対話です。自社における新規事業とはどういうものなのか、対話を通じてできるだけ言語化しておきましょう。これが自社の新規事業提案制度のビジョンとなり、全てを決めるための指針となります。
「我々にとって新規事業とは何のためにやるものなのか」、「何をもって事業の成功とするのか?」など、非常に難しい問いなので、一言で表現できるものではないと思います。しかし、この対話こそが経営陣の覚悟であり想いでもあります。既存事業に対する思い入れ、過去の事業立ち上げの成功や失敗、未来への展望、今の若い世代へ遺したいこと、など色々な覚悟と想いを受け取っておくことで、細部の設計における指針となります。
また、可能であれば、このタイミングで各論についてもできるだけたくさん会話しておきましょう。例えば、○○のような分野は自社として有りか無しか、既存事業は全てB2BだがB2Cのビジネスは有りか、などです。経営陣も答えられるものと答えられないものがあると思いますが、絶対NGの条件がある可能性がありますので、事前に引き出しておけるとベストです。
社内への周知→動機づけ→サポートの仕組みの順で、スムーズに流れるように設計する
ここからは一件でも多くの応募をしてもらうために具体的な施策の検討に入っていきます。
社内への周知における必須項目は、応募を開始するタイミングで行う制度説明会において、トップメッセージを発信することです。本気であることを社員に示すためには、トップメッセージしかありません。他には、初年度は特に制度そのものに関する情報が少ないので、説明会を行う中でストックされていく質疑応答をテキストに起こして公開するなど、フェアに運営していることを示すとよいです。カルチャーによりますが、ポスターを貼ったりメルマガを流したり、『盛り上がっている』感じを出すことも意外と重要です。
次に応募喚起・動機づけのための施策を用意します。まずスタート地点として、新規事業に対するイメージが人によってバラバラである前提で考えるとよいと思います。会社の未来を創るポジティブなものとして捉えている人もいれば、どうせ失敗するムダな投資だと高を括っている人がいるのも事実です。そのため、施策を考え始める前に、簡単に社内にヒアリングを行い、「応募するにあたって何がボトルネックになりそうか?」を明らかにすると、グッと施策のアイディアが出てくるようになります。
そもそもあまり興味が無さそうであれば、カンフル剤を投入する意味で、社内もしくは社外で新規事業を立ち上げた経験者を呼んで、セミナーを行うのもひとつの手ですし、アイディアに不安がありそうであれば、ワークショップ形式で発想法やニーズの見つけ方を学ぶ場を設けるのが効果的ということになります。この手のイベント的な施策は、何が当たるかわからない側面もあるので、まず募集を頑張って、ハマるかどうかを見極められるようにすると、次に活かすことができます(参加者が少ないとそもそも何が悪かったのか検証できないので)。具体的な施策の選択肢はいくつもありますので、こちらの記事を参考にしてください。
最後に、応募しようと思い立った人をサポートするための仕組みを整えます。
仕組みといっても、そんなに複雑なことはないので安心してください。まず大切なのは、悩んだり迷ったときに相談できる先を用意しておくことです。周囲に気軽に相談できる新規事業仲間がいなかったり、本業の上司に相談するのは億劫だったりしますので、事務局が社内にオープンな状態であることを示して、いつでも相談を受け付けるというアピールをしておけば十分です。
注意しておく点は、事務局というのは審査する立場と見られるケースがありますので、警戒心を解くために、フェアに応募者に寄り添って相談に乗る旨をお伝えするとよいでしょう。
その他に応募をサポートする施策として、弊社が効果的だと考えるのは、応募書類を書くためのガイドラインを用意して配布したり、実際に書くためのポイントを伝授する講座を開催することです。応募する意思を持っていても、「書き始める」行為はどうしても腰が重くなりがちなので、そのハードルを下げることは大変重要です。
さらに、応募書類のクオリティを上げる観点からも、少なくとも審査できるレベルの解像度に引き上げるために、書類の各項目には何をどのくらい書く必要があるのかを理解してもらうだけで、審査のしやすさが飛躍的に上がります。
ここまで、周知→動機づけ→サポートの仕組みに関するポイントをまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
見落としがちな落選者へのフォローもしっかり設計しておく
意外と見落としがちなのが、落選者へのフォローとフィードバックです。想いは持っているけれど、案自体が振るわないケースは往々にしてあります。そういった方を大事せずに放置すると、2年目3年目にボディブローのように効いてきます。
想いを持っている時点で新規事業という過酷なレースのスタートラインに立っている貴重な人材ですので、ぜひ丁寧にフォローして次は通過できるようにサポートしていくことをおすすめします。
審査の基準や方法に関しては、別途コラムを書きますのでそちらをご覧ください。
本日は、新しく新規事業提案制度をスタートする際の設計のポイントをお伝えしました。
実際にはもっと多くの細かい検討ポイントがありますし、そのための社内調整も一筋縄ではいかないでしょう。
もしツテがあれば、他社で事務局を担っている人にリアルな話を聞いてみるのも良いかもしれません。エクセレントな制度でなくても構いませんので、きちんと運用することを念頭において取り組みましょう。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
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