研修成果物への「厳しい」フィードバックとは?

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「もっと厳しくフィードバックしてほしかった」「厳しめにフィードバックしてください」

研修実施後のアンケートや、研修前の研修事務局様との打ち合わせにおいて、「もっと厳しくフィードバックしてほしかった」とか、「厳しくフィードバックしてください」というコメントをいただくことがあります。当社の研修では、何らかの形で成果物を作成して、最終発表会を行うことが多いのですが、一部の受講者や事務局の皆様は、この成果物や発表内容に対して「厳しさ」を求めているようです。
最初に記載しますが、当社の研修におけるフィードバックは、ことさら意図的に「優しさ」を表現しているつもりはありません。そのため、なぜ「厳しさ」を求める声があがるのかは疑問に感じます。今回は「厳しいフィードバック」とはどういうことなのかについて、そして当社のフィードバックのスタンスについてご説明してみたいと思います。
なお、「研修プログラム」や「研修実施におけるプロセス」について「厳しめに」というオーダーをいただくことがありますが、これについては「プログラムの強度」に関するオーダーですので(≒「ハード」とか「ヘビー」といった表現が近いかと思われます)、本コラムの対象外といたします。あくまで「フィードバック」についてのみ記載していきます。


「厳しくしてほしい」とはどういうことか?

ここで、「厳しくしてほしかった」という声をあげてくれた受講者に、一体どういうことなのかと少し詳しく訊いてみました。すると返ってきたコメントは「悪い点をもっと指摘してほしい」「悪い点を指摘されないと成長できない」という類のものが多く、さらには「良いところを褒められても自分は伸びるタイプではないので」といった声までありました。
また、事前に「厳しくフィードバックしてほしい」というご要望をあげてくださる研修事務局様にも詳しく訊いてみたところ、「『できていないところ』を『ガンガン』厳しく追及してください」といった類のものでした。
これらを総合しますと、どうやら「厳しい」という表現は、

  • 対象:できていないところ、悪いところ
  • 表現:強いトーン、ピリピリしたムード

ということを表しているようです。
その他、事務局様から「今回の研修の受講者である〇〇層は▲▲な傾向があるので、どうぞ凝り固まった頭や思考を叩き割ってください」という類の補足をいただくこともあります。(ある年代の層に対してひとまとめにした印象を想定して臨むことを求められていることへの是非は置いておいて、)受講者のマインドチェンジや気づきを与える手法として、「叩き割る→北風的なアプローチ」を求めているのだと考えます。マインドチェンジや気づきを与えることが目的であれば、手段として「太陽的なアプローチ」もあるのでは?と思いますが、おそらく北風的なアプローチが有効だろうという見解があり、その結果「厳しくしてほしい」というオーダーにつながるのだと思われます。(注:この辺りは「社風」が反映されがちかもしれません)
その他、これは経験則ですが、前提として「教育は厳しくあるべきだ」という考え方や、「『楽しい研修』に対する疑問や嫌悪感」のようなものが一定量存在するということはありそうです。この結果、「できていないところ、悪いところに対しては、強いトーンでフィードバックしてほしい」「強いトーンで気付きを与えてほしい」というご要望として現れたものと考えます。


当社がフィードバックする場合

 
ここで、当社(当社講師・当社が委託する講師)が成果物や発表に対して厳しくフィードバックする場合について記載します。
 
当社のフィードバックの大原則は「客観的に、フェアに事実を述べる」となります。例えば、成果物や発表が「『与件』に従っていない」、「『予め案内した』注意点やアドバイスを踏まえていない」場合は、客観的に明らかですので、「NG」としてフィードバックします。成果物や発表を求める際は必ず事前に「与件」を示しますので、そこから外れる成果物はいわばルール外として「NG」となります(例:時間オーバー、ページ数オーバー等)。ただし、強いトーンを用いることは滅多にありません。「おいおいおいおい、時間は守ろうぜッ!!!!!」みたいなトーンにはなりません。
また、ある程度、結末・結果に予想がつく場合においては、講師やコンサルタントが先回りして「注意」や「アドバイス」を行います。これらについても聞き入れていない成果物に対しては「なぜ注意点やアドバイスを踏まえていないのですか?」と問いかけます。
 
例えば、「(事業提案の作成において)必ずユーザー候補者にインタビューを行い、その結果を提案に反映させてください。その方が提案に説得力と迫力がつきます」とアドバイスしたにもかかわらず、インタビューをせずに自分たちの想像や思い込みで提案を作成してきた場合に、「提案は置いておいて、なぜインタビューをしなかったのですか?」という確認から入ります。仮にインタビュー結果が役に立たなかったとしても、それは「インタビューをしてみないと、役立つか分からない」わけです。このような場合は講師の指示に背いたというよりは「ユーザーの意向を軽視した提案」として厳しくフィードバックします。
その他、基本事項として「論理的な矛盾」「ヌケ・モレ」「前提条件と合致していない」などの場合にはしっかり指摘します。しつこいようですが、この場合も強いトーンではありません。「はぁ?⤴なんでインタビューしないんですか?ありえないんですけどー」みたいなトーンにはなりません。
 
とはいえ、基本的に受講者は大人ですから、本音では指示を無視されて多少残念であるものの、だからといって強いトーンでなじるようなことはしません。ただし事実をストレートに指摘されたことに対して「厳しい」と受け取るタイプの受講者は存在すると思いますので、受け手によっては「厳しいフィードバック」となりえるかもしれません。


その他「厳しい(と受け取られがちな)表現」を用いる場合

一定期間にわたるプロジェクト系の研修などにおいて、終了後に個別のレポートを行う場合もあり、その場合に率直に事実をフィードバックすると、「厳しい」と受け取られることがあります。具体例を用いてご説明します。
 
いくつか設定された評価項目にそってフィードバックを行う場合、例えば「チームへの貢献」という項目において、たとえ評価対象者の発言量が多くとも、「自分の言いたいこと」をずっと話しているだけでは「チームへの貢献」とは評価できません。また、同様に「コミュニケーション」という項目において、意見の合うメンバーとばかり対話量が多くても「コミュニケーションが良好」とは評価できません。このあたりは観察した結果として率直にフィードバックします。総じて本人の自己評価との乖離(低い方に)があった場合、「厳しい」と受け取られがちなようです。事実を述べたまでなのですが、「いやぁ、そこまで厳しくしてきいただき、ありがたいです!ちょっと心が痛いですけど(ペコリ)」と変に感謝されます。繰り返すようですが事実を述べたまでなのです。
 
なお、この場合は期待される発揮能力や、他の受講者との相対的なポジションを踏まえてフィードバックしますので、自己評価との乖離が生まれやすいのかもしれません。いわゆる「360度評価」のようなものです。


「アイディアの良し悪し」ではなく「そこまでのプロセス」に注目しています

新規事業創造に絡む研修やプロジェクトにおいて、成果物の「アイディア」に関するフィードバックを求められる場合があります。アイディアの「良し悪し」についてコメントを期待されがちですが、正直なところ直感で「良い?」とか「ワクワクする!」とか、逆に「これはちょっと・・・⤵」と思うことはあります。しかし直感をそのままフィードバックすることはありません(これではただの「感想」であり、「フィードバック」ではありません)。それよりもちゃんと調べたか?インタビューしたか?その結果どのように軌道修正したのか?等の、アイディアに至るまでの「プロセス」と成果物の整合性を重視します。
 
そもそも講師やコンサルタントが感覚的に好まないアイディアだとしても、数年後に爆発的にヒットしていることはありえるので、「現在」の評価軸で「未来のアイディア」の良し悪しをコメントすること自体にあまり意味がないのかもしれません。


まとめ

前半部分で「厳しいフィードバック」を解きほぐしていくと、「できていないところ、悪いところに対しては、強いトーンでフィードバックしてほしい」「強いトーンで気付きを与えてほしい」という受講者や事務局様の想いに行き当たりました。しばらくの間「僕(私は)褒められると伸びるんです!」といった声に接する機会が多かったので、強いトーンを求める声に接して驚きましたが、確かに「できていない部分に対して強いトーンで矯正してほしい」というニーズはあるのかもしれません。
しかし「強いトーン」そのものに効果があるかは、検証が難しいだけでなく、周囲の人々にネガティブな影響を与えがちなので、やはり当社としては強いトーンを用いたフィードバックは行いません。これからもその予定です。
 
同時に、「与件や注意、アドバイスに則っているか?」「グループへ貢献しているか?」「ちゃんと調べたか?」といった事実に基づくフィードバックを今後も継続していきます。そのフィードバックが仮に受講者の「痛いところ」を突いたり、の自己評価との乖離があり「厳しい」と映ってしまったりした場合は、「厳しいフィードバック」となるのでしょう。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
企画開発部

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