
「次世代リーダーを育成するために、社外での経験を積ませたい」という声を、人材開発の現場でお聞きする機会が増えています。なかでも、他業種・他社の参加者と共に学ぶ「異業種交流研修」への関心は高まる一方です。しかし、研修に送り出す前の準備—とりわけ「送り出せる人材」をどう育てるか—については、十分に議論されていないことも少なくないのではないでしょうか。本記事では、異業種交流研修への参加予備軍を意図的に育成するための考え方と、具体的な取り組みについてお伝えします。
企業が「他流試合」を重視するようになった背景
人材開発の担当者や参加者の上長とお話しする中で、「次世代リーダーにはどんどん他流試合(社外での経験)を積ませたい」というコメントをよく耳にします。その背景には、
- 先行きの見通しが立てにくい環境(いわゆる「VUCA」)の中で、自社内だけの経験に収まらない視野を早期に持ってほしいという期待
- 社会課題の解決や市場変化への対応には、他業界・他社との連携が欠かせないため、マネージャーになる前から外部との協働経験を積ませたいという狙い
といった考えがあります。実際に、三井住友海上火災保険株式会社では「課長への昇進要件として、何らかの社外経験を求める」という方針を打ち出しており、こうした動きは今後も広がっていくことが予想されます。
異業種交流研修の参加者の選び方は企業によって異なりますが、「指名」か「挙手(希望制)」が主流です。いずれの場合も、最終的には「会社が期待を寄せる人材」に参加の機会が回ってくることがほとんどです。
企業側の期待と参加者の意識のずれ
研修に参加者を送り出す企業側と、実際に研修に参加する社員の双方が求めることは、概ね一致しています。共通しているのは、いわゆる「越境体験(自社・自業界の外に踏み出す経験)」を求めている点です。具体的には以下のような期待が挙げられます。
- 異なる価値観や考え方に触れること
- 新しい知識・情報を得て、判断の選択肢を広げること
- 多様なメンバーと協働しながら何かを成し遂げる経験を積むこと
- 社外に人脈を築くこと
- 他社の取り組みや視点を自社に持ち帰ること
- 自社の取り組みについて、他社の視点から意見を得ること
- 良い「刺激」を得ること
ただし、ひとつ注意が必要な点があります。参加者が「研修は学ぶ場である」という意識を強く持ちすぎると、他の参加者から受動的に学ぶことだけを求める姿勢になってしまうことがあります。
異業種交流研修は、参加者同士が互いに知識・経験・視点を提供し合うことで成立するものです。そのため、参加者には「他のメンバーに対して自分の価値観・知識・情報を提供できる存在である」ことが求められます。自分が他の参加者から学ぶ「だけ」ということは、異業種交流研修においてはフェアではありません。研修に臨む前に、上長や研修事務局が「自社を代表して参加し、研修に貢献してほしい」という期待を込めて対話しておくことが重要です。
「自社を代表する」とはどういうことか
異業種交流研修に「自社代表」として参加するために望ましい状態とは、具体的にどのようなものでしょうか。以下の項目が目安となります。
- 自社のパーパス(存在意義)・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)・経営方針・経営計画を理解している
- 自社に関する定量的な情報(規模・業績・市場シェアなど)をある程度把握している
- 自社の内部環境・外部環境(強み・弱み・機会・脅威など)について自分なりの見解を持っている
- 自社の顧客・商品・サービスについて説明できる
- 自社が属する業界の動向に関心を持ち、継続的に情報収集している
- 上記を踏まえた自分なりの課題意識を持ち、口頭や資料で他者にわかりやすく伝えることができる
- 場の状況に応じてリーダーシップやフォロワーシップを発揮し、グループに貢献する、という意識を持ち、発揮している
これらは、高度な専門知識を求めるものではありません。しかし参加予備軍となる若手社員にとっては、「知っているようで知らないこと」や「知った気になっていること」が意外に多いものです。その状態のまま社外の場に出てしまうと、他の参加者から信頼を得にくくなってしまうことがあります。
参加予備軍の育成に向けて取り組むこと
前章で挙げた項目を、段階的に身につけていくことが育成の基本的な考え方です。最初から「会社全体」を語れる必要はなく、まずは「自分の所属する組織(課レベル)」について深く理解し、説明できることから始めます。
STEP1:自組織について深く知り、語れるようにする
たとえば営業部門であれば、主要顧客との取引の歴史、これまでの成功・失敗事例、競合との比較など、自組織に関わるさまざまな情報を真剣に調べます。そのうえで、自組織の現状と今後の課題について自分なりの意見を持ち、自分の言葉で語れるレベルに到達することが最初のゴールです。
STEP2:視野を段階的に広げていく
自組織について語れるようになったら、次は対象を「部」→「事業部」→「会社全体」→「グループ企業全体」と段階的に広げていきます。できれば、他部署の同じ年次のメンバーと一緒にこの過程を経験することが望ましいといえます。
STEP3:日常の会議や場への貢献を意識する
日常業務においても、参加する会議やミーティングで自分なりの意見や問いを持って発言することは、有効なトレーニングになります。「勉強させていただきます」という姿勢で参加するだけでは、その場への貢献が生まれません。
多少知識が少なくても、自分なりの視点で問いを投げかけたり、異なる観点から情報を共有したりすることが「場への貢献」につながります。これは、参加予備軍のためのトレーニングであると同時に、会議参加の基本的な姿勢でもあります。
上長・人事担当者が担う役割
「研修に出しさえすれば、あとは本人が学んでくれる」という考え方では、意図した成果を得ることが難しくなります。送り出す前に、上長や人事担当者が「自社を代表して参加し、貢献してほしい」という期待を込めた対話をして送り出すことが、研修成果に大きく影響します。
まとめ
異業種交流研修の参加者には、他のメンバーへの貢献が求められます。そのためには、研修に臨む前に「自社を代表できる」状態—自組織・自社への深い理解と自分なりの意見—を身につけておくことが重要です。
参加予備軍を意図的に育てるポイントをまとめると、以下の通りです。
- まずは「自組織(課レベル)」に関する情報を広く収集し、自分の意見を含めて語れるようにすることからスタートする
- 段階的に対象を「部」→「事業部」→「会社全体」→「グループ全体」へと広げていく
- 日常の場(会議など)でも積極的に発言し、場への貢献を習慣にする
- 上長は日ごろから期待を込めた対話を行い、送り出す前に意識を高めておく
異業種交流研修において「誰と学ぶか」は、研修テーマや講師と同様に、成果を左右する重要な要素です。放っておいて「異業種交流研修に送り出せる人材(参加予備軍)」が育つことはありません。「自社でしか通用しない社員を育てていないか」を問い直しながら、社外でも活躍できる人材を意図的に育てることが、今後ますます重要になっていくといえるでしょう。
当社では、次世代リーダー、マネジメント層、若手社員を対象とした異業種交流研修を提供しています。参加予備軍の育成も含めてお気軽にご相談ください。
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株式会社アイディアポイント
企画開発部
今井 裕也









