研修を企画される際、「事前課題、事後課題をどのように設定したら良いか」と悩まれる方も多いと思います。事前課題、事後課題も「研修」を効果的にするための大切な要素の一つです。今回は、課題の設定方法についてご紹介いたします。
研修を成功させる「4:2:4の法則」
人材育成や研修を企画される方からは、『学ばせたことがなかなか職場で活用されない』、『受け身で「やらされ感」のある受講者がいる』、『研修がやりっぱなしになっている』、などといった声をよくお伺いいたします。研修の成功とは、研修で学んだことを実務に活用いただけることだと思いますが、研修を成功させる上で欠かせない「4:2:4の法則」をご存じでしょうか。
これは、研修の成果に対して、研修前(事前の設計、準備)、研修中(研修当日、本番のこと)、研修後(フォロー)のそれぞれのプロセスがどの程度影響を与えているのかを割合で示したもののことですが、『研修前:研修中:研修後=4:2:4』と言われています。
重要だと思われている研修本番が研修効果に及ぼす影響はわずか2割で、残りの8割が「研修前、研修後」なのです。この8割の中に事前課題と事後課題が含まれています。よい研修を行うために、研修本番だけではなく、事前課題、事後課題にも十分に配慮することが必要です。
事前課題・事後課題に何を設定すればよいのか
上述の通り、研修前と研修後をどうするかが研修を成功させる肝です。そのためには研修を当日、単発で終わる「イベント」ではなく、研修前~研修後までを一連の「プロセス」として捉え、当日は、集合研修でしかできないこと(その『場』で人が集まったからこそできること)をすることが重要です。
研修前、研修中、研修後のそれぞれのフェーズでは下記のようなことを考えましょう。
1.研修前 : 事前課題でやるべきこと / 当日の内容を補ってもらえることは何かを考えましょう。
- 研修に対する意識づけ ← ここが一番、大事です
- 研修内容に関する前提知識の確認、基礎知識の習得(主に、インプットだけで済むもの)
- 自己分析や現状の課題分析(自分一人でできるもの) など
2.研修中 : 研修の中で習得してもらいたいことを考えましょう。
- 知識の深堀り(知識を経験や業務と関連付けて理解する、体系的に理解する など)
- アイディアや情報の共有や拡散(グループワーク)
- スキルの練習(個別のアドバイス、コツの取得)
- アクションプラン作成 など
3.研修後 : 事後課題で補ってもらえることは何かを考えましょう。
- 知識の定着、復習
- アクションプランの実践と振り返り、自論化 / 持論化 など
部下育成スキルについての研修を例に挙げてご説明すると、各フェーズでは、例えば、下記のような内容が考えられます。
事前課題
- 事前案内で研修の目的、内容を理解して、自分なりに目的意識を持つ、疑問を持つ
- 課題図書で「コーチングの基本ステップ」を学ぶ
研修中
受講者自身がこれまでの経験を共有する、他の受講者にアドバイスするなどから以下を学ぶ
- 部下育成の目的、プロセス、メリット
- コーチングの具体的な方法
- 様々な部下や状況でのコーチング
研修後
- あらためて受講内容を思い出す、復習する
- アクションプランを実践する
- 振り返りを実施することで、自分なりに成功のコツをつかむ
事前課題・事後課題のよくある失敗とその対策
事前と事後が大切だからと言って、やみくもに課題を設定することは、するべきではないでしょう。せっかくの研修効果が半減になってしまうよくある失敗例をお伝えいたします。
1.とりあえずたくさん出す
大量のインプットをすれば研修効果が出るというものではありません。研修の目的に対してあまりにも多すぎる事前課題は、研修前に受講者が疲れてしまい、「これ、修行なの?」とやる気がそがれる原因にもなってしまいます。「意図のない」出題は、受講者を混乱させるだけではなく、当日の進行にも関わります(とりあえず、出しておいて、当日、振れないというわけにはいかないので)。『必要かつ十分』な事前課題を設定するようにしましょう。
2.受講者の負担が大きいから、課題なし
会社の将来を背負って立つ人材に受講してもらう選抜研修の場合は特に、受講者本人が職場のエースとして負荷の高い業務を担当していることが多いため、研修による負担をかけたくないと思う気持ちはとてもよく分かります。しかし、研修を通して習得してもらいたいことは何でしょうか?
学んだことを受講者に習得してもらい、実務で活用してもらうのであれば、当日の研修だけでは不十分です。受講者に意識づけや振り返りをしっかり実施してもらえるよう、また研修が交流会・同窓会のような「イベント」にならないよう、研修の目的を達成するために必要最低限の課題は出すべきでしょう。
3.出しても出さなくてもよい / 何も言われない / 任意
『出しても出さなくてもよい』課題もあまり好ましくありません。研修の目的を達成するために課題を課しています。
研修の意図をしっかりと理解して精度の高い課題を提出してくださる受講者がいる一方で、適当にこなして出す、もしくは出さない受講者の方もいらっしゃいます。課題の精度にバラつきがあると、研修の質がどうしても下がります。
同じ研修に参加する受講者はモチベーション、事前の知識がある程度、揃っている方が望ましいのですが、しっかりと事前課題に取り組んできた受講者が、課題を出さなかった受講者へ貢献する場になる可能性が高くなってしまうのです。「やってこなくてもよかった課題なんだ」となると、受講者のモラルの低下、出題者(講師や企画担当者)への信頼低下にもつながります。(当然、この後みんなやらなくなります)。つい、「忙しい人もいるから仕方ないかな」思ってしまいがちですが、やはり、避けるべきでしょう。
4.ぼんやりした事前課題 / 抽象度の高い課題
グループでも個人でも、抽象度の高いテーマに関して取り組む研修の時には、可能な限り与件をきちんと設定する必要があります。事前に考えてきてほしいことがある場合、フォーマットに埋めてくれば良いもの、すぐに解が出るようなものばかりではありません。「将来の会社について考えてきてください」といった出題はその例でしょう。これでは、どの範囲で何を考えくればよいのか受講者が迷ってしまいます。出題の背景や研修での取り上げ方、ある程度の範囲を提示するなどの工夫が必要です。与件は社内の情報共有の状況や受講者の年次、研修で期待する成果やプログラムの内容に大きく依存します。抽象的すぎず、具体的すぎない設定が必要です。与件の設定が難しい場合は、ぜひ当社にご相談ください。
5.本人任せの事後課題 / 負担の大きすぎる事後課題
『あとは個人で振り返っておきましょう』『職場で活用しましょう』と受講者のやる気に任せた事後課題は、研修の成否まで本人にゆだねることになります。やりっぱなし研修の代表例です。研修を用意した側が、最後までしっかり責任を持ちましょう。一方で、何十枚にもわたる受講後レポートを書かせたり、何十分にもわたる研修報告をさせたりという負担の大きすぎる事後課題は、いつまで経っても研修が終わらず、レポートや報告をすることが受講者のゴールになってしまいます。
研修の学習効果と受講者の負担を考慮して、必要かつ十分な量を妥当な範囲で受講者に課しましょう。
事前課題でメリットや意識づけをして「学習者」を増やそう
受講者の研修に対する興味のレベルは、以下の4段階があります。(出展:中村 文子・ボブ・パイク著、『研修デザインハンドブック』、2008年、日本能率協会マネジメントセンター)
- 囚人 : 本当は研修に参加したくないけれども、強制的に参加させられている人。必修の階層別研修などに多く見られます。目線は常に社用PC、研修中は内職・内職。
- 休暇中の人 : 普段の業務より研修に参加する方が楽で楽しいと思っている人。必ずしも学びたい意欲があるわけではありません。社用メールの不在設定は抜かりなく、研修はテーマパーク。
- 社交家 : 研修の内容というよりは他の受講者と話す機会を楽しみにしている人。グループディスカッションの時など、隙があれば他の話題に脱線しやすいです。休憩中と懇親会は元気なパーティーピーポー。
- 学習者 : 真摯に学習をしたいと思っている人。この人を増やしましょう。会社の未来は彼らの手の中!!
学習者を増やすためには、研修を受講する意味や本人にとってのメリットを発信することがポイントになってきます。事前課題で受講者自身が現状の課題を認識できれば、それは研修を受講するメリットを感じるきっかけにもなります。
事前課題、事後課題も研修プロセスの大事な一部分です。しっかり設定して、きっちり回収し、効果の高い研修を実施しましょう。
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社アイディアポイント
企画開発部
藤原 梢