お客様と議論する中で、研修の効果をより上げるためにどのような工夫を行うべきかを議論することがあります。特に、人事部門ではないが人材育成を行わなければならない部署の方は、経験値が少ない場合もあり、どのような工夫を行う必要があるか一緒に考えさせていただくことが多いです。
人材開発に携わる方が、研修の効果を上げるためにどのようなことを意識するべきなのか、基本的なことをまとめて記載します。
主な内容は、『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』(中原淳ほか、ダイヤモンド社、2018年)より引用されているものが多いですので、興味ある方は、ぜひご一読ください。
研修の効果を上げるためには「事前」「事後」の対応が重要
研修の効果を上げるということに関連した原理原則として有名なものは、ウェストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授が、2007年に当時のASTD(現ATD : Association for Talent Development)にて発表した「40:20:40モデル」が挙げられます。
そのモデルの概要は、研修の効果を上げるための労力を全体が100だとすると、研修の前(の準備)に40、研修の後(の現場での活用)に40の労力をかけることで、高い研修効果が得られる、といった内容でした。
研修の効果を上げるためには、研修の内容をどのようなものにするかということだけでなく、研修の事前と事後の対応が重要だということです。
また、そもそも研修の効果とはどのように評価するのでしょうか。研修の評価で有名な原理原則は、ウィスコンシン大学のドナルド・カークパトリック教授が提唱された「4レベル評価モデル」が有名ですが、このテーマだけでも書籍が一冊書かれるくらいなので、今回の記事では深く触れません。
少しだけ解説しますと、研修の評価が最も高い「レベル4」というものは、研修の結果として、「成果」(売上・利益の向上、生産性の向上、従業員満足度の向上、離職率の低減など)が生み出されているという状態なのですが、研修の結果として成果に結びつけられているかの効果測定が難しいため、「レベル3」である、現場での「成果につながる重要な行動」がいかに変化したか、いかに実践・活用されているかを評価することが現実的であるとされています。
今回の記事に記載されている内容も、「研修の効果を上げる」ということは、すなわち「研修で学んだ内容が現場で活用され、成果につながる重要な行動として実践されているか」という点を意識して工夫することが重要です。
研修の効果を上げるための工夫を整理します!
研修の効果を上げるには、「事前」「事後」が重要であることはお伝えしましたが、工夫するべきことを検討するときに、どのように整理して考えるとよいか、もう少し具体的に例示します。
既出ではありますが、「どのタイミングで工夫を行うべきか」という観点で考えますと、研修の「事前」「事後」が重要というだけでなく、当然「当日」どう工夫するかということも検討する必要があります。
また、違う観点で考えますと、「研修の関係者」という観点で考えるとよいでしょう。研修では、受講者と研修講師が存在しますので、それぞれがどう工夫するべきかを考える必要があります。
また、研修講師と一緒に企画を行う事務局(人材育成担当)が存在しますので、事務局が行うべきことという観点でも考える必要があります。ただし、研修講師と事務局は、限りになく一心同体の状態を目指したほうが成果が高まりますので(最終的に行うべきことは役割分担する必要はありますが)、関係者として一つにまとめて考えます。
最後に、「研修の関係者」で忘れてはならないのが、受講者の上司になります。「研修の関係者」として忘れがちですが、重要な存在になります。先ほど、研修効果の評価について、「研修で学んだ内容が現場で活用され、成果につながる重要な行動として実践されているか」という点を意識することが重要であると記載しましたが、現場でちゃんと活用されているか、行動として実践されているかが最も分かるのは、受講者の上司になります。
具体的にどのようなことを意識するべきか・行うべきかという詳細はこのあと述べますが、そもそも部下に「現場で活用して成果が上がるようなことを研修で学んできて欲しい」と期待することが上司の役割でもありますし、ということは、研修で学んできたことが「現場で活用されているか」「成果につながる行動として実践されているか」ということに関して興味関心を持ち、それを促すことも上司の役割として求められます。
研修「前」の工夫について
ここからは、具体的な工夫の内容について見ていきましょう。まずは、研修の前段階で工夫するべき点についてです。
工夫するべきことを、研修の関係者の観点で整理した図が、以下になります。
まずは、受講者のところから見てみますと、事前の段階でも課題やインプットに取り組むことが大事であると言われています。研修の意欲を高めるという意味合いもそうですし、このあとに出てくる研修当日に、限られた時間の中で、研修講師と受講者の関係や受講者同士の関係で双方向的に運営する(参加型で運営することができる)ことが理想的であり、インプットなどは可能な限り事前に行っておいたほうがよいと思います。
ただし、闇雲に課題を出せばよいかというと、もちろんそういうわけではないので、事前課題に関しての細かい工夫については、以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ideapoint.co.jp/column/column094/
事務局・研修講師のところを見てみますと、上から3つの項目は、研修の設計のところで工夫するべき点になります。おそらくこのあたりは、意識できている企業が多いのではないかと思います。意識できていない、もしくは、なかなか工夫できていない点が上から4つ目・5つ目の項目あたりではないでしょうか。
この点は、受講者の上司とも関係してくるところなので、事務局・研修講師だけではないのですが、重要な点になります。研修の設計の段階で、事務局(人材育成担当)が受講者の上司にどう働きかけるかということを検討しておくことが重要ということです。事務局が受講者の上司に働きかけるとよいことについては、以下の記事で詳細が書かれておりますので、こちらも参考にしていただければと思います。
https://ideapoint.co.jp/column/column050/
上記も含めて、受講者の上司のところを見てみますと、理想的には、受講者の上司に研修設計そのものに参加いただければよいのですが、なかなかそうはいかないと思いますので、忙しいマネージャーに現実的にどこまで関わってもらうかは頭をひねる必要があります。少なくとも、受講者の上司が研修の目的・内容を理解し、受講者本人に対して、「今後、●●ということ(成果)を期待しているから、そのために、▲▲ということを学んできて、現場で活用して欲しい」という期待を言葉にして伝えることが重要だということです。
研修「当日」の工夫について
続いて、研修当日に工夫するべきことを整理した図が、以下になります。
研修当日は、当たり前ではありますが、事務局・研修講師が工夫するべき点が多いです。
事務局・研修講師のところを見てみますと、研修前の受講者のところで記載したように、研修を設計するタイミングにも関わってくるところで、研修講師と受講者、受講者同士が、双方向で参加型の研修を運営することが重要になります。また、研修効果の評価について記載したように、「現場で活用される」「成果につながる行動として実践される」ことが重要ですので、
・現場で活用できそうな場面がどこか
・研修後、実際にどのような行動を行うか
ということを受講者に研修中に考えてもらう時間を設けて、研修の最後に、「お、なんだか、現場で学んだことができそうだ」という気持ちにして送り出してあげることが必要になります。
もちろん、受講者ご本人にも、現場でどう活用できそうか、ということを意識しながら、研修を受講してもらう必要がありますし、現場での活用のイメージがわかないようであれば、研修講師に対して、「こういう場面では、どのように活用するとよいか」という質問を行う積極性が大事になります。
研修「後」の工夫について
最後に、研修後に工夫するべきことを整理した図が、以下になります。
受講者のところから見てみますと、現場で実践しようとする意欲をもって、学んだ内容が分からなくなったら、資料を見直すということが重要になります。
この内容は、至極当たり前かと思います。しかしながら、受講者も人間ですので、ずっと意識することが難しい場合もあります。そこで、事務局がサポートできることとして、現場での実践や資料の見直しなどを促すということがあります。(この点は、事務局・研修講師のところに記載されております)
また、一方で、受講者に過度な負担を強いるようなことが行われていないでしょうか。既出の以下の記事にも書かれておりますが、研修後に、受講者に報告書を書かせるなど、受講者の負担が大きすぎないか、といった点については、注意を払う必要があります。負担多くやらせればよいというものではないですし、受講者の上司も、全部細かく知ることは時間の制約などから難しいため、追加で何か作業を行ってもらうようなことは余程の目的があって設定されない限り避けたほうがよいでしょう。
https://ideapoint.co.jp/column/column094/
事務局・研修講師のところには、上から3つの項目は、上記の「受講者への促し」の施策が記載されております。研修後も事務局が受講者を手厚くサポートする、しっかり追っかけを行うということではなく、一本連絡するというだけでも効果があると言われております。
最近では、LMS(Learning Management System)を導入されている企業が増えてきましたので、業務で忙しい事務局の方々が、ITの機能を上手く使って、労力をかけすぎないで学びが薄れないように工夫していただくことが重要です。また、上から4つ目・5つ目の項目は、手厚くサポート、追っかけを行うことができる例として(ここまで実施できる企業は少ないですが)、
・研修後に再度集まって「再トレーニング」
・研修後の「実践目標」を電話で数ヵ月間フォローするという「電話コーチング」
が挙げられます。実行するにはかなり労力がかかる内容にはなりますが、選抜者を対象にした場合に行われることが多いように感じます。
受講者の上司のところを見てみますと、部下が実務で学んできたことを活用することを期待して、そのような機会をつくる、促すということが重要とされていますが、意外とできていない上司が多いように見受けられます。活用する意欲の高い企業では、部下とのコミュニケーションが密で、実務での活用を促したり、さらに意欲的な企業では学んでいただいた内容を活かして配置まで行ったりする企業もあります。
部下が学んできたことを活用するように促す場としては、1on1の場を有効に使うことがよいでしょう。導入する企業が増えている1on1ですが、そもそも1on1は、部下が自ら考え、能動的・自律的に動くことができるように、上司が部下に対して内省を促したり、考えの整理を支援したり、精神的な面のサポートを行ったりする場なわけですから、「学んできたことを、どう活用するとよいと思うか」という問いかけを行うことが有効です。
学びにはサポートが必要
人は、皆が精神的に強いわけではないため、「自ら積極的に学んで、忘れずにずっと意識して実践し続ける」ということは、難しいことです。研修で学んだのだから、理解しているでしょ、活用できるでしょ、と求めることは、なかなか酷なことでもあります。
受講者が学び、且つ、それを現場で活用できるようになるまでには、研修の場だけでなく、何かしらのきっかけ、何かしらのサポートが必要だということです。
研修講師が工夫することは当たり前として、人材育成担当の方が受講者に働きかけることも大事になります。とは言え、人材育成担当の方が全てを見切ることは難しいので、現場の上司を巻き込んでいくことも重要になります。
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