破壊的イノベーションとは?持続的イノベーションとの違いや事例を紹介

「破壊的」イノベーションは、「持続的」イノベーションと対になる考え方で、比較的新しいイノベーションの概念と言えます。

すでに存在する製品の品質向上を目指す「持続的イノベーション」に対して、破壊的イノベーションでは既存の概念を打ち破ることを重視します。

今回は、シュンペーターのイノベーション理論について、定義や実践方法などを具体的に解説します。

目次

1.破壊的イノベーションとは

破壊的イノベーションとは、市場のルールを根底から覆して、既存の市場を破壊することで新たな価値を提供するタイプのイノベーションを指す言葉です。

ハーバード・ビジネス・スクールの教授だったクレイトン・クリステンセン氏が、1997年に自身の著書である「イノベーションのジレンマ」 で提唱したイノベーションモデルがもとになっています。技術革新や画期的なアイディアによって業界の構造そのものを変化させることを目指します。

例えば音楽業界では、生演奏がレコードになったところからイノベーションが始まり、テープレコーダー、CD、そして、今日のスマートフォンで音楽を楽しむ形へと変化しています。安定した市場を「破壊」し、新たな市場を創造することが破壊的イノベーションの意味するところです。


2.持続的イノベーションとの違い

持続的イノベーションとは、既存製品の性能を徐々に向上させるタイプのイノベーションのことです。テレビが白黒からカラーに変わり、ハイビジョンへと変化していったのが継続的イノベーションのわかりやすい例といえるでしょう。「テレビ」という製品そのものは変わっていませんが、機能が徐々に向上しています。

すでに収益性の高い市場が形成されていることから、イノベーションを起こすリスクが低い点が持続的イノベーションのメリットといえます。しかし、破壊的イノベーションによって新たな市場が生まれると、事業そのものの継続が難しくなるのが持続的イノベーションのデメリットです。


3.破壊的イノベーションが生まれた背景となった「イノベーションのジレンマ」

既存事業に注力するあまり、新たな価値の創造や市場開拓の機会を逃してしまうことを「イノベーションのジレンマ」と呼びます。

多くのプレイヤーが、既存製品の性能を徐々に向上させる持続的イノベーションに取り組んでいるうちに、顧客にとって必要な機能以上の機能を提供する「オーバースペック」の状態に陥ります。そこに、全く異なる分野のプレイヤーが参入し、機能は劣っているものの、異なる価値を提供することで、既存の市場を破壊してしまう「破壊的イノベーション」が起きます。

通常、既存企業は既存製品の機能向上に努めます(持続的イノベーション)。将来的に「破壊的イノベーション」が起こる可能性はある一方で、それを自身で行ってしまうと自社の市場が大きく失われてしまうことになり、このジレンマ(どちらか一方を選択するともう一方に不都合が起きること)に陥ってしまいます。

イノベーションは本来、アイディア次第で、いつでも誰にでも起こせるチャンスがあるものです。しかし、イノベーションには革新的な技術や製品が必要という考え方が未だに根強いのが現実です。技術革新にこだわると既存の事業に依存することになり、「持続的イノベーション」に留まってしまうでしょう。

変化のスピードが速くなっている昨今の世の中においては、持続的イノベーションを継続しながら破壊的イノベーションも目指すという考え方が重要になります。


4.破壊的イノベーションの種類

破壊的イノベーションは、方向性によって次の2つに大別できます。

ローエンド型破壊的イノベーション

「ローエンド」とは「低性能・低価格」のことで、既存の商品やサービスよりもシンプルで安価な商品・サービスを提供するのが「ローエンド型破壊的イノベーション」です。

大企業よりも新興企業が得意とするタイプの破壊的イノベーションで、100円ショップが典型的な例といえます。低価格帯の商品で幅広く消費者を取り込み、そこからハイエンドな高価格帯の商品を展開していく戦略を取ることも可能です。

新市場型破壊的イノベーション

新市場型破壊的イノベーションとは、既存の市場に新たな技術やアイディアを持ち込むことでイノベーションを起こすことです。

例えば、「ポケモンGO」は、ゲームという架空の世界を現実世界と結び付けた新市場型破壊的イノベーションと考えることができます。0から1を生み出すのではなく、プラスアルファの発想によって新たな価値を生み出している点に注目しましょう。


5.破壊的イノベーションの企業事例

ここでは、破壊的イノベーションの企業事例をいくつか紹介します。

Apple

Apple社の「iPhone」は、コミュニケーションのためのツールだった携帯電話に、インターネットをプラスすることでイノベーションを起こした事例です。「スマートフォン」という新たな市場を創造し、パソコン市場にも大きな影響を与えました。

UNIQLO

UNIQLOは、日本におけるファストファッション業界のパイオニアです。アパレル業界では、よりハイエンドな顧客に向けてデザイン性に優れた商品を開発することが重視されていました。しかし、UNIQLOは、消費者が必要最低限の機能を兼ね備えた低価格の服を求めていることにいち早く気付き、ローエンド型破壊的イノベーションを起こすことに成功しました。

iRobot

iRobot社が開発したロボット掃除機の「ルンバ」は、新市場型破壊的イノベーションの典型的な例です。「掃除機は人が操作するもの」という既存の概念を打ち破り、ロボットが勝手に掃除をしてくれるという画期的なコンセプトを開発しました。

Airbnb

Airbnbは、一般住宅を活用した「民泊」という考え方を宿泊業界に持ち込むことで、イノベーションを起こしました。Airbnbが手掛ける一般住宅の宿泊予約システムの誕生は、宿泊業界にとって大きな衝撃となりました。

タタ・モーターズ

インドのタタ・モーターズが発売した「タタ・ナノ」は、日本円換算で約22万円という世界最安の車です。ドアミラーは運転席側のみに設置し、ワイパーを1本にするなど徹底的にコストを抑えることで、業界の常識を打ち破る価格帯を実現しました。

「タタ・ナノ」のクオリティにはまだまだ改善の余地があるといわれています。しかし、タタ・モーターズのような新興企業によるローエンド型破壊的イノベーションは、大企業にとって将来的な脅威になる可能性が大いにあるでしょう。


6.破壊的イノベーションを起こすコツ

ここでは、破壊的イノベーションを起こすコツを見ていきましょう。いずれも、視点を変えるだけで取り入れられるアイディアばかりです。ぜひ参考にしてください。

消費者の潜在的なニーズを探る

破壊的イノベーションのもとになるのは、消費者の潜在的なニーズです。例えば、UNIQLOは、「そこそこのクオリティの服を安く買いたい」という消費者のニーズを形にすることで成功しました。

既存の概念にとらわれず、消費者が本当に求めていることを探ってみましょう。そのためには、感性的な気付きからヒントを得て、試行錯誤しながら発想していく「デザインシンキング」という考え方が重要です。デザインシンキングについてはこちらの記事をご覧ください。

機能とは別の価値を提供することを意識する

顧客に提供する価値を考える際に、機能ではなくデザインや顧客体験といった「顧客満足」に着目することも破壊的イノベーションを起こすコツです。

以前から行われてきた継続的イノベーションによって、すでに過剰といえるほど品質が高まっている商品やサービスも数多く存在します。大半の消費者が求めるレベルの性能を上回る商品やサービスの需要は、ある時点で頭打ちになり、売り上げも伸びなくなってしまいます。

すでに販売している商品のデザインを変えたり、顧客の購買体験のプロセスに新しい価値を加えたりすることで、機能とは別の価値を見出すことを意識してみましょう。

世の中の変化に対して敏感になる

世の中の変化のスピードが速くなり、VUCA時代(不確定要素が多く先が見通せない時代のこと)と呼ばれる時代では、商品やサービスが生み出されてから売れなくなるまでの「プロダクトライフサイクル」も短期化しています。

マーケティングや製品開発の担当部署だけがイノベーションを起こしていたのは、もはや過去の話といえるでしょう。イノベーションは、いつでも誰にでも起こせるという意識を組織の各メンバーが持ち、世の中の変化に対して敏感になることが重要です。

7.破壊的イノベーションは身近なところから起きる

破壊的イノベーションには、既存の業界を根底から覆すような力があります。しかし、「革新的な技術開発や壮大なアイディアから生まれるもの」という考え方は少し違うかもしれません。

組織にいる全員が、目の前にいる消費者のニーズに目を向けることができれば、何かしらの気付きにつながります。それこそが、破壊的イノベーションにつながる一歩となるでしょう。世の中の変化に目を向け、消費者のニーズを掘り起こし、新たな価値を提供する方法を考え続けることが重要です。

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