デザインシンキングのようなゼロからイチを生み出す工程は、自由な発想でアイディアを創出することから始まります。アイディアを出したらそれを分類して「見える化」し、収束させるというのが一連のプロセスです。
(デザインシンキングについては、こちらの記事をご覧ください。)
しかし、デスクの前にいるだけではアイディアは生まれません。頭と身体をフル活用して感性を豊かにし、周りの人と共有することが大切です。
その過程で役立つのが、思考のフレームワークです。デザインシンキングに活用できるフレームワークや発想技法にはさまざまな種類があり、活用できるシーンも異なります。
今回は、デザインシンキングの工程に沿って、活用したいフレームワークをいくつかご紹介します。ぜひ、アイディア創出や観察・フィールドワークなどで実際に使ってみてください。
1.イノベーション創出のプロセス
個別のフレームワークを見ていく前に、イノベーション創出のプロセスを確認しておきましょう。
イノベーションは、「アイディエーション(発想)」「観察・フィールドワーク」「プロトタイピング」を行ったり来たりしながら進んでいきます。
言い換えると、「アイディアをより多く創出して分類する」「物事を観察・体験して確かめる」「形にする」というプロセスになります。
フレームワークや発想技法は、その過程で試行錯誤しながら情報を整理するのに役立つのです。
次章から、各ステップで活用したいフレームワークや発想技法を紹介していきます。
2.デザインシンキングで活用したいフレームワーク、発想技法【アイディエーション編】
ここでは、「アイディエーション(発想)」のフェーズで役立つフレームワークや発想技法を紹介します。
ブレインストーミング
ブレインストーミングは、マーケティングなどの現場で多く取り入れられている手法で、アイディアを大量生産するための発想技法です。1つのテーマに対して複数の参加者がアイディアを出し、ときには人のアイディアに乗っかりながら、新たなアイディアを生み出していきます。
ブレインストーミングのメリットは、いつでもどこでも実践でき、特別なテクニックがいらないところです。アイディアは質よりも量を重視し、人のアイディアを批判せずポジティブに受け止めることが大切になります。
親和図法
親和図法は、情報をグループ分けして、意味を可視化するためのフレームワークです。
複数のアイディアが出たら、情報の意味が近いものをカテゴリ分けして名前を付けます。
具体的な流れは、次の通りです。
- ブレインストーミングなどでアイディアを創出する
- チームで議論しながら、意味の近さ(親和性)にもとづいてカテゴリ分けする
- それぞれのカテゴリを端的に表す名前を付ける
- グルーピングの過程を振り返りながら全体を俯瞰する
- 視点を変えて何度もグルーピングを繰り返す
構造シフト発想法
構造シフト発想法は、発想を「ずらす」ためのフレームワークです。
アイディアを生み出すうえで、常識や定説、固定観念といったバイアスは自由な発想の妨げになります。それらの概念自体をシフトすることで、全く新しいアイディアを生み出すことを目指します。
具体的には、親和図法などの可視化ツールを活用してアイディアの全体像をとらえ、全く別の分類にしてみたり、属性の評価を反転させてみたりということを試みるのです。
元のアイディアの位置付けを大胆に変え、新しい発想に変えていくのが構造シフト発想法の基本的な考え方です。
バリューグラフ
バリューグラフは、目的や意味を可視するためのフレームワークです。既存の製品・サービスの目的や価値を構造的に可視化し、「なぜそうするのか?」という問いを発することで上位の価値を探すことを目指します。
問題解決においては、その背景よりも、コンセプトや解決策といった問題解決へダイレクトにつながるアイディアが好まれる傾向があります。しかし、「そもそも本質的な目的は何か?」と問い直すことで、視野を広げることができるのです。
上位の目的が見つかれば、逆方向にその目的を「どのように実現できるか」が見えてくるでしょう。
CVCA(顧客価値連鎖分析)
CVCAは、検討の対象となる会社や組織が、「誰と」、「どのような価値をやり取りしているのか」というバリューチェーンの視点で、それらの関係性を可視化するためのフレームワークです。
アイディア創出の初期段階で、「この人(企業)にとっての価値は何か?」を検討することにより、ビジネスモデルの原型をデザインします。
CVCAは新製品開発や新規事業開発に役立つフレームワークですが、自社のビジネスモデルの分析にも活用できます。
ピュー・コンセプト・セレクション
ピュー・コンセプト・セレクションは、候補になっている複数のアイディアを定量的に比較し、それぞれの特徴を把握するためのフレームワークです。
具体的な手順は、次の通りです。
- いくつかのアイディアを表の1列目に並べ、その中の1つを規準(DATUM)にする
- 比較を行う項目(評価軸)をチームで検討する
- DATUMとその他のオプションを1対1で比較し、評価軸の項目ごとに検討する
DATUMよりも優れている場合は「+」、同等であれば「S」、劣っている場合は「–」とする - オプションごとに「+」「S」「–」の数を合計する
- DATUMを変更して比較を繰り返す
このとき、変化の評価に注目する - オプションや評価軸の組み合わせを変え、修正を加えて比較・評価を繰り返す
3.デザインシンキングで活用したいフレームワーク【観察、フィールドワーク編】
次に、観察、フィールドワークのフェーズで役立つフレームワークを紹介します。
フィールドワーク
フィールドワークは、教室や会社を飛び出して相手の活動の現場に出向いて行う調査・研究です。
フィールドワークの目的は、相手が直面している問題や課題の現状を主観的に経験することです。共感の意識を強く持ち、イノベーション創出に向けたインサイトを得ることを目的とします。
即興劇(インプロビゼーション)
即興劇は、体験を通して相手の心をつかむための方法論です。
発表の場でスキット(寸劇)などを演じて、自分の体験を相手にわかりやすく共有します。演者自身も、即興劇を通じて製品・サービスの特徴や効果を実感でき、アイディアの改善につなげられます。
4.デザインシンキングで活用したいフレームワーク【プロトタイピング編】
最後に、観察・フィールドワークのフェーズで役立つフレームワークを紹介します。
イネーブラー・フレームワーク
イネーブラー・フレームワークは、「意味のある多視点」を見つけるためのフレームワークです。
あるシステムの全体像を正しく理解するためには、その対象を複数の視点から多角的にとらえる必要があります。しかし、いくら視点を増やしても、それが意味のある視点でなければ実行可能なシステムのデザインにはつながりません。
イネーブラー・フレームワークは、確実に機能する「意味のある多視点」を見つけ出すための枠組みです。「上位の視点を実現するのはどういう視点か」というイネーブラー(実現子)の関係に着目して、考えるべき多視点を決めていきます。
例えば、土地がないと家は建てられません。この場合では、「土地」が家を実現するためのイネーブラーとなります。
WCA(欲求連鎖分析)
WCAは、人々の欲求という観点から、ビジネスモデルや社会システムの分析・設計を行う技法です。
米国の心理学者アブラハム・マズローが定義した「欲求5段階説」にもとづいて、欲求を次の5種類に分けます。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
さらに、それらの欲求を満たすことが利己的な行為か利他的な行為か、さらには、自分が満たすのか他人が満たすのかという視点を交えながら欲求の連鎖を多角的に分析します。
プロトタイピング
プロトタイピングは、アイディアを形にするための方法論です。
一般的にプロトタイピングは、製品の試作を意味しますが、デザインシンキングでは、より多様な目的でプロトタイピングを活用します。
- 作ってみることでアイディアを実感し、よりよくする
- 顧客やユーザー、メンバー間で共感を得る
- 最終的な製品やソリューションを検証する
ストーリーテリング
ストーリーテリングは、「物語」で共感を引き出すためのフレームワークであり、直感的なフィードバックを得たいときに有効です。
アイディアやコンセプトを具体的なストーリーに変換し、話して聞かせたり、演じたりすることで、チームのメンバーやオーディエンスと共有します。
プレゼンテーションに比べてメッセージがダイレクトに伝わりやすく、共感が得やすいため、相手の率直な反応を確認できるのが利点です。
5.フレームワーク、発想技法を活用するポイント
ここまで、さまざまなフレームワークや発想技法を紹介してきましたが、手順やルールにとらわれすぎないことがフレームワークをうまく活用するポイントの1つになります。各チーム、企業に合ったフレームワークの活用方法を、試行錯誤しながら探していきましょう。
また、1つのフレームワークに固執せず、さまざまなフレームワークを試してみることも大切です。「アイディエーション(発想)」「観察・フィールドワーク」「プロトタイピング」を行ったり来たりしながら進んでいくイノベーション創出の過程で、意外なところで想定外のフレームワークが役に立つかもしれません。
6.フレームワークや発想技法は「覚える」よりも「体験すること」が大切
デザインシンキングには、感覚的な概念も多く含まれます。目に見えないものを分類し、道筋を見出すために、フレームワークや発想技法をどんどん活用しましょう。
集まったメンバーでフレームワークや発想技法を活用することでオリジナルの使い方が発見できます。その過程を通じて、フレームワークが形だけのものではなく、体験を通じて身につけていくものだと実感できるようになります。
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