観察の手順は理解できたが、具体的に、「いつ」、「何を」、「どのくらいの期間」観察すればよいのか?
当社のデザインシンキング研修では、事前アンケートを実施して受講者が学びたい点や疑問点について予めお伺いします。特に、事前学習としてe-Learningの受講を選択いただいた場合は、「e-Learningを受講してみて不明な点やもっと学びたい点がありますか?」と確認のうえ、アンケート結果を講師に共有します。講師は予め受講者の疑問点が分かった状態で研修を開始します。
今回はそのアンケートにお寄せいただいた質問のうち、「デザインシンキングにおける「観察」はどのようにやったらよいのでしょうか?」というご質問について書いていきます。基本的な考え方は以下の通りです
- 「なぜ観察を行うのか?(目的)」を言葉で説明できる状態にするとことからスタートする。これにより『誰が何をしている』ときに観察しなければいけないのかが決まる
- 基本となる観察対象は「ユーザー」や「消費者」。観察対象者が「使っている場面」、「購入している場面」を観察することが基本。観察対象者だけが決まっているケースではその人の生活や何か困っていること(課題になりそうなこと)を観察するとよい
- 上記をベースにして、「いつ」、「どこで」、「どのくらいの期間」観察するのかは、できるだけ『広め』にしておくのがおすすめ。仮説を検証するため(自分の考えが正しいことを確かめるため)の観察ではないので、可能な限り自由度は高くしておくのがよい
- 最終的には、現実的に確保できる時間や手配できる範囲で観察を実施する
当社のプログラムにおける「観察」について
ここで、当社のデザインシンキング研修における「観察」について触れておきます。簡単に言えば、「ユーザー」や「消費者」を対象として観察し、観察対象の動きや、場合によっては観察対象者自身の無意識の行動を拾い上げ、概念化し、そこから得られる気づき(「Insight」と呼んでいます)から潜在的なニーズを導き出します。ここでのポイントは下記です。
- 「事件は会議室で起こっているのではない!現場で・・・」の「現場」を重視している
- 「数値」ではなく「言葉」で表現してみる
- 観察対象者のありのままの姿を正確にとらえることが最も重要
可能な限り『自由度を高く』観察できるとよいが、『目的』と『観察対象』は具体的に決めておくこと
「自由度が高い」と書きましたが、一方で、これは「やりたい放題」という意味ではありません。「目的」と「対象」を事前に明確に決め、説明できる状態で取り組みましょう。
目的と対象について、きちんと説明できる状態にし、また一定の枠組みを理解できるのであれば、その範囲内で自由にケースバイケースで臨めばよいでしょう。まずは広く大きく。いきあたりばったりでも構わないので、興味のおもむくままに観察を開始し、「気づき」を得ていけばよいのです。
観察者は客観性を確保して、「観察対象者には関与しない」のがルール
観察特有の注意点として、「観察対象に関与しないこと」が挙げられます。観察の場合は可能な限り「相手の環境を邪魔しない」「気づかれない」ようにするのがポイントです。「ありのまま」の行動からニーズを導き出したい、観察対象者が観察者側を変に意識するのは避けたい、という意図です。ちなみにインタビューの場合だと、必ずしも観察対象者が本音を語るとは限りませんし、観察対象者本人も無意識に本音とは違うことを語ってしまうこともあります。
また、観察対象者にとって失礼になったり、危害を加えることにつながってしまう、という点にも注意が必要です。観察者の身の安全、公序良俗に反するかどうかも、きちんと確認してから臨みましょう。
観察を通じて新たな『示唆、気づき』を得る
前回も記載しましたが、当社のデザインシンキング研修は一貫して「慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科」のコンテンツを柱としております。「観察」では、講義に加えて実際に観察を行うワークを設定しています。このワークでは、観察対象者の無意識の行動を探る疑似体験を得るようにしてあります・・・・(これから当社のデザインシンキング研修を受講される方にとってネタバレとなってしまうため、ここでストップします)
受講者のリアクションを総合しますと、「予想以上に様々なことを観察できた」「自分でも気づかなかったが無意識に〇〇していた」「Insight(示唆)を導き出すのが難しい」といったものが多く、いわゆる「調査」と呼ばれるものについてよく考えるきっかけになっているようです。
「見ているようで、見ていない」ことは意外と多い
「三現主義」という言葉があります。実際多くの人々が「現場が重要だ」と語っています。しかしその「現場を観る」レベル感はまちまちであり、ひょっとすると少し見ただけで現場を知った気になってしまう人や、先入観をもって観察し、自分の理論を支える事象だけを見てしまう(「見たいものだけを見る」)場合もあるのではないかと思います。
デザインシンキングにおける観察は、高い自由度はありつつも恣意性を排除して、ありのままを観察することを重視しています。本気でじっくり現場を観察しないと炙り出されないことにInsightがあり、それを商品やサービスに活かしていくことがデザインシンキングの醍醐味でしょう。
参考図書:小田博志 著、『エスノグラフィー入門』、2010年、春秋社
本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社アイディアポイント
企画開発部