集合形式復活後の動向

東京では4回目の緊急事態宣言が発令されてしまいましたが(このコラムは20217月中旬に書いています)、つい先日までは集合形式の研修がチラホラ復活していました。2020年前半にあちこちで交わされていた、「やっぱり研修は実際に会った方がいいよね」「対面でないとできないね」という声は、「オンライン研修の一般化」と、その後の「集合形式復活」という段階を経て、現在どのようになっているのでしょうか。事例を交えてご案内していきます。


目次

コロナ後約1年半を経過した、現在の動向~当社から見た現状

当社で実施している研修等における、各関係者の発言やコメントをもとに考察します。

<受講者の様子>

  • ZOOM等の操作について「不慣れだ」といったコメント等は、もうほとんど見かけない / 聞かない
  • スキルもアップしており、研修中にZOOMの操作について講師や事務局がコメントする場面はほとんどなくなった。ZOOM等の操作を覚えたり、使ったりすることが「面倒くさいこと」「飛びつき幅があること」ではなくなっている
  • 「スキル系かつ単発の研修」においては、「実際に対面で会いたい(集合形式でやりたい)」という声や、アンケートへの記載はほとんどない
  • 「ブレイクアウトルームでのワーク中、隣のグループが何をやっているのか気になるのですけど、見えないのが残念」という声が徐々に減少し、最近ではほぼ聞かれなくなってきた。「他のグループを気にせずワークに集中できる」といった、むしろポジティブな声も出始めている
  • 「交流を目的とした研修」や「数日間にわたる研修」では、「実際に会いたい」という意見は残っている

<研修事務局(企業様側の研修窓口)の様子>

  • 「本当は集合形式で実施したいのだけど、状況が状況ゆえに仕方ないからオンラインにしましょう」という声は減少。但し、一部にまだ存在している
  • 「遠隔地からの受講者も参加できる」など、オンライン形式のメリットに目が向きはじめている
  • 集合形式かオンライン形式か、ギリギリまで見極められない」「延期」といった「形式を決められない」という状況はほぼ見られなくなってきた
  • 交流系の研修では、「なんとかして実際に(受講者同士を)会わせてあげたい」という意向が強い

<講師の様子>

  • オンライン形式の研修を依頼しても、「できれば対面でやりたい」と言わなくなってきた
  • 通信トラブルという懸念はあるものの、移動手段によるトラブルは回避できるため、概ねオンライン研修に対してメリットを感じている模様
  • 受講者イジリ(造語。受講者に、いくつか雑談っぽく声を掛けて距離を縮める手法)を得意とする講師は、オンラインだと少し寂しそう
  • 研修終了後の懇親会を楽しみにしている講師は、オンライン懇親会を設定しても少し寂しそう

『慣れ』『スキルアップ』で解決できたこと

総じて、世の中全体のオンラインを通じたコミュニケーションに対する意識が変化して、それに伴いオンライン形式の研修に対する捉え方が変わり、社会的なコンセンサスとなっているようです。同時に、受講者も事務局も講師も、それぞれオンライン形式の研修に対する経験、知識、情報が増加し、つまり慣れてスキルアップしているようです。この「社会的コンセンサス」と「『慣れ』『スキルアップ』」の両輪が回りつつ相関しているため、オンライン形式は今後も継続することはほぼ間違いないと考えています。


それでも『リアル』の世界に残ったもの

この環境下でもあえて集合形式の研修を行う場合は、「交流を目的とする」とか、「長期にわたる研修のDay1や最終日のみ」といったように、しっかりと目的・意図をもって開催されている場合が多くなってきました。つまり、「集合形式を実施できないから、仕方なくオンラインで研修をやる」という考え方が減少し、明確な目的と意図のもと、『集合形式』を敢えて選択する」という傾向になっていると考えています(※)。

それに伴い、「開催方式について悩む時間」「会場の確保 / キャンセル / 調整」「受講者の移動に関する費用はどうしよう」といったことを、全ての研修に対して検討しなければならないという問題は解消されました。

ただし、「とにかく実際に会いたいね」と主張される勢力は根強く残っております。余談ですが、この勢力が研修開催の意思決定にかかわっている場合、例えば「●●宣言」等の行政の動向次第で、「開催 / 延期 / 中止」の判断が流動的となります。「最初に意思決定に関するルールを決めてしまえばいいのに」と思いつつ、研修ギリギリまで「やるの?やらないの?」とハラハラすることになります。

※「交流したい(受講者)」と「交流させたい(事務局)」は主語が異なりますので、注意が必要です。たまにこれらが混乱していて、オンラインでも十分な研修に対して「交流させたい」という事務局の意図が強く働き過ぎることもあります。


当社が集合形式の研修において実践してきたワーク例(リアルならでは、リアルでしかできない)と感じたもの)

ここで、当社がこの1年半の期間に、「わざわざ意味と目的をもって集合形式で実施した研修」において、「わざわざ組み込んだワーク」について、実例をご紹介します。」

せっかくの集合の機会なので、集合形式の良さを皆が痛感するようなワークを選び抜きます。以下は、特に効果的だったワークです。

  • マシュマロチャレンジ・・・一部業界では有名ですが、チームワーク、リーダーシップ、グループ全体の考え方や行動のクセなどが如実に分かるワークであり、ワークの目的達成のために全身を使います。<ご参考&ネタバレ注意:https://www.youtube.com/watch?v=H0_yKBitO8M&t=295s
  • ワールドカフェ・・・偶然の出会いからの対話、頻繁に移動しながら対話メンバーを流動化、メンバーの筆跡のクセまで分かる、などという点は集合形式に適していると思います。オンラインの場合は、ブレイクアウトルームで「全員を共同ホストに設定する」など、工夫することにより実施できますが、「カフェでの雑談感」は出しにくいと感じています。なお、おのワークの未経験者に対して、オンラインでルールや運用を説明しきるのは意外と大変でした。
  • 休憩時間&研修後の時間・・・これは厳密にはワークではありません。しかし、ひと段落ついて、受講者同士で一緒にトイレに行く途中に生まれる連帯感。自販機に向かう道すがら、また喫煙室で生まれるフランクな会話など、中々馬鹿にできません。休憩時間に慌ててメールを確認したり、携帯で電話したり、ということもあるのでしょうが、せっかくの集合形式の場合は、休憩中もフルに活用すると、目的に近づきやすいです。
  • 因果関係ループ図・・・システムシンキングの研修で実施します。課題の因果となる要素を書き出して、それら要素間の関係を図示していくワークなので、どうしても「直筆で矢印を繋げる」方が楽なのだと思われます。

いくつか書きましたが、逆に言えば上記以外はオンライン研修でも十分効果を発揮したと思われます。

デザイン思考研修におけるプロトタイピングも、「画面を通じてワークは可能なの?」といったご質問をいただきますが、特段問題なく実施できています。

今のところ、「交流を目的とした研修」以外は、オンラインでも十分に対応できるのではないか、という仮説です。


最近取り組んでいるオンライン形式で交流効果を高める工夫

オンライン研修でも「交流効果」を高められるワークがあります。それは・・・「自己紹介」です。「え?そんなもの?」と思うかもしれません。いわゆる「自己紹介」なのですが、少し工夫すると本当に優秀なワークとなります。

手順は次の通り。まず事前に受講者に写真付きの自己紹介シートを作成してもらい、それを事務局が全員分マージして配布します。受講者は各受講者の自己紹介シートをアルバムのように見て、当日に臨みます。自己紹介ワークが始まったら、発表者が自分のシートを画面投影しつつ、発表します。

当たり前すぎて恐縮ですが、1日(または数日)一緒に研修に臨むメンバーのキャラクターや経歴を知ることは、相互理解において非常に重要です。最近ではわざわざ「長めの自己紹介」と称して、たっぷり時間をとる場合もあります。総じて好評です。

なお、自己紹介シートには色々な情報が掲載されているので、必然的に「質問」のネタの宝庫となります。実はこれが重要なポイントなのです。初対面の人や、なじみの薄い人と、ましてやオンラインを通じてワークを行う場合、最も回避したいのは「沈黙」です。自己紹介シートは、いわば質問が飛び交う状況を意図的に作り出す装置であり、これによって、自然に対話が生まれ、「沈黙」を回避することができるのです。

また、「写真」付きとしているのも意味があり、それなりに効果があります。文章以外の情報が「写真」であり、個性を出しやすく、質問・・・というか「ツッコミどころ」のバリエーションが増えると考えています。

交流を目的とした研修を実施したいが、どうしてもオンライン形式となる場合は、この自己紹介ワークをちょっと見直して、可能な限り冒頭の部分にじっくり時間を確保して取り組むことで、「会えない残念さ」を緩和できるかもしれません。ちなみに、このワークは集合形式でも効果大でした。


オンライン形式 / 集合形式 双方の新入社員研修を実施してみての発見

ここでひとつ興味深い発見を。今年度、オンライン形式、集合形式双方の新入社員研修の講師を担当しました。今年度の新入社員は、学生の時に既にコロナ(つまりリモート環境における講義やコミュニケーション)を経験しているため、オンラインによる新入社員研修に非常にスムーズに参加していました。

一方、集合形式を実施したらどうなったか。グループワークの際、まるで「ブレイクアウトルーム」内にいるかのように、「自分たちのグループワークに集中していた」のです。すぐ隣に他のグループがいて(注:一定のディスタンスはとっています)、隣のグループの話し声を聞ける状況にあり、また私(講師)が隣のグループにアドバイスを行っている声を聞ける環境なのに、そちらを気にせずグループでの論議に没入していました。

また、一定のグループワーク後にグループを解散し、「自由に入れ替わってよい」というワークを設けたところ、中々他のグループと積極的に交わろうとせず、元のグループのメンバーと固まる傾向がみられました。

オンラインが当たり前の環境で育つと、集合形式のメリットに気づきにくい(想像すらできないかもしれない)ということを暗示しているような気がします。極端な例なのかもしれませんが、興味深い事実でした。


まとめ : オンラインが「当たり前」になった時代の研修のカタチ

時は流れ、世の中全体が、程度の差はあれオンラインのメリットを理解し、納得し、体感し続けています。社会のコンセンサスが進み、慣れとスキルアップも進んでいきます。新入社員研修の事例のように、そのうち「リモート『しか』経験していない」世代がどんどん増加していくことでしょう。

同時に、オンライン環境では、特にブレイクアウトルームが一種のシェルターのようになるので、「一定レベルのモラルと意識を保つ」という前提が特に重要になります。

そんな時代の研修は、目的とゴールを明確化して、高いモラルと意識を所与のベースとしつつ、オンライン形式 / 集合形式を使い分け、「ベストミックス」を探っていくのが主流となり、そして定着すると考えています。「集合形式でできること / 強み」、「オンライン形式でできること / 強み」を丁寧に検証し、整理し、プログラムを構築して、効果を増大させることになっているのでしょう。

みなさんの身の回りで、まだ「昔に戻りたい」「コロナが落ち着いたら昔に戻しておけばいい」という声はありませんか?「集合形式で開催できないから、仕方ないからオンラインで」と言っている場合ではありません。

さて、1年後どうなっているでしょうか?環境が予想を超えて変化し、またその変化のスピードはとても速いので、よく注意しながら「ベストミックス」を探り続けたいと思います。

 本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームより連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

株式会社アイディアポイント
企画開発部

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